表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/16

15.肥溜め令嬢の冬至祭②

続きです!

 

 金髪碧眼、長身痩躯、この国で2番目に地位の高いお方が、そこにおられました。


「テュルキースは確かに王家の血を継いでおり、王子として告示済み。卿の一存で、王宮より連れ出すことは叶わぬ」


「……ネフライド王太子殿下か」


 理想の王子様然とした風貌の王太子殿下が、メタリック卿と対峙します。


 その後ろには、いつの間にかモントシャイン公爵閣下が立っておられました。


 ……お父様もそうですが、高位貴族の当主クラスになると、メタリック卿の圧を受けてもなんともないのですね……衛兵すら腰が砕けて座り込んでいるというのに。


「卿のお怒りも無理はない。孫娘の結婚を見届けて遠征に出発し、帰ってみれば領地には孫夫婦も曾孫も不在。話が違うと思われたことでしょう。……しかし、王家は卿を謀ったわけではありません。お約束通り、エメライン嬢は領地に留まるはずでした。……産まれてきた子が、女児であらば」


 王太子殿下に代わって、そう話し出したモントシャイン公爵閣下。


 紳士的で優雅な動きは、まさに筆頭公爵家当主といえましょう。


「しかし、孫君は喜ばしくも男児に恵まれました。我が王室、待望の男児を。この功績は、王子妃として立たれるに充分に値しましょう」


「お……お父様?!何を?!」


 滔々(とうとう)と語る公爵閣下に、ルティーナ妃殿下が動揺して声を上げました。


 ……そりゃそうでしょう。


 これまでさんざん、水面下で反目し合ってきた王太子派と第2王子派。


 自分と王女様方の、絶対的な味方であるはずの公爵閣下と王太子殿下が、突然手のひらを返して、エメライン妃殿下を持ち上げだしたのです。


 ルティーナ妃殿下は、信じられないものを見る目でおふた方を見ました。


「ルティーナ。残念だが、今ここに君を王太子妃の位から除す。離縁だ」


「ヒィッ?!ど、どうしてっ?!」


 冷たい瞳の王太子殿下から告げられ、ルティーナ妃殿下は愕然とされます。


「理由はわかっているね?……スティングレー大公家が仲裁に入ったあとも、君は度々、プレッツェル・ラノーバ侯爵令嬢に暗殺者を差し向けていた。覚えがないとは言わせないよ」


「そ、それは……!」


 あら、ずっと蚊帳の外でしたけど、ここでわたくしの名前が出ますのね。


 会場の貴族の目線が、一斉にわたくしたち家族に注がれました。


 お父様とお兄様、ソファアお義姉様はスンッとした顔でやり過ごしましたが、お母様だけが「え?そうなの?」とキョロキョロされております。

 お母様ェ……。


「だ、だって、それは……お、お父様!なんとか言ってくださいませ!」


 王太子殿下の詰問に、挙動不審になったルティーナ妃殿下は、助け船を求めて公爵閣下に縋りました。


 ……しかし。


「ルティーナ。そなたには失望した。大公家の勧告を無視し、陰で第一王子殿下の婚約者の暗殺を企むとは。私は、このように恐ろしい娘を持った覚えはない」


 ざっくりと。

 ずいぶんざっくりと切り捨てられましたね、公爵閣下。


 まるで、自分は暗殺には関与していないと言わんばかりに。


「お、お父様……どうして……?!」


 もはやルティーナ妃殿下の顔色は蒼白で、見開かれた双眸は血走っておりました。


 がくがくと震えるさまは、なんとおいたわしいことか。


「王太子殿下。我が娘ながら、ルティーナは国家に弓引く反逆行為を行いました。つきましては、モントシャイン公爵家から除籍、罪人として裁かれるよう手配いたしましょう」


「え……あ……嘘、嘘よ……!」


 冷徹に宣告され、ルティーナ妃殿下はへなへなと座り込んでしまわれました。


 会場がどよめきます。


 美貌、知性、教養全て揃った完璧な令嬢が、王太子妃位どころか、貴族籍まで失って、懲罰を受けることが決まったのです。


 末は王妃と謳われた彼女は、もはや見る影もなく凋落しました。


 そう、ルティーナ様は罪を犯したのです。

 ……『男児を産まなかった』という、罪を。


 和やかな空気で始まった冬至祭は、今、彼女にとって断罪の場と成り果てたのでした。


「……さて、メタリック卿。これで王太子妃は空席となりました。国家の安寧のため、早急に新たな王太子妃を立てなければなりません」


 呆然自失状態の実娘を放置し、モントシャイン公爵閣下は、柔和な笑顔をメタリック卿に向けました。


「先程、卿のご孫女・エメライン嬢は、爵位返上のため平民となり、王子妃の資格を失われたばかり。なればこそ、我がモントシャイン公爵家の養女とし、再度王太子妃として立たれることをお勧めいたしたく」


