5.肥溜め令嬢のレッツパーリィ
遅れましたすいません。夜にもう1話上げます!←無理でしたすいません
卒業式は粛々と行われました。
卒業生代表として、登壇したわたくしに注がれた、在校生からの尊敬と憧れのまなざしは、わたくしの3年間が正しく評価されているようで、思わず目を潤ませてしまいましたわ。
そう、もう誰もわたくしを、肥溜め令嬢と蔑むものはいないのです……!
頑張った甲斐がありましたわ!
最後に校歌斉唱、卒業生の見送りが済めば、式は終了です。
卒業パーティーはお昼を挟み、夕方から開催されます。
デビュタントを兼ねているため、会場は学園ではなく、王立の舞踏会用のホールになりますわ。
(感慨深いですわね……巻き戻り前、わたくしはここで断罪されたのですわ……)
いったん自宅に戻り、デビュタント用の真っ白いドレスに着替えたわたくしは、舞踏会場の入り口に立ち、巻き戻り前の自分に思いを馳せました。
愛しのドノヴァン様にへばりついた羽虫こと、ローレナ・トファ男爵令嬢。
彼女を引っ剥がすために、1年間、陰惨なイジメを繰り返し、ドノヴァン様本人、同級生や先生、果てはお父様からの警告も聞かず、とうとう肥溜めポイ捨て計画まで実行したわたくし。
王家の方も参列されている卒業パーティーの最中、ドノヴァン様に婚約破棄を言い渡されたわたくしは、泣き叫びながらドノヴァン様に縋り付きました。そりゃもう惨めったらしいことこの上なかったでしょう。
あの時のドン引きしたドノヴァン様の顔は、今でもたまに夢に見るほどですわ……。
あまりの見苦しさに、こりゃやべーわと判断した王家の護衛の方によって、わたくしはドノヴァン様から3人がかりで引っ剥がされ、そのまま引きずられて、会場の外におっぽり出されたのでしたわね。
……その後の運命は、以下略させていただきますわ。
うぷっ、あの時のおぞましい記憶がっ……。
「ふむ、久しぶりだな、王立舞踏会場は……カルフの時以来か」
「ヒィッお父様っ?!」
隣に立つお父様の声で、わたくしは一気に思考の海から浮上しました。
そう、一瞬あたまからすっぽこ抜けてましたが、今日はお父様と一緒に会場に来てたのですわ。
卒業パーティーでは、基本的に卒業生は親族と一緒に入場します。
婚約者がいれば、カップルふたりで連れ立って入場できますが、まだ中等部ですので、そういった方々はあまり見かけません。
縁談交渉が本格化するのは、女子のデビュタント後ですわね。
「ふふ、どうしたプリィ?何やら考え込んでいたようだが……なに、そう案ずる必要はないぞ。婚約者のことならちゃんと考えてある」
淑女らしからぬ反応をしてしまったわたくしに構うことなく、お父様はご機嫌な様子でおっしゃいました。
え……婚約者、ですか?
学園ではトップレディたることばかりに気を配っていたせいで、あまり交友関係を広げられなかったわたくしです。
どうせ婚約者はお父様が選ぶので、まあいいかと思ってきましたが、いざ実際にお父様から「考えてある」と宣告されると……なぜか背筋にヒヤッとしたものを感じますわね……。
「侯爵閣下、プレッツェル様、ごきげんよう!先ほどの答辞、素晴らしかったですわ!」
そんなわたくしの横を、120%笑顔のローレナ嬢が、ドノヴァン様と共に通り過ぎました。
お父様には彼女のことを、わたくしの(数少ない)友人として紹介しているので、直接話しかけても無礼には当たりません。
軽く挨拶を交わすわたくし達の後ろでは、藍色のネクタイを締めたドノヴァン様が会釈しておりました。
ローレナ嬢はグリーンのドレスですので、お互いの瞳の色を身に着けている、というわけですわね。ラブラブカップルですこと!
込み入った話は会場で、と話しておふたりと別れた後、お父様に視線を移すと、何やら遠い目をしてらっしゃいました。
「あの公爵家四男との婚約も検討したんだがな……」
ぼそりと呟かれた言葉に、わたくしは戦慄しました。
は?ここに来て肥溜めエンドのフラグ成立危機が……??
「現状を見る限り、話を見送って正解だったようだ。今のプリィには、もっと侯爵家に活用できる……もとい、ふさわしい相手との縁談が望ましい」
うんうんと頷きながら語るお父様。
わたくしはほっと息を吐きました。
良かった、フラグは既に折れていたようです。
お父様の言葉の端に少し不穏なものを感じましたが、いつものことなのでスルーしましょう。
「まあ、婚約の話はパーティーの後でな。そろそろ入場しようか、我が家の可愛いプリィ」
油断ならない笑顔で、お父様が手を差し伸べてこられました。
わたくしはややぎこちない笑みを浮かべ、お父様の手を取り、高位貴族専用入場口に進みました。
さあ、パーティーの始まりですわ!
もう断罪されることはないと頭ではわかっていても、緊張しますわね……。
(婚約者といえば……)
その時、わたくしはふと、数日前の生徒会室での会話を思い出しました。
現生徒会役員と、わたくしとスティングレー様で、卒業式の打ち合わせをしていたときのこと。
「……ところで、ラノーバ嬢。君の卒業パーティーのエスコート役は、侯爵閣下だったかな?」
スティングレー様が、話のついでのようにポツリとおっしゃいました。
「ええ。父が参ります。何かございましたでしょうか?」
ピシッと姿勢を正してお答えしました。
「そうか……いや、確認しただけだ。気にしないでくれたまえ」
それだけで話は終わりましたが、スティングレー様は本当に確認したかっただけなのか、お父様と直接話したいことでもあったのか、あるいは……。
(婚約者が内々に決まっている場合は、デビュタントで正式に発表する方もいらっしゃいますわね……その予定がないか、尋ねられただけかもしれませんが……)
なんとなく。
なんとなくですが、わたくしはこのときのスティングレー様の態度に、引っかかるものを感じました。
(やたらと上機嫌なお父様も気になりますわ……パーティーのあと、どんなお話をされるのかしら)
嫌な予感しかしませんが、とにかく今は、卒業パーティーが優先です。
わたくしは軽く頭を振り、気持ちを切り替えました。
「エイブラハム・ラノーバ侯爵閣下、並びにプレッツェル・ラノーバ侯爵令嬢、ご入場!」
案内人に誘われ、わたくしたちは会場に入ります。
華やかな会場装飾、光り輝くシャンデリアに心奪われ、わたくしは思わず息を呑みました。
……そして、うっかり忘れていたのです。
何かしらのトラブルは、卒業パーティーの真っ盛りの時に起こりやすい、ということを……!!
もう少し続きます、よろしくおねがいします!