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巡(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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117『妖退治・3 本日は休みでカキ氷』

めぐり・型落ち魔法少女の通学日記


117『妖退治・3 本日は休みでカキ氷』   





 万博建設現場の大屋根妖退治も一週間を超えた。


 

 途中、写真館のアルバイトに行って、結婚式場のスセリヒメに「おやぁあ?」と怪しまれたけど、式場は真夏だと言うのにメチャ忙しくて突っこまれることは無かった。


 夜は大屋根の上にマンションのモデルルームみたいなのが出現して、そこに泊る。食事も付いていてお風呂にも入れて、元々が地上ン十メートルの上なので夜景がすばらしく、PLの花火大会も見れて感激だった。


 でもね、一週間を過ぎるとさすがにねぇ。


「よし、今日は休みにしてカキ氷を食べに行こう!」


 朝ごはんを食べて――きょうも頑張るか!――と立ち上がったところに晴天がやってきて宣言した。



「え、ここ、どこ?」



 建設現場の地下に潜ったかと思うと、ゾワってきて、五六歩歩いて外に出る。


 ミーーン ミンミンミン ミーーン ミンミンミン ミーーン ミンミンミン


 うるさいほどの蝉が鳴いていて、正面を十段ほど下がったところに鳥居が見える。振り返ると出てきたのは石垣の下に穿たれた穴で、見上げた石垣の上には盾が並んで大砲みたいな筒が盾の間から覗いてる。


「え、真田の抜け穴?」


 標柱の字にビックリして反対を向くと鎧武者の銅像が立っていて、ちょっとビックリ。


「真田幸村だ。ここは幸村を祀っている神社なんだ。こういうのが、あちこちにあって、短距離移動の停留所になってる」


「空は飛ばないの?」


 家から大阪までは空を飛んだので、ちょっと意外。


「近場の移動に新幹線やら飛行機は使わないだろ」


「ああ」


「魔法や妖術にもエコがあるんだ」


 ペチ


 晴天が指を鳴らすと、とたんに熱気が四方八方から押し寄せてくる。


「ちょ……ひょっとして、妖気の膜外したぁ!?」


 大阪に来てからは、妖気の膜で暑さを遮断していたのでビックリ。


「カキ氷を食べるんだ、少し汗をかいた方が美味しさが分かる」


「あ、まあ、そうね(^_^;)」


 神社を出て数分歩いたところで大阪の暑さが身にしみてくる。


「去年の万博も暑かったけど、大阪の暑さって異常ねぇ……」


「去年の万博……ああ、グッチは昭和の高校に通ってるんだったね」


「あ、あの犬かわいそう……」


 お尻の大きなオバサンが犬を散歩させている。オバサンは日傘を差してるけど、犬はフサフサの黒い毛。それに地面のすぐ上を歩いてるから、めちゃくちゃ暑いと思う。


 ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ……


 長い舌をデロリンと垂らしてせわしなく息をついている。


 散歩させるんだったら、もっと早朝にしなきゃ……ちょっと虐待っぽい。


「ちょうどいい」


「どこが!?」


 ちょっと声が大きかったので、犬が振り返った――暑いのに大きな声出さんといてえなあ――そんな感じ。


「あの犬を救おう」


「え?」


「あの犬に冷気の膜を張ってやってごらん」


「そんな魔法使えないわよ」


 わたしの魔法は妖気の傘で雨を凌ぐとか、隣の部屋の様子を探るとか。晴天みたいに人を冷房してあげたりとかはできない。


「念ずればできる。グッチの魔法はそれぐらいのレベルにはなってる」


「そ、そう?」


「距離的にも隣の部屋を覗く程度だから、がんばってみよう……いち、に、さん、ハイ」


 晴天の掛け声に合わせて念を籠める。


 う……ううんッ……………………(;>,<;)


 ワン?


