第39話 流派と剣術等級と真面目な騎士
騒ぎたてる外野に人壁のリングを作られる。
ここはいまだ瓦礫の片付かない区域。
そこで、濃密な暴力の色をみれば、ここが数日前に目撃したボトム街の無法地帯なのかと錯覚すらする。
「参考までに教えておくぜ、俺様は″レベル82″だ。使う流派はもちろん″剣聖流″、剣術等級は″下熊″まで行ってるぜ」
「……わからないな、なんでそれを教えんだよ?」
以前の俺なら、敵うはずもないレベル差にすくみあがっていただろうが……肝がすわったんだな。
「てむぅえは魔物相手にしか戦ってこなかった冒険者だろが、これくらいハンデがなきゃ可哀想ってだけだよ。ハハハハっ! なんたって俺様は首都でドラゴン級冒険者とタイマンはってぶっ倒したことがあんだからよぉ!」
「82レベでドラゴン級を? それは凄いな」
素直に感心する。
アインやオーウェンを基準に考えれば、ドラゴン級冒険者の前衛は100レベルを軽く越えているはず。
この街の外の冒険者には詳しくないが、ドラゴン級パーティならば数えるほどもいない。
ジークタリアスの外には、あと2つしかドラゴン級パーティは存在しないしな。
「いけ、パトリックどさくさに紛れて腕の一本折ってやれえ!」
「聖女様の隣でイキッてる野郎に天罰をくだしちまえ!」
「マックス! そこだ、右、右だ! おい、なんで殴りかえさねぇんだ! おっさんが代わりにそのガキ殺してやってもいいぞ?!」
白熱するストリートファイト。
俺はとりあえず避けに徹する。
「どぅりゃアッ! おら、クソ野郎が! これでどうだ! 次はこっち! ……なんで当たらねぇ?!」
剣術道場で学んだステップだけでなんとかなるものだ。
ソフレト共和神聖国の三大流派は、それぞれに″剣術等級″という各流派の剣術道場から発行される段位のようなもので、おおまかの技量を測れるようになっている。
剣術等級は下から『猫』『熊』『鬼』『ポルタ』『竜』となっており、それぞれ上段と、下段があってすべてで10等級設けられている。
多くのものは『鬼』にすらたどり着けず、『ポルタ』や『竜』の剣術等級を得るのは困難を極める。
この騎士は下熊ーーつまり下段の熊なので、めちゃくちゃ頑張ってると判断できる。
喧嘩ふっかけてきて、こんな見た目なのに、根は真面目らしい。
ちなみに俺は銀狼流の下猫だ。
剣術等級をもらうだけでも苦労する世知辛い世の中なので、そんなに馬鹿にしないでほしい。
「てむぅぇえ、避けのテクニックだけは達者じゃねぇか! 目もちゃんとついてきて、足もよく動いてる。キモち悪いくらいに動けるじゃねぇか!」
「おう、ありがとな」
なんか、凄い分析して褒めてくれる。
実はこいつ、そんな悪い奴じゃないのか?
まあ、ぶちのめすけど。
「どぅりゃあ!」
大きく振りかぶった右ストレートに肩にかするくらいの最小の動きで避け、左ジャブを騎士の顔に打ちこむ。
「ぐぶ、ぇ?!」
神威の騎士が盛大にのけぞって、足を止める。
相当に効いてるらしい。
「どうした、ただのジャブ一発で終わりかよ? 神威の騎士なんて言っても、たいした事ないんだな」
膝をつき、地面を見つめる男は、ガバッと顔をあげて睨みつけてくる。
「てむぅぇ、ラッキーパンチで調子乗ってんじゃねぇよ!」
激昂して突撃してくる男。
ーーパチン
遊びはおしまいだ。
吹き飛び、石壁を突き破って、神威の騎士は瓦礫に埋まってしまった。
「……が、ぁ」
「最大限に手加減はした。仲間だったら運んでやれよな」
動かなくなった騎士にまわりの者たちが駆け寄る。
「嘘だろ、今、何が……!」
「涼しげな鐘の音が聞こえて、それで……こりゃ、あいつのスキル……?」
疑問に答えてやる義理はない。
「ま、待て、てむぅぇえ……ッ」
「ん」
手加減しすぎたのか。
去ろうとするとさっきの神威の騎士が、瓦礫を押しのけて、立ちあがってきた。
男は顔をふり、意識をはっきりさせると、腰の剣を鞘から抜きはなつ。
「おい、パトリック、それはまずいだろ……ッ!」
「はぁ、はぁ……大丈夫だ、この男は……本物だぜ、へへ」
神威の騎士は静止する仲間の手をふりはらって、直剣を正眼にかまえた。
