144『修学旅行・三日目だけど二日目のこと』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
144『修学旅行・三日目だけど二日目のこと』
二日目の昨日は嵐山・嵯峨野を経巡って、お昼を挟んで京都御所と二条城だった。
バスを降りたら、まずは嵐山でクラス写真。
「え、直美さん!?」
びっくりした。ガイドさんに案内された撮影場所には、我が雇い主の直美さんがカメラを構えて待っていた。
「忘れてもらっちゃこまるなあ、うちは宮之森御用達だぞ」
直美さんは後半クラスに付いていたんで二日目まで見かけなかったんだ。
「東山界隈じゃ場所が無くてねぇ、最初から集合写真は嵐山って決まってたんだよ」
ああ、そうだろうねえ、あのあたりで撮れるのは平安神宮か丸山公園だろうけど、8クラス500人近くを待たせておけるスペースは無い。
「バスの都合で後半クラスからだけど、前半もすぐだから、そのへんに居ててね」
「はーい」
と返事しながらも佇んでしまう。他の子たちもそうなんだけど、松尾山、桂川とそれに掛かっている渡月橋、嵯峨野のお寺やお屋敷を一望にした中の島は絶景だ。
令和のここいらは京都どころか日本観光のメダマになっていて、インバウンドの外国人でいっぱい。昭和の嵐山は、賑わっているとはいえ、まだまだ余裕で、すっかり寛いでしまう。
「あ、六組……」
真知子が撮影準備の整った六組に目をとめた。
「「「「あ……」」」」
わたしたちも声が揃った。最前列でしゃがんでいる子が佐伯さんの写真を構えている。
そうなんだ、佐伯さんの命が助かったことは、まだ知らされていないんだ。
助かったとはいえ、元通りに回復するかどうかは未知数だし、やっぱりあの話は校長先生と教頭先生のところで停めてあるんだ。
何も言わないで三組の番がまわってくるのを待った。
「ほんとうは、お父さんが来るはずだったんだけどね……まあ、秋の関西も写真にはいい季節だからねぇ」
うちのクラスを撮り終えると、フィルムを巻きながらポツリと直美さん。
マスターは大正一桁生まれで、戦争で具合を悪くしたみたいで無理がきかない。まあ、だからこそ、わたしが雇われてるわけだけどね。
「まあ、わたしも楽しんでるから、グッチも楽しんできな」
「はい!」
というわけで、お仲間と一緒に嵯峨野散歩。
「大覚寺の方まで行くと空いてますよ」
ロコの提案で松尾山を左に見ながら北に向かう。
「左に行くと常寂光寺や野宮神社に落柿舎、見どころはいっぱいですが、人もいっぱいなんで、こっちが断然いいです!」
他のグループたちが左右に散っていくのは、ちょっと心細いけど、ロコの調査能力には一目も二目も置いているので安心して進む。
「ほら、あれです!」
「「「おお……」」」
わたしを除く三人がオッサンみたいな歓声を上げる。
「水戸黄門とかでよく出てくるよぉ~このへん~」
たみ子が小手をかざして首を振る。
「そうねぇ、時代劇の定番ロケーションだねえ」
「ねえ、このアングルなんて旗本退屈男!」
「眉間の傷が目に入らぬかぁ」
「よ、早乙女主人之介!」「市川歌右衛門!」
「ああ、もう、さっさと入りますよぉ!」
拝観料を払うと、清水寺とかとは違って靴を脱いで上がれる。
「ああ、なんか感激ねぇ、靴を脱いで上がれるなんて……」
「あちこちにお花が活けてあるょ~」
佳奈子が指差した方を見ると、廊下や、開け放した畳の部屋やらに素人のわたしが見てもイカシタ生け花がある。
「これ、計算されてるねえ……思わない?」
ナゾをかけるたみ子。
「え……あ、そうか」
真知子が納得するけど、他の三人は???
「あちこちにあるけど、視界に入るのは一つだけになってる」
「うん」
「「「あ、ああ」」」
「さすがに、嵯峨御流の家元ですぅ!」
ロコが感嘆の声を上げるけど、たみ子が言わなきゃ気が付かなかっただろうね。
理論家のたみ子や真知子が感覚的に感心して、感覚派のロコが後れを取るのは見ていて面白い。
「寝殿造りで言ったら渡殿だよね」
生け花に感心した建物から屋根付きの廊下かカギ状に向こうとあっちの建物に繋がっていて、女子高生の知識では寝殿造り。
なんだか源氏物語の中にいるみたいな感じで渡殿を進んで行くと、ほんとうに寝殿造りのところに出てきた!
「「「「「おお……( ゜Д゜)!」」」」」
またも五人で感動。
縁側も軒も思い切り広くて深くて、建物と縁側は壁とか障子とかじゃなくて……なんといったかなぁ、これは?
「半蔀ですよぉ!」
そう、上下に分かれていて、上は車のハッチバックみたくに上下にスィングして、下の方は取り外しができるようになっている。
なんだか、紫式部とかが出てきそうな設えだよ。
「金閣寺も半蔀だよね」
「おお、左近の橘、左近の梅ですよぉ!」
庭には白砂が敷いてあり、正面には檜皮葺のごっつい門がある。
「ええとぉ……」
すごい勢いでノートを繰るロコ。
「ここは宸殿と言って、後水尾天皇から下賜された本物ですよ! あっちの門は勅使門と言って、天皇か天皇のお使いをお招きする時以外はひらかれないんですよ」
「なるほど、それで菊の御門が付いてるんだ」
「「「「なるほどぉ」」」」
なっとくして、それから、しみじみする。
「半蔀に蝉の金具がついてる」
「え……ほんとだ」
半蔀は金箔が貼ってあって、どの半蔀にも二匹ずつ金の蝉が付いている。
さすがのロコでも、これは分からないようだ。
昨日の疲れもあって、いつの間にかコクリコクリとしてきた。
すると、目の端っこに見えていた勅使門が音もなく開いてくるではないか!
ちょ、ちょ(''◇'')。
わたしの興奮が伝わって、みんなも目を覚まして、開き始めた勅使門に釘付けになった。
そして、現れたのは……黒の半纏にちり取りと竹ぼうきを持った掃除のおじさんだった(^_^;)。
無敵のおじさんに感動して大覚寺を後にする。
お昼は大覚寺の東にある大沢の池のほとりで、配給されたお弁当を広げる。
お弁当はアイデアだ。
観光地だから食堂とかにはことかかないんだけど、どこに行ってもけっこうな人。それに、みんな仲間同士で食べたいから探すだけで時間がかかる。
帰りは野宮と常寂光寺、竹林を抜けて大河内山荘に足を延ばし、芝生に座って眼下の桂川や京都の景色を見て過ごした。
一時半に集合場所に戻ってバスに乗車。
そして、金閣寺と二条城……も話したいんだけど、またこんどね(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




