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第30話 極刑と猶予 前編



 昨晩の熱地獄を忘れる穏やかな春の青空のした。


 小鳥がさえずる″朝″の領域で、女神の名の下に【英雄】アイン・ブリーチの審問は粛々と進められた。


 昨日、夜のうちに神殿騎士と都市政府の衛士たちに連行されたアインは、俺の生存と証言で、いとも簡単に身柄を拘束され、女神の祝福ーースキルとレベルーーを一時(いちじ)無効化できる『沈黙(ちんもく)聖鉄(せいてつ)』を手足に(かせ)としてはめられ、すべての力をうしなった。


 本来ならば【運び屋】が帰ってきたところで、正義の天秤をつかさどる神殿も、簡単に【英雄】の弾劾審問などおこないはしない。


 ことがこれほど迅速(じんそく)に運んだのは、アインの求心力が著しく低下していたことが要因もして大きい。


 俺はアインがどうしてこれほど、市民からの人望を無くしていたのか、その発端となった事件を昨晩のうちに聞き及んでいる。


 奴がマリーに行った非行(ひこう)


 歯を食いしばり、あの顔を殴り飛ばしたい衝動を我慢する。


「嘘だ、こんなの悪い夢なんだ……これは現実じゃない……違う、ありえない、あっていいわけがない、俺は……英雄の役目を与えられたんだ……この手にはいつだって魔剣があって……」


 アインはボソボソと呟きながら、クマの深い目元を震わせ、定まらない黒目で重たい鉄のはめられた自分の手を見下ろしている。


 手をわきわきと開閉するが、そこに黒き魔剣が現れることはない。


「同パーティの仲間であるマクスウェル・ダークエコーを悪質な罠にはめ、聖女様の筆跡をいつわり、オーウェンと共に、かの者を崖から突き落とし殺害しようとした。この事実に何か間違いはあるか。あるいはなにか申し開きはあるか、アイン・ブリーチ」


 審問官をつとめる年老いた神官は、厳粛な態度でアインにたずねた。


 審問官の質問と同時に、中央広場の一部が騒がしくなりはじめる。


 どうやら、怪我の治療がおわったオーウェンが事前の取り調べをおえて、ちょうどよく入場ということになったようだ。


 審問所に入ってくるオーウェンは、聖女による最高級の治癒を受けず、まだ包帯が体に巻かれた状態だった。


 ひぶくれと変色した皮膚に審問所の一部で、悲鳴があがる。


 彼の身に刻まれた火傷は痛々しかったが、オーウェンはそれでもしっかりとした足取りで歩いていた。


 いつもどおり変化に乏しい表情で、彼もまた『沈黙の聖鉄』をはめられ麻布の貧相な服を着せられている。


「嘘でしょ……オーウェン様まで……」

「ど、どうしてオーウェンさんが、マックスを追放なんてしたんだ……」

「やっぱ何か理由があって、追放したんだろ? マックスの方に非があるんじゃないのか?」


 それまでの審問所の空気は、彼の登場で一変して、世論が俺を懐疑的な目で見はじめた。


 それは、オーウェンが積み上げてきた大きな信頼のもつ影響力そのものだった。


「オーウェン、オーウェン、すまねぇ……俺だけじゃなくて、お前まで……」

「アイン。俺たちは共犯だろう」


 アインの隣の木の丸太に縛られるオーウェンへ、アインは泣きながら誠意の謝罪をする。


 自身と同じくスキルもレベルも喪失したオーウェンに、思うところがあるのか。


 だが、すべては遅い。


「罪人オーウェン……君にも確認しよう。同パーティの仲間であるマクスウェル・ダークエコーを、悪質極まりない罠にはめ、聖女様の筆跡をいつわり、アイン・ブリーチと共に、かの者を崖から突き落とし殺害しようとした。この事実に何か間違いはあるかね?」


「いいえ、ありません。すべては事実です。俺たちはマックスを自殺に見せかけて、聖女様の筆跡をスキルで模倣し、マックスに効力のないパーティからの除名を決定した用紙を渡して、彼の心をくじき、崖からも突き落としました」


