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巡(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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148『修学旅行・三日目・3(ささやきの小道)』

めぐり・型落ち魔法少女の通学日記


148『修学旅行・三日目・3(ささやきの小道)』   





 安倍晴天かと思ったオニイサンは一瞬しゃがんだかと思うと、それっきりになり、鹿の集団も磁石を遠ざけたパチンコ玉みたく結合が緩くなって、飛火野のあちこちに散っていった。不思議と、こっち側にやって来る鹿は居なかった。


 まあ、昨日からずっと鹿なんで、ちょっと飽きてもきてる。興福寺でいっぱい鹿煎餅やったしね。



「さあ、午後の部いこうか!」



 こちらも真知子の声でお昼を終えて出発する。


「あ、ささやきの小道ですぅ!」


 ロコが参道脇の道しるべを指さす。


「京都の哲学の小道と並んで、有名な散歩道なんですよ、ここを抜ければ志賀直哉旧居にも近いです!」


「ああ、そうね。哲学の小道には行けなかったし」


 たみ子の一言が続いて、道を南にとる。


 道幅はほんの二三メートル。それで両側は一メートルちょっとの土手になってて飛火野からは地続きなんだけど、丈の低い木がいい感じの密度で茂っている。ボンヤリ歩いてると、ただの林の中の道なんだろうけど、これは違う。


 林の中は草とか蔦はほとんどなくて、その気になれば林の中だって歩ける。以前、富士の樹海の動画を観たけど、木々は乱雑に生えているし、草も蔦もボウボウ。踏み込むとしたら、ちゃんと足もとを固め、鉈とか装備を整えなければ入れるもんじゃない。だから、人生をお仕舞にする目的で踏み入った人たちは道路からそんなに離れていないところで亡くなっている。


 でも、ここは意識して見れば分かるほどに整っている。


「真ん中に小川が流れてたら、南禅寺の……ほら、水路閣の奥のやつに似てるね」


 表現は違うけど、佳奈子が同じ意味のことを言う。みんな「ああ……」と半分景色に見惚れながら返事をする。


「盆景って知ってる?」


 たみ子がむつかしいことを言う。


「ボンケイ?」


 馬鹿なわたしは、クリラクガンの時みたいに聞いてしまう。


「知ってます! 本物の木や苔やらを使って、お盆や鉢植えの中に景色を作るやつですよね?」


「うん、お祖父ちゃんがやってたんだけどね……プ、ププ(〃艸〃)」


「え、なによ」


「盆景って、焼き物の人形とかを置いたりするんだけどね」


「ああ、その盆景の人形みたいなのね、わたしたち」


「なんだか、侘び寂びの世界ですねえ(^▽^)」


「でも、なんで噴き出すの?」


 すぐ後ろで笑われたせいか、少し不機嫌そうに佳奈子が振り返る。


「お祖父ちゃん、人形は信楽焼で揃えてたの」


「信楽焼がおかしいの?」


「あ、それってタヌキでしょ!?」


 三軒隣りの玄関わきに置いてあるのを思い出した。信楽焼と言えばタヌキだ!


「ええ、あたしタヌキなのお!?」


「ううん、ちょうどタヌキが五匹並んでるの思い出したから」


「そうか、全員ならいいか」


「そうだ……」


 リュックから文庫を取り出すロコ、どうやら、これがネタ本みたい。チラリと見えた拍子は岩波文庫! わたしは『ガガガ』とか『電撃』とかがヘッドにくるのしか読んだことない。


「ここいらの木は、みんなアセビですよ」


 アセビ?


 あんまり馴染みのない植物だ。


「冬から春にかけて、白い花を付けるんだそうです」


「ああ、それは見事かも」


「……あ、分かりました! アセビの実は鹿には毒なんで、鹿は寄り付かないんだそうですよ!」


「「「「ああ」」」」


 納得した、それで、ここいらには鹿が居ないんだ。


「でも、なんで、こんな林の中に鹿よけ?」


「この先の高畑ってところに、春日大社の祢宜たちが住んでたんですけどね」


「ネギ?」


「ああ、神社に仕える男の人で神主のいっこ下の役職」


 稚児舞をやっただけあって、たみ子はよく知ってるようだ。


「フフ、神のお使いでも、しょっちゅう付きまとわれたらかなわんということですねえ」


「うん、鮮やかな紅葉もいいけど、こういう地味な草木もいいもんね」


「ちなみに、アセビは馬酔木とも書いて、馬も苦手みたいです」


「え、馬と鹿が……」


「あ、馬鹿除けになるのかも!」


 プ( ´艸`)


「いま、特定の人物が浮かんだ人は反省しましょう!」


 

 馬鹿なお喋りをしているうちに、アセビの林もぬけて、文豪の旧居が見えて来た。


 


☆彡 主な登場人物


時司ときつかさ めぐり   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる

時司 こたえ         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉のすぐりになる

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)

宮田 博子ロコ         2年3組 クラスメート

辻本 たみ子            2年3組 副委員長

高峰 秀夫             2年3組 委員長

吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部

横田 真知子            2年3組 リベラル系女子

加藤 高明(10円男)       留年してる同級生

安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目

藤田 勲              2年学年主任

先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)

須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている

早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん

時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  

妖・魔物              アキラ      

その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)

灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  


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