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第9話 ジークタリアス:出来の悪いドッキリ

 

 上から見れば、ボトム街だって美しい。

 そこで起きる背筋も凍るような犯罪的日常さえ、景色として希釈されるからだ。


 崖の近くのベンチに腰を下ろし、風に煌びやかな金髪をなびかせるマリーは、膝を抱えて、じっと崖下のボトム街を見つめていた。


「マリー」


 背後から声がかかる。


「あぁ、オーウェン、おはよう」

「おはよう、今日もいい朝だな」


 軽装の革鎧に身を包んだ蒼瞳の青年。

 マリーと同じパーティで、サブリーダーを務めるオーウェンは、気軽な足取りで、ベンチの背もたれに寄りかかった。


「浮かない顔をしてるな」

「そう? うん、そうかも。今朝からマックスが見当たらないの」

「今日は起こしに来なかったのか?」

「そのとおり、マックスったら昨日から帰ってないみたいで」


 マリーは寂しそうに呟く。

 オーウェンはかたわらの聖女の顔を、じっと見つめ、同じように崖下へ視線を投げた。


「アイツだって、ひとりで行動することくらいあるだろ。マリーはアイツのお母さんじゃないんだから、そんな気にする必要ないさ。大丈夫、必ず、また会える」

「……ふふ、オーウェンってアルス村にいたころから、おかしな言い方する事があるわよね。それじゃ、まるで、マックスともう会えない、なんてわたしが悲観してるようじゃない」

「……そうだな。変なこと言った。そうだ、マリー、何やらギルドのなかが騒がしかったが、何か知ってるか?」


 オーウェンは取り繕うように、背後のギルドへふりかえる。


「わからないわ。さっき話を聞きに行った時は、べつに何ともなかったけど、何かあったのかしら?」


 マリーはスッとベンチから立ちあがり、オーウェンと共にギルドへと戻った。


 二人が戻ったとき、ギルド内は騒然としており、冒険者はもちろん、そうでない一般の市民までもが入り口付近に集まっていた。


 何事かと近寄ると、ひとつの机を囲んで、そのうえに置かれた″一枚の紙″に注目してるらしかった。


 野次馬たちはマリー達の姿を見つけると、自然とマリーとオーウェンに道を開けた。


「これ、その、なんて言ったらいいか……」


 言い淀み、冒険者のひとりが紙をマリーへ。


 机のうえの紙、そこに書かれた文字に目を通して、マリーは目を見張る。


(これは、マックスの字……?)


「は……?」


 紙に書かれた()()()()()()を、何度も何度も読みなおす。


 自分では、もつパーティの役に立たないこと。

 いままでずっと一緒にいて、申し訳ないと思っていたこと。

 自分のせいで、より強力なパーティになれる機会を奪っていたことに対する自責があったこと。


 そして、罪悪感から逃れるために崖から身投げしたこと。


 それは少年の遺書であった。


(嘘、嘘よ、意味がわからない、なんで、どうして? ありえないでしょ! そんなことあるわけない!)


 紙を取り落とし、「ぁ、ぁ」と声にもならない、不規則な息を吐いてマリーは崩れ落ちた。


 紙を拾いあげるオーウェン。


「そんな、まさか、マックスが、そんな事を思ってたなんて……()()()


 力なく首をふり、オーウェンは手紙を机のうえにおく。


 マクスウェル・ダークエコーは、ジークタリアス冒険者ギルドでは、ドラゴン級冒険者パーティの『英雄クラン』にいるだけあって、名の知れた冒険者だ。


 誰よりも努力する姿勢に、厚い信頼をギルドからも、街の皆からも寄せられていた。


 だが、彼の実力不足もまた周知の事実として、触れてはいけない厄ネタのような扱いで確かに存在していた。


 ゆえに、遺書を見たおおくの者は納得してしまった。


 ああ、やっぱりな、と。


 人混みをかき分けて、筋骨隆々なたくましい男がやってくる。


 紅瞳の彼は、遺書を手にとると「……なんてことだ!」と、誰よりも少年の死を悲しんだ。


「くそ、俺たちの仲間マックスがこんな辛い気持ちを抱いてたなんて、俺は、リーダーとして失格だ!」


 背中に黒い大剣をたずさえた男は、頭を抱えた。


「アイン様は悪くないですよ! こんな辛い結果に終わってしまったのは残念ですけど、きっと、マックスだってリーダーであるあなたが、立ち止まる事を望んでないはずです!」


