114『安倍晴天』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
114『安倍晴天』
「それで、返事をしたのかい?」
いつになく怖い顔で訊ねるお祖母ちゃんにビビった(;'∀')。
終業式のあった20日の午後、みんなで新宿のホコ天に行ってマクド一号店でハンバーガーを食べた。みんなで記念写真を撮ったり楽しい半日だった。うっかり、あの時代にはまだ発売されてない使い捨てカメラを使ってロコに不審がられたりして、時を跨ぐのは注意の上に注意をしなくっちゃ。と、思い知る。
そして、戻り橋を渡って令和に戻った時、後ろから声がかかった。
『ねえ、グッチ』
完全に友だちのノリの声だった。それも橋からじゃなくて、川沿いの道からだったから、つい返事をしてしまった。
「え、わたし?」
振り返ると、目の高さにハンバーガーが浮いている。
ハンバーガーは、切れ込みのところがパカパカ開いて、それが喋っているように見える。
『あした、グッチの家に行くからうちに居てね。三時ごろ行くから』
「え、えと……」
『怪しい者じゃないよ、応さんの友だち、名刺わたしとくね』
切れ込みが大きく開いたかと思うと、レタスとパテの間から名刺が飛び出してきて、受け取った瞬間にハンバーガーは消えてしまった。
こいつは式だ、式神だ。それもメッセンジャーとか飛脚とか呼ばれるレベルの低い奴で、こちらが返事をしなかったら用件を伝えることさえできない。迷惑メールと同じ。返事するのはクリックするのと同じ。だから「それで、返事をしたのかい?」と、お祖母ちゃんは聞いたわけ。
マクド一号店に行った後だったから油断していたんだね。
「安倍晴天……なんだかパチものくさいけど」
「めったなことを言うんじゃないよ。安倍晴明の五十代目、陰陽寮の司だよ」
「よく分からないんだけど」
「うちの時司家は、代々朝廷の陰陽寮に所属して時間の管理をしていたんだ」
「うちも司だし、偉くないの?」
「課長と社長ぐらいにちがう」
「あ、そうなんだ……」
「お祖母ちゃんが相手しとくから、部屋から出ちゃいけないよ」
そう言われて、朝ごはんの後は自分の部屋に籠ったよ。
お祖母ちゃんは、めずらしく久留米絣の装いで安倍晴天さんを待ち受ける。
わたしは、パソコンにつないであるモニターで動画を観て時間をつぶす。麦茶とお煎餅なんかも持ち込んで、まあ、半日は退屈せずにすむだろうね。
ドローンで世界や日本のあちこちを見せてくれるのをボーっと見ている。
4Kの40インチ。六畳の部屋で観ているとけっこう臨場感がある。
もうじきオリンピックのフランスから始めて、スペイン、イタリア、ポーランドの古城を空からゆっくり見てるのは雰囲気。
エッフェル塔が出て来たからフランスかと思ったら、中国のお金持ちが作った2/3スケールのレプリカ。周囲もフランスの町っぽく作られていて、しばらく気づかない。スフィンクスとピラミッドでエジプトかと思ったらラスベガス。
クリックすると、五重塔の向こうにおあつらえ向きの富士山。外国の人の動画で、日本人とは視点が違うから面白い。
カメラが切り替わると見覚えのある山……ああ、宮之森の城山だ!
去年は、みんなで花火を観に行った。おたふくでパンとか買ってプチ遠足にも行ったっけ。
城山を巡ったカメラは、川沿いを進んで見覚えのある家並。どこだろうと思っていると……うちの家だ。
近づいていくと、二階の窓が開いて……え、モニターを見てる後姿はわたしだ!
振り返ると、めちゃくちゃイケメン、和服姿のオニイサンが笑顔で座っている。
「どうもぉ、安倍晴天ですぅ(^▽^)/」
あ、やられた(;'∀')。
「応さんに会うと、言いくるめられそうで、直接おじゃましましたぁ」
「あ……え、えと……」
「応さん、久留米絣を着てるでしょう」
「あ、めったに着ないんですけどね……」
「あれはね『言いくるめ絣』と云ってね、なにを頼みに行ってもうまく言いくるめられて退散させられるという呪物なんだよ」
「え、そうなんですか!」
「応さんのは年期が入ってるからね、ボクでも太刀打ちできない」
「あ、え……それで、なんの御用なんでしょうか?」
「大阪の万博会場でガス爆発があったのを知ってる?」
大阪万博と言われて思い浮かぶのは去年行った70年の万博。
「あ、そっちじゃなくて、いま建設中の」
「あ、ああ」
思い出した。会場敷地の地下にメタンガスが溜まっていて、それに引火して爆発したってニュースでやっていた。
「メタンガスの仕業になってるけど、実は妖とかの仕業なんだ」
「そうなんですか!?」
「うん、それをやっつけたいんだけどね、ぜひグッチ、きみの力を借りたいんだ」
「わたしがですか!?」
「うん、というのがね……」
晴天さんは膝を進めて、でも、穏やかに説明してくれて……けっきょくは引き受けてしまった。
「じゃ、今から大阪に飛ぶよ」
そう言われても、戸惑いも抵抗も感じない。
意識がボンヤリする中で気が付いた。
晴天さんの和服も久留米絣だった……。
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




