105『戻り橋で七夕を思いつく』
巡・型落ち魔法少女の通学日記
105『戻り橋で七夕を思いつく』
いつものように川を渡って学校に行く。
寿川
普通の橋を渡る分には、普通の川だ。
だけど、わたしが渡るのは戻り橋。
魔法少女しか渡れない橋で、普通の人には渡るどころか見ることさえできない。
川沿いにはフェンスというか子どもの背丈ほどの防護柵があって、魔法少女だけが見える柵の根元にMの標石がある。それを足でつつくと戻り橋が現れる。
通行人とかに見られないようにして現れた橋を渡る。人には女子高生が忽然と消えたようにしか見えなくて、見られてしまうと騒ぎになるので要注意。
一度だけ近所のお婆さんが付いて来てひと悶着あって(093『お婆さんが付いてきた』)それからは気を付けている。
渡っているのは寿川と重なって流れている時空の川。この川を渡ると半世紀以上の時を跨いで昭和の世界に入る。
最初に渡ったときは、ちょっとビビった。流れているのは水では無くて時間だからね。うっかり落ちたり水しぶきを浴びたりすると、どんな影響があるか分からない。それに、川はいつも轟々と音を立てているから、ちょっとおっかない。「そりゃあ、何千年の時間が流れているから、いろんなことがあるさ」とお祖母ちゃんは言う。
だからね、近ごろは慣れてきたけど、やっぱり十秒そこそこで渡り切ってしまう。
その時空の川が、今朝は穏やかだ。
今までにも穏やかな時はあったのかもしれないけど、余裕のないわたしは気にも留めなかったのかもしれない。
……なにかキラキラしたものが流れていく。
四月の中頃、例年になく長持ちした桜もようやく散りはじめ、リアルの寿川は花びらがいっぱい流れていた。そういう様を花筏とか言うらしくて、ちょっと見とれてしまった。
橋に踏み込むと、あのころの花筏みたくキラキラしたのが川面を流れていく。
あまり橋の上で立ち止まってはいけないんだけど、すこし見とれてしまった。
そして、思いついた。
「ねえ、七夕やろうよ」
いつものように駅前で出会ったロコを皮切りに、MITAKAのみんなに話した。
「みんなに短冊書いてもらってさ、笹に吊るすの。みんなの願いとか希望とか、思いやりとか吊るしたら、少し優しい気持ちになれるんじゃないかなあ」
そういう意味のことを伝えると、昼休には話が広がった。
「うん、いいと思う。金原さんのこととかMITAKAで話しても、なんだか学校や誰かを糾弾するような雰囲気になるもんね。うん、いいよ、いいことだよ。静かに穏やかに胸に刻む、いい方法だと思う」
真知子がモワっとしてただけのわたしの気持ちを代弁してくれる。
「うんうん、短冊に書くんだったら、そんなに気負わずに済むし、子どもの頃みたいに楽しんでできるよ」
「たみ子、いいこと言う!」
そうだよ、みんなでお星さまに『お願い』とか『ここだけの話し的』にやれば、下手にエキサイトせずに済む。
「最後は、グラウンドとかで燃やせば雰囲気ですよ!」
「でも、許可出るかなあ」
ロコが盛り上げて、女バレでセッターの佳奈子は、話の要にボールを戻す。
「まあ、それは後で考えるとして、まずは生徒会に話を通そうか」
そう、全校的な盛り上がりにするなら、まずは生徒会。
「あれ、生徒会室は向こうですよぉ」
「フィクサーが先よ」
「「「あ、ああ」」」
真知子を先頭に向かったのは職員室の倉田先生、生徒会の顧問だ。
「ううん……趣旨は悪くないが、短冊は事前にチェック。最後に焼くのはダメだからな」
文化祭のファイヤーストームもアウトだったから、釘を刺されてしまう。
「それに、まずは執行部に言うのが先だろ」
「アハハ、ですね。途中に職員室があるので、まあ、ご挨拶と思いまして。まあ、MITAKAのサークル行事でやろうと思うんですけど、一応は話を通しておこうということです」
アハハハ
みんなで愛想笑いして、あらためて生徒会室に向かう。
そうなんだ、事前に倉田先生に言っておくことで話を通りやすくしとくんだ。二年生になるといろいろ知恵が付いてくる。
まあ、ひそかに期待していたファイアーストームは初手から詰んでしまったけどね。
☆彡 主な登場人物
時司 巡 高校2年生
時司 応 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人