 オーウェンは一切俺の方を見ずに、淡々とした声で自分たちが行った非道を認めた。


 彼の肯定に審問官は鎮痛な顔で、ただ一言「そうか、よろしい……」と聞きたくはなかったとばかりに残念そうにうなづき、手もとの紙に何かを書きこむ。


「オーウェン様が理由もなくもなく、そんな事するわけがないだろ! マックス! 今更ノコノコ帰ってきて2人を陥れようとしてるんだろうっ!」


 ざわめきたつ傍聴席から、卵が投じられる。

 優しく受けとめて、つづいて他方向から飛んでくるカビたパンもキャッチする。


「オーウェンッ! 俺たちはお前を信じてたのにっ! アインとは違うって、お前こそ真の英雄だって、正道をいく魔剣士なんだって尊敬してたのにッ! 聖女様を利用して、仲間を崖から突き落とすなんて、どこまでお前たちはクソ野郎なんだ!」

「アイン! てめぇはやっぱり去勢してこいよッ! お前みたいなクズのせいで、オーウェンさんまで!」


「ぅ、やめ、俺は【英雄】、なんだ、痛ッ、こんな、ふざけたことが、あっていいはずが、ないだろ……! 俺の行いは大義をもってーー」」


 オーウェンとアインには、俺以上に卵やらパンやらが、負の感情とともに投じられまくる。


 市民たちの期待を裏切った英雄たち。

 露呈したその醜い人間性。


 失望の声はいつまでもやまない。


「静粛に! 静粛にするのだ!」


 審問官は木づちをと鳴らして、声を張り、怒り心頭の場をおさめにかかる。


「では、アイン・ブリーチ、オーウェンの両者へ同等の罪を科すことをここに決定する」


 審問官は手もとの用紙を何枚か眺めて、ふと、顔をあげると俺の方を見てきた。


「……マクスウェル・ダークエコー、君が彼らに望む求刑に関してだが、これは間違いのないものかな?」

「はい、間違いありません。昨晩のお話しした通りの刑を求めます」

「そうか……では、刑を言い渡す。被害者であるマクスウェル・ダークエコーの求刑にしたがい、″オーメンヴァイム″への無期懲役を、罪人たちへと科すことをここに宣告しーー」


 審問官が言葉を言い終わるより先に、傍聴席が驚きと″過酷すぎる刑″に対する同情でざわめきだす。


「オーメンヴァイム、あの大監獄で無期懲役……?」

「それ実質死ねってことだろ……」

「マックス、あいつ相当恨んでるな」


 オーメンヴァイムは、ソフレト共和神聖国全土から極悪すぎる受刑者があつめられるーー『現界した地獄(オーメンヴァイム)』を意味する名を冠した大監獄である。


 嵐のやまない絶海に建設された牢獄で、入所から1ヶ月後の生存率は50%を下回る。

 脱獄した者はいまだかつておらず、冬は凍える寒さ、夏は腐敗する死体により伝染病が蔓延(まんえん)


 その過酷すぎる環境から、もはや人間の看守などいるはずもなく、『現界した地獄』は人ではない者たちによって運営されていると言われている。


 そこに無期懲役など、もはや死刑など生温い極刑も甚だしい。


 だが、審問官の言葉には続きがある。


「ただし、執行猶予もまた″無期″とする。さらなる条件として両名には″ジークタリアスの出入りを制限″するものとする」


「は? 執行猶予……?」

「それって……」


 審問官のつづく言葉に、傍聴席から不満と疑問の声が爆発した。


 矛先はもちろん俺だ。


「おかしいだろッ! あのクソ野郎どもにどうしてそんな慈悲をくれてやるんだ?」

「そうだ、そうだ! 早くオーメンヴァイムにぶち込めばいいだろうが!」


 声の大きい誰かの質問に中央広場は静まりかえる。


 俺はまぶたを閉じて、昨晩の、ベッドに横たわるオーウェンとの会話を回想していた。


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