 慇懃無礼を絵に描いたような態度で、メタリック卿に伺いを立てるモントシャイン公爵閣下。


「は?」


 鋭い声を上げたのは、エメライン妃殿下。


「そ、そんな……!」


 ルティーナ妃殿下は、絶望に満ちた顔を両手で覆い、打ちひしがれます。


「おい!エメラインは私の妻だぞ?!何を勝手に!」


 一拍遅れて、第2王子殿下が声を上げました。


 それを手で制したのは、王太子殿下。


「ジェダイド。お前はもともと私の妃に男児が生まれたら、王籍から抜け臣下に降る予定だったのだ。安心せよ、3人の王子は我が子として引き受ける。エメライン嬢も大切にするゆえ、気兼ねなく王宮を辞するがいい」


 穏やかな口調と微笑で、王太子殿下は子供に言い聞かせるようにおっしゃいます。


 すると第2王子殿下は、凍りついたように硬直しました。


 ―――後で知りましたが、第2王子殿下は昔から、全てにおいて自分より勝る王太子殿下を前にすると、萎縮してしまうそうです。


 現に今も、なんの口答えもできず、はくはくと口を動かされるのみでした。


「なんということを……!王太子殿下、ひどい、あまりにひどすぎます……!」


 エメライン妃殿下の見開かれた両目から、透明な雫が滴り落ちました。


 ちなみにランドブラウ殿下は、この状況で妃殿下の腕の中でスヤスヤと眠っておられます。……将来大物になりそうですわね。


 王太子殿下はスッとエメライン妃殿下に近づくと、床に片膝を付き、右手を彼女に差し出しました。


「エメライン嬢。私、王太子ネフライド・コールユーブンゲンは、貴女に求婚する。貴女は今は平民の身分であるが、3人の王子の母であり、年若く、美しい。モントシャイン公爵家の養女として、私は貴女を迎え入れよう。王太子妃、ゆくゆくは王妃となり、この国を支えておくれ」


 イケメンオーラ。

 イケメンオーラのオーバードライヴが炸裂しております。

 これはそこらのウブなご令嬢なら、生命の喜びを感じながら昇天してしまうほどの威力があるでしょう。


 ……冬至祭の華やかな装飾を施された、豪奢な王宮の広間にて。


 齢30とは思えぬ、美貌の王太子に傅かれ、まるで何かの物語の女主人公ヒロインのように、潤む瞳で立ち尽くすエメライン妃殿下。


 悪役としてルティーナ妃殿下、当て馬として第2王子殿下。


 ……戯曲としてならば、完璧な布陣ですわね。


「―――それで良いのか?お前たちは」


 黙して様子をご覧になっていたメタリック卿が、威厳のある声でおっしゃいました。


 それは孫であるエメライン妃殿下に、孫婿である第2王子殿下に、そして、壇上にいる王族、引いては壇下に佇むこの場の全ての貴族たちに、問いかけるようでもありました。


「……の心は……」


 静まり返った会場の中で、小さな声が聞こえました。


「……非モテの心は父心……押せば命のホットスプリング……」


 地を這うような呟きは、壇上からです。


「……非モテ団初代ヘッド、ジェダイド様を舐めるなあああ!!」


 突然、第2王子殿下が咆哮しました。


 ……何故か、バリバリと音を立てて、上半身の衣服を破り脱ぎながら。


(えぇ……?)


 あっという間に上半身裸になった第2王子殿下に、一同ポカンとします。

 ……いえ、エメライン妃殿下だけは、ぱああっと瞳を輝かせておられましたが。


「エメラインは!俺を!10年以上婚約してた相手に、『顔がキライ』の一言でフラレた、この俺を!アベック撲滅しか頭になかったこの俺を!『そーいう拗らせたとこもひっくるめて大好き!』と言ってくれた、奇跡の女なんだ!女神だ!理想の妻だ!永遠の最愛だ!子供たちも、ひとり残らず俺の宝だ!お前なんかに渡すものかあああ!!」


 血を吐くような雄叫びが、会場に響き渡りました。



できれば今日中にもう1話上げたい……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