 犬が「あれ?」っていうような声を上げてキョロキョロ。


「おめでとう、無事に魔法がかかった」


「アハハ……その分、メチャクチャ暑くなってきたんですけど(;'▢')」


「これで、もうひとつカキ氷が美味くなる」



 着いたところは玉造という駅の近く、南北に長い商店街だ。



「けっこう長いんだ……」


 ほとんど真っ直ぐな商店街なんだけど、出口は遠近法の彼方。


「環状線に沿って隣の桃谷まで続いてる。昔は、砲兵工廠に通う工員たちが往きかえりに通って、今以上に繁盛していたんだ」


 はあ、どうりで『日之出通商店街』、時代を感じさせる名前だ。


「今で四代目になるってお好み焼き屋があってね、初代の頃から贔屓にしてるんだ。商店街の中ほどなんだけどね……」


「ほお……なんかレトロぉ」


 着いた店は、他とは違って屋根瓦に年代物の木製の看板に『大正屋』の屋号。


「戦前から残ってる数少ない店だ」


「ひょっとして、晴天さんが魔法で護ったとか?」


「まあな」


「やっぱ、晴天さんてすごいんだね」


「あんまり、褒められた魔法じゃない。ここに落ちるはずだった爆弾をよそに逸らしただけだからな」


「あ、ああ……」


 そう言えば、お祖母ちゃんも似たようなことを言ってたのを思い出して暖簾をくぐる。



「おや、安倍ちゃん、お久しぶりやなあ」



 うちのお祖母ちゃんよりも年季の入ったお婆さんがカウンターに出て来た。


「えらいかいらしい子連れてからにぃ、娘さんかぁ?」


「あはは、お仲間の孫だよ。ちょっと仕事を手伝ってもらって、今日は、ちょっと休みにしてるんだ」


「ああ、この暑い盛りやさかいなあ、休みもとったげんとなあ」


「ええと、メインはカキ氷なんだけど、まず、お好み焼きの大きいの……ミックスモダン一枚」


「あ、わたしも食べたいと思ってたところ!」


「はい、まいど!」


 手際よくミックスモダンの大きいのを焼いてもらって、半分ずつを二人でいただく。


 そして、本日メインのカキ氷。


 お好み焼きのあとなんでシンプルに、わたしはイチゴ、晴天はブルーハワイ。サイズはレギュラー。


「ちょっと、食べ比べてみ」


「あ、うん」


 二人で来ると食べ比べができて面白い。


「どっちがいい?」


「ううん……ブルーハワイは、ちょっとトロピカルっていうか……」


 もう一度両方を食べてみる。


「大人の甘さ? イチゴは子どもの頃を思い出すような、懐かしい甘さ、かな?」


「なるほどなあ」


 晴天が真面目な顔をして、お婆ちゃんはニコニコと笑ってる。


「実はなあ、両方とも同じ味なんだ」


「ええ、うそぉ!」


「シロップの色が違うだけ」


「え、そうなの!?」


「プラス、うちの気持ちが入ってるよぉ(^▽^)」


 お婆ちゃんが笑顔で付け加える。


「ははは、そうだね。魔法も似たようなもんさ。同じものを家で食べたら、きっと味が違う。シロップもお婆ちゃんにも秘訣があるのさ」


「いやあ、そんな褒めてもろたらぁ……」


 一瞬、お婆ちゃんの姿がブレたかと思うと……ビックリした!


 お婆ちゃんは、30くらいも若くなってしまった!




 

☆彡 主な登場人物


時司ときつかさ めぐり   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる

時司 こたえ         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉のすぐりになる

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)

宮田 博子ロコ         2年3組 クラスメート

辻本 たみ子            2年3組 副委員長

高峰 秀夫             2年3組 委員長

吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部

横田 真知子            2年3組 リベラル系女子

加藤 高明(10円男)       留年してる同級生

安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目

藤田 勲              2年学年主任

先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)

須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫

早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん

時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        

その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)

灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

 

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