第1章ー8話 街デート①
「タロー。待った―」
振り返ると、こちらに走ってくる人影があった。
こちらに向けて振る手の太さ。砂煙が立つほどの走るスピード。肩には女の子を乗せている。
うん。間違いなくクレオだ。
「お待たせ。タロウ」
「普通に登場することはできないんですか」
「馬鹿を言え。俺は、元とはいえ勇者だぞ。普通にするなんて無理だ」
胸を張るクレオに「そんなこと威張られても」と、肩を落とす。
「お父さんは、バカだよね」
「マナよ。世の中の父親はみんな親ばかなんだよ」
クレオは、肩からマナを下ろすと、その頭をクシャクシャと乱暴に撫でる。
今日は、昨日の約束通り、調査の準備として街を一緒に回ることとなっている。
鬼や魔女に関する調査だ。いろんな場面に備えなければ。自身が調査に出るわけでもないのに、高揚感から肩に力が入る。
「おっ。タロウ。気合十分だな。初デートって感じでいいじゃねえか」
豪快に笑うクレオに「笑えない冗談はやめてくれ」とつぶやく。
「デート?今日は、タロウとデートなの?」
マナの言葉に、クレオの表情は一変する。
「違うぞマナ。マナはお父さんとデートだ。あんな芋男は気にしなくていいからなー」
「言いたいことを………。マナ、今日はよろしく」
「うんっ!」
マナと握手をしようと手を伸ばすと、クレオに手をはじかれた。クレオは歯をむき出しにして、狼のように唸っている。
「それで、どこから回る?」
「まあ、焦るな少年。まずは腹ごしらえと行こうじゃねえか。なっ、マナ」
「腹が減ってはー、だね」
どこでそんな言葉を。
マナの方を見ると、満面の笑みに言葉に出すことはやめた。
「行くぞー」
「おー」
元気な親子に引っ張られる形で、調査の準備は始まった。
「俺が、勇者になったのは、俺にその道しか残されていなかったからだ。いわゆる敷かれたレールを走るってやつだな」
待ち合わせの広場から元気よく出ると、最初に目に入った東方料理店に入り、
「このライ麺ってのは絶品だな。雷のように縮れた麺がスープと絡んでたまらん」
「おいしー」
と、替え玉を親子そろって3玉を食べ終えたころ、突然クレオが語りだした。