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12.肥溜め令嬢の高校生活 1

昨日アップし忘れました…

短めです

 

「あれからいろいろありましたわね……」


「へい、そうでやんすね、プリィの姐御あねご


 わたくしは、すっかり寒々しくなった学園の裏庭を窓ガラス越しに眺めながら、紅茶のカップを傾けました。


 ざわつく放課後の学生用サロンの隅、簡素なティーテーブル席には、わたくしとオパール嬢だけが腰かけています。


「オパール嬢、また商人言葉が出てますわよ」


「おっと、こいつぁいけねぇ。……失礼いたしましたわ、プレッツェル様」


 打って変わってコロコロと上品に笑う彼女との付き合いも、長くなったものですわ。



 ―――テュルキース殿下とわたくしの婚約が決まってから、はや3年弱の月日が経ちました。


 わたくしは高等部3年生となり、年明けに控える大学院進学試験に備え、忙しい毎日を送っております。


 もちろん、王子妃教育も怠っておりませんわ。

 ただ、お相手がまだ6歳ですので、かなり余裕を持ったスケジュールが組まれているのが救いです。


「お待たせしました、プレッツェル様!」


 華やかな笑顔を浮かべながら、ローレナ嬢がわたくしたちのテーブルに歩み寄りました。


「どうぞおかけになって」


 わたくしが目配せすると、すかさず給仕が彼女の席を整え、新たなカップに紅茶が注がれます。


 そのまま年頃の乙女らしく、キャピキャピ(死語)とたわいない話をしているフリをしながら、ひっそりと本題に入りました。


「……スプラウト公爵家の諜報員カラスからの報告です。男児であられたそうですわ」


 ぽつりとローレナ嬢が呟きます。

 わたくしとオパール嬢は、笑顔を絶やすことなく頷きました。


「そう。……母子共に健やかに過ごされますよう、お祈りいたしますわ」


 僅かな動揺を隠すべく、わたくしはカップを口に付けます。


 ……この3年の間、王太子妃殿下がご懐妊されることはありませんでした。


 その代わりと言っては角が立ちますが、エメライン妃殿下は、テュルキース殿下に続いて、ふたりのお子様に恵まれました。


 ひとりはエイラート第2王孫殿下。

 3年前、エメライン王子妃殿下のお腹の中におられた御子ですわ。

 今年3歳におなりです。


 そしてふたりめは、昨晩お産まれになったという、新たな男御子。


「……これで、またあの『やんごとなき方々』は揉めだすのでしょうね。エメライン妃殿下の苦しみも知らずに」


 ローレナ嬢の持つカップがビキリと音を立てました。


「ローレナ様、美闘気オーラが漏れておりましてよ」


「あら、失敬」


 ニコニコ笑ってカップを下ろしたローレナ嬢ですが、怒りが収まらないようです。取手にヒビが入ったカップの中で、紅茶がゴボゴボ沸き立っておりますわ。


 ちなみにローレナ嬢は、やはり淑女的格闘術レディアーツに傾倒され、2年半で緑帯まで行きました。


「まあ、誰が何を企もうと、今まで通りに対応するのみですわね。今度は鼻血も出ないほど絞り尽くしてやりましょうか」


 オパール嬢が茶菓子を齧りながら言いますと、ローレナ嬢は頷きます。


「ええ、全て叩き潰してくれますわ。この拳に誓って」


 アハハうふふと笑いながら、淑女らしからぬ会話をするおふたりを眺め、わたくしはこの3年弱の出来事を振り返りました。


 箇条書きでまとめますと、以下の通りとなります。


 ①わたくし、高等部に進級する。オパール嬢と合流。


 ②さっそくモントシャイン公爵家の息のかかった教員に嫌がらせされる。


 → ②の対抗策:入学式や教室に椅子がなかったので、習いたての淑女的格闘術レディアーツ、弐の型・空気椅子で凌ぐ。


 ③王太子派の貴族子女が徒党を組んでマウントをかましてくる。


 → ③の対抗策:ヘリング商会の裏の顔の方の手段で、親の方をキャン言わす。※法は遵守しております。


 ④モントシャイン公爵家が政治的な圧をかけ、お父様の昇任を阻もうとしてくる。


 → ④の対抗策:お父様とお母様が手を回し、古代王朝血族一丸となって撃破。予定通りお父様は第一宰相に着任。


 ⑤ローレナ嬢とドノヴァン様が復学。スプラウト公爵家介入により、やや騒動が治まる。


 ⑥その矢先、エメライン妃殿下が男児を出産。再び学内と王宮が荒れ、王太子派とジェダイド王子派に別れて揉め出す。


 ⑦これまで静観していたスティングレー大公家が動く。2派の仲裁に入る。争いは膠着状態に移行。


 → この段階でラノーバ家に暗殺者が月2くらいで送り込まれるようになる。


 → わたくし、王子妃教育の行き帰りに誘拐されかけるのが日常茶飯事になる。


 → わたくし、茶会や夜会で何かしら食事に盛られるようになる。


 → わたくし、課外授業中にいつの間にかひとりにされて魔獣や悪漢に襲われる(複数回)。


 → わたくし、低位貴族令嬢を虐めてるとか男漁りをしているとか冤罪を広められる。


 エトセトラ、エトセトラ。



 …………他にも色々あったのですけど、長くなるので割愛しますわ。


 ちなみに⑦以降は、だいたいセザーム夫人とローレナ嬢の淑女的格闘術レディアーツで解決できました。


 素晴らしきかな淑女的格闘術レディアーツ!!あなたも私も淑女的格闘術レディアーツ!!


 あ、もちろんヘリング商会、スプラウト公爵家やヴァルヴァラ伯爵家、古代王朝血統一族、スティングレー大公家のバックアップのおかげでもあります。


 皆さんありがとうございますわ!

 おかげさまをもちまして、なんとか登校を続けられ、成績も常にトップクラスをキープできました!


 あと、他に目立った出来事といえば、わたくしが高等部2年になった年、カルフお兄様とソファアお義姉様の間に、男女の双子の赤ちゃんが生まれたことかしら。


 兄がクレイトース、妹がカルセドニアと名付けられ、家族みんなメロメロになりました。

 わたくしも、ちょっとだけチーム溺愛の気持ちを理解できましたわね。


 なお、お父様は宣言通り通常モードで、仔牛が生まれた畜産業従事者のような目で赤ちゃんを見てました……さすがお父様、ブレない。



もう少し続きます。

よろしくおねがいします!

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