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後日談 私の願い
砂浜に成人した女性が立っている。
彼女は振り向かない。自分も声を掛けない。
波の音だけが響いてる。
「ねえ、ラウレア。私もそろそろそっちに行こうと思うの。ええ、あなたと海を泳いでみたいわ。」
独り言が響く。彼女の声に答える者はいない。
でも、彼女には誰かの声が聞こえるようだった。
「ふふふ。それはとっても素敵ね。海藻の食べ比べも捨てがたいけどね。」
彼女は楽しそうに会話をする。
彼なら、きっとこの会話に答えたんだろう。
ウミガメのラウレアなら。
「ねえ、魔術師さん。」
振り向かずに彼女が言う。自分は、なんでしょうと答えて、その言葉の続きを待った。
「私をウミガメにして。」
そう言って彼女が振り向く。その目には夕焼けというには赤すぎる涙が溢れていた。
自分は、何も言わずに魔法の杖を振る。
「ああ、これで。」
彼女の姿が形を変えていく。
この結末に後悔はないのか、と尋ねたことがある。
彼女は。
「これで私はあなただけのもの♡」
波打ち際に、赤いシミが残ったがそれもすぐに波に流されて消えた。
砂浜には、あの日の記憶だけが残っている。