129『小さい秋と大きくなる話』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
129『小さい秋と大きくなる話』
「面白そうじゃん!」
ホンダZに機材を積みながら話していると、直美さんの心に火が点いた。
「……でもさ、一クラス分の花嫁衣裳ってたいがいの量だよぉ」
写真館を出て線路沿いの国道を走るころには、積荷の量の心配をしてくれている。
「え、あ……そうですねえ」
みんなで花嫁衣裳を着てみようというアイデアだけで決まってしまったので、モロモロのことまで頭が回っていなかった。
一着分でお布団ぐらいのかさがある。クラスのみんなで取りに行くというのがスタンダードなんだろうけど、ホームルームの時間に取りに行っても放課後にかかってしまう。放課後は部活とかある子には無理っぽい。文化祭の取り組みだから、他にやることもいっぱいある。文化祭恒例の合唱コンクールの練習とか、看板の制作とか……そうそう、修学旅行も近いんだった。その説明会でも一回分ホームルーム取られてたしね。
「そうだ、布団屋のバンを借りよう!」
「え?」
あっさり、筋向いの石川寝具店のバンを借りて直美さんが運んでくれることに決まった。
「で、提案なんだけど。撮影させてもらえないかしらねえ?」
「え、直美さんが撮ってくれるんですか!?」
「むろん交換条件がある」
「な、なんですか(^_^;)?」
「その写真をコンテストとかに出させて欲しいのよ。一クラス分の女の子使ってウェディングの写真なんてめったに撮れないからね。それも全員高校生でさ、面白い絵になるよぉ」
「あ、ぜったい面白いです!」
それから直美さんは感じのいい鼻歌を口ずさんでハンドルを握る。鼻歌は聞き覚えがあるんだけど、思いつく前に式場の丘が見えて来た。
そして、半日で式場の人たちにも話が広まって、いろいろ協力してもらえることになる。小さな思い付きが大きな話になってきた。
「ヘアメイクとかは時間がかかるからね、普段のままを整えてセットするだけでいいと思う」
結髪さんがいい提案をしてくれる。
「メイクもさせて欲しいなあ!」
メイクさんもその気になる。
まあ、みなさん本業もあるので、実際のことは、それぞれの助手さんとかバイトがやってくれる。
式場の本番は一世一代のことなので、冒険的とか試験的な、ましてアシさんとかバイトに任せたりはできないので、いい機会なんだそうだ。
「じゃあ、うちの子も頼もうかなあ」
ベテラン巫女の采女さん(じつはスセリヒメ)も名乗り出る。
「え、ひょっとして神さま?」
声を潜めて聞くと、めずらしく憂いのある顔で答える采女さん。
「まあ、縁のある子でね、キマタって言うんだ。まだ性別もはっきりしない子なんだ」
「え、LGBTQですか?」
「エルジービーティー……?」
あ、この時代には、まだこの概念はないんだ(^_^;)
「ええと……」
軽く説明すると「あ、まあ、そんな感じ(^_^;)」と頷いて「いいですよ」と引き受けた。
なんだか話が膨らんで――だいじょうぶかなあ?――と不安も湧いてきたけど――面白いことになるかも!――とも思う。
バイトを終えて令和の時代に戻る。
戻り橋を渡ると、目の前をトンボが過って行った。
ほんのこないだまではツクツクボウシが鳴いていたのに。
風も優しい涼しさになって、ようやく令和にも秋が訪れた。
思い出した、直美さんの鼻歌は『小さい秋見つけた』だった。
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