 大袈裟に喚き、膝をつく男ーー魔剣の担い手、『力』のアインを持ちあげる数人の女冒険者たち。


 アインは「そうだよな、まだ俺たちは何もしてないんだ、立ち止まるわけにはいかない!」と、ギルド全体のお通夜ムードを払拭するべく激励を飛ばした。


 マリーはポカンとして、あたりを見渡し、言葉にできないおぞましいモノを感じていた。


 ただの一声で、日常へもどり始めるみんな。


 粛々と事実確認が進められ、遺書があった場所、飛び降りた場所に置いてあった遺品など、第一発見者と思われる者たちがギルドへと提出していく。


 無機質、淡白な所感。


 ギラつく紅瞳が少女をとらえる。


 アインは尻込みするマリーのもとへ来て、膝を折って彼女の白い手を握りしめた。


「マリー、マックスの事は本当にすまなかった。俺たちの存在がプレッシャーを掛けていたなんて、思いもよらなかった」

「ぁ、……ぃや、そうじゃなくて……」


 マリーは震える唇で、うまく言葉を発せられない。


「だけど、安心してくれよな、悪いことばかりじゃないさ。これから俺たちのパーティはパワーアップする。そうすれば、今までには無理だった危険な冒険にだって挑めるさ! なに、恐いのか? 心配すんなよ、この俺が()()()()()()()()から、なっ!」

「……ッ、ちが、ぅ、わたしを守るのは、マックスの……」


(なんで、どうして、みんな、マックスがいなくなったのに、そんな平然としていられるの?)


 マリーは出来の悪いドッキリを受けてる気分であった。すこしすれば、大成功っ! という看板をもったマックスが現れてくれるはず。そう願ってやまない。


 けれども、誰も芝居をうってるようには見えないなかった。


 目眩がする、頭がいたい。

 肩が重くなっていき、このまま押しつぶされて、ぐつぐつに溶けてしまいそうだ。


 マリーは気分の悪さに口をおさえ、涙をながす。

 そうして、悪夢のような現実をまえに、パタリと意識を失った。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 ーー数日後


 マックスの捜索は気持ちばかり続けられ、その結果として、崖下へ身を投げた可能性が高いとされた。


 なによりも彼の字による遺書(いしょ)がある。


 それが、決定的になり、マックスは自殺した冒険者として、街中の話題になり、皆に語られーーそして、もう忘れられそうになっている。


 マリーはこの数日、神殿から出ていなかった。

 ギルドへ顔をだすこともなく、ただ淡々と聖女としての役目に身を預ける日々。


 部屋のなか、豪奢なベッドのなかふとんを頭からかぶり、マリーは膝を抱える。


(……何してるんだろう。わたしは、何のために今まで聖女として頑張って、すこしの時間だけでも、マックスと一緒に並び立とうと努力して来たんだろう)


 ーーコンコン


 ノックされる音。

 扉が開いて、ゆったりした足音が入ってくる。


「マリー、いつまで塞ぎこんでいるんですか? 過ぎ去った者はもどらない。普段から、そう教えてるじゃないですか。さあ、顔をおあげなさい。今、頑張らなくてどうするですか、ほんと」

「……ロージーは黙ってて。聖女の務めなら果たしてるでしょ。ほっといてよっ!」


 老婆へ、(まくら)を投げつける。

 レベル82の彼女の腕力ならば、もはや投石にも等しい。


 ロージーは尻餅をついて、驚いた顔でマリーを見つめかえす。


 しかし、すぐに眉をひそめ、普段なら活力溢れる顔を寂しそうに歪めると、そっと歩みより、マリーの白く若い手を、しわしわの皮の厚い手で力強く握った。


「いつも元気に挨拶してくれるマックスに会えなくて、わたしもとっても辛い。だけどね、マリー、あなたは頑張らなくちゃいけない。頑張れるのは、生きている者の特権なの。命ある限り、頑張って、耐えて、前は進まないといけない」


「ぅぅ、ぁぁ、うぅう! こんな、事になるなら、わたし、マックスに、もっとちゃんと気持ちを伝えるんだった……! あたしがマックスの側にいつでも、居てあげれたら、こんな終わりはなかったのに……! ぅぅう、わたしの、呪われたクラスのせいで……! ぁああ、ぅうぅ、……」


 自身の境遇を呪い、恨み、忌む言葉。

 ふつうの高位神官前ならば、女神への侮辱で相応の処遇が決まっていても、おかしくない。


 しかし、老婆は年季に厚くなった小さな手で、マリーの肩に手をまわし、優しく肩をたたくばかりだ。


 少女は、老婆の胸をかりて、ひたすらに泣きつづけた。


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