構えすら手堅い。
やっぱり真面目なんじゃないのか。
「俺様はよぉ、団長のために強くならなきゃ、いけねぇんだわ……そのためには、本物の強さを持つ野郎と、戦わなきゃ、いけねぇ……ドラゴンを一撃で追いかえした『聖女の騎士』なんていうからには、俺様ごときじゃ、歯が立たねぇなんざ、わかってんだよ……」
真面目やん。
「あとで反省文は提出するから、止めないでくれや。これを逃したらもう二度と、このマクスウェル・ダークエコーと戦えない……わりが、てむぅぇ、俺の全力受け止めてくれよなァ!」
「……なんだよ、それ、わずらしい言葉遣いだな」
俺はやりにくい馬鹿野郎にまんまと乗せられてたのか。
真面目で、不器用で、誰かの為に必死で……この馬鹿野郎は、嫌いになれないな。
「名前は?」
彼の名を聞きながら、俺は剣をぬき、両手で握る。
剣先をまっすぐ相手に向け、顔の横に剣身をもってきて引き絞る。
現代の銀狼流の構え『霞の構え』だ。
「っ、銀狼流……か。俺様の名前は、パトリック・マルビンだ。やがて団長の右腕でも左腕でも、とにかくそんな感じの二つ名をもつ剣士の名だ。よく覚えておきやがれェッ!」
息を短く吐き捨て、踏み込みひとつ、上段から刃を振りおろしてくる。
あまりにも遅い。
挑発する意図はなくとも、止まって見える。
これは俺が″測定不能″だからだろう。
レベル差とはこれほどまでに、戦いを変えるのか。
「今の俺なら、もっと上の剣術等級目指せるかもなーー」
自身の期待を感じながら、俺は上段の振り下ろしを、ひょいっと避けてパトリックの腹に膝蹴りをおみまいした。
一撃のもとに、彼は白目を向いて剣を取り落として、地面に転がった。
「なんて動きだ、速すぎんだろ……」
「動きは剣の初等者なのに、とにかく速ぇぇ……どうなってんだ、あれ」
「なんで、あんな雑な足運びであんな速さが……」
驚く者たちの、指摘ポイントがグサリと心に響いてくる。
まずい、レベル差で勝ったのがバレている。
神威の騎士クラスになると、俺のステップや体捌きが剣の熟練度に比例していないのが丸わかりなんだ。
となるとーー銀狼流の下鬼まで剣を高めてるマリーには、俺の動きがカッコ悪いのがバレバレということになるのかな?
これは緊急事態だな。
早急に剣の練習をしなければ。
「マックス、やったな流石だぜ。おっさんお前が誇らしいよ、あの真面目なチンピラを負かしちまうなんてな」
パスカルにタオルを渡された、一言礼を言って、彼の名誉のためにかいてない汗をふくふりをする。
「『聖女の騎士』マクスウェル・ダークエコー君、すこしお待ちいただけるかな?」
「ん?」
声に振りかえると、震えて直立する神威の騎士たちの真ん中に、筋骨隆々の巨人が立っていた。
「パトリックを倒した手際は見事というほかない! しかし、このままでは『神威の十師団』としてのメンツが立たないのもまた事実。ダークエコー君、どうかな私と一戦お手合わせ願いたいのだが?」
「イィ?! マックス、ダメだぞ、断れ! 神威の騎士団の騎士団長なんて、単独でドラゴンを殺すような連中だぞ?! その中でも三傑に数えられる最強格……流石にこれ相手はまずいだろが……!」
かたわらで震えるおっさんにを無視して、俺よりずっと背の高い『超人』を見上げる。
アルゴヴェーレは綺麗に刈りそろえられた、品のある野性味というでも言うべき黒髭を、大きく歪めて、気分良い笑顔を浮かべていた。
立場、名声、積み上げた武功、全てが違う。
ただ、なんだろう。
相対してみて感じたが、負ける気はしなかった。
「滅多にない機会です、ぜひとも騎士団長様の光栄な申し出を受けさせてもらいます。場所をうつしましょうか?」
「ありがとう、ダークエコー君。あの街の中央にあったおおきな広場なんかいいんじゃないかな?」
「確かにぴったりですね。すこし歩きましょうか」
「待て待て、この2人まじでやる気なのか……?」
オドオドするパスカルと、神威の騎士たちを背後に引き連れて、俺たちは中央広場へと移動することにした。
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