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第23話 ジークタリアス:新しい脅威


 深い、深い、森のなかに竜の巣がありました。


 木々に隠されているものの、地面にポッカリと空いた、垂直にのびる暗い穴のなかでは、蒼い竜たちが仲良く暮らしていました。


 中でも長男の竜は、最も強く、優しい竜でした。

 兄弟たちのことを大切にして、偉大なる父親を慕っていました。


 しかし、ある時から兄弟たちは狩りに出かけてから、戻ってこなくなってしまいます。


 不審に思った長男は、探しに出かけた先で″人の影″が、兄弟たちの動かなくなった体を運んでいるのを目撃してしまいました。 


 たちまち、竜は人間へ復讐せんと襲いかかろうとしましたが、尊敬する父親がそれを許してくれません。


 何故だと聞いても、父親は答えてくれません。


 兄弟たちが消えた寂しい時間。


 やがて、竜は人間を観察するようになりました。


 いつか復讐するその日のために。

 

 優しかった竜はどこまでも狡猾に、汚くなりました。


 彼はある意味では、人間に復讐するために、人間を好きになっていったのです。


 醜くも、良い面と悪い面をあわせ持つ、多様性にとんだそのあり方に、心惹かれるように自分を誤魔化し、やがて自身もかくありたいと願うほど、彼らを愛してーーそのすべてを理解したうえで滅ぼそうと、優しいドラゴンは決意しました。

 




           ⌛︎⌛︎⌛︎





 ーー翌朝、マリー達は川のほとりへとやって来ていた。


 ギルド全体が撤退するという直前になって、聖女であるマリーが、かつてグレイグが現れたという地点に向かうと言いだすと、神官たちも冒険者ギルドも案の定、大変にあわてた。

 が、大きな戦力を護衛につけさせる条件で、マリーはなんとか撤退前のわずかな時間の探索を許されたのだった。


 彼女のまわりには少数精鋭の戦力として、『英雄クラン』からアイン・ブリーチとオーウェンが。

 『氷結界魔術団』からはサブリーダー『氷槍(ひょうそう)』ラザニア・グリンデリーとアルバート・アルドレアが出張って来ている。


「この森で、マックスごときが生きているなんて思えないし、グレイグを倒しただとか……おい、クソガキ、てめぇいい加減なこと言ってると、またぶん殴るぞ」


 アインはドラゴン級冒険者の一団を先頭切って案内している青髪の少年ライトへ、イラつきを隠さない目を向けた。


 ライトはアインの紅瞳をまっすぐに見つめ返して、キリッとした顔で決して怖気るそぶりを見せない。


「チッ……雑魚がよ」

「なにイラついるの、アイン。ライト達はマックスの捜索に手伝ってくれてるんじゃない」

「だって、こんな森の中にあのカスがいるわけ……」


 マリーの威圧的な目線がアインを襲う。

 すると、彼は見るからにひるみ、それ以降黙ってしまった。


 いまだに鎮痛な面持ちの『氷結界魔術団』のふたりは、特に何かを言うわけもなく、オーウェンもまた口をだしはしない。


 先頭をいくライトとボルディとグウェンは、背後でピリピリとぶつかり合う、重たすぎるプレッシャーに胃がキリキリと痛くなる思いを味わっていた。


「たしかここら辺……っ、あった! ほら、見てください!」


 ライトたちは崩落した岩壁を指差して走りだした。


 彼らのあとをドラゴン級冒険者たちは駆けて追うと、現場の壮絶な痕跡に皆が顔をしかめた。


 崩れた岩場には、乾いた赤黒い血が大量に飛散していて、ここで巨大な生物が死んだことは明らかだった。


 マリーは近寄って膝をつき、あたりに散らばっている赤い鱗をひとつ、つまみ上げた。


 オーウェンもアインも、ラザニアもアルバートもその鱗に注視して、それが確かに『(あか)(けもの)』の物だと判断をくだす。


 アインは不機嫌に顔を歪め、「こんなの証拠にならねぇよ」とひとりで向こうへ行ってしまった。


「あのグレイグの鱗がこんな飛び散り方をするのか? いったいどんなパワーで叩けば、あの魔物が壊れるのか……想像もつかないな」


 オーウェンは膝をおり、地面に飛散した鱗を拾い集めながら言った。


 マリーは思う。


(グレイグは確かに死んでる。でも、死体はどこに?)


 誰もが思う疑問に答えたのは、ライトだ。


「マックスさんが倒した瞬間に、死体は消えちゃったんですよ」

「ふむ、マックスのスキルは死んだ生物であれば収納可能だったな。もしレベルアップして、進化していれば5メートルを超えるグレイグの死体も収納可能、かもしれない」

「っ、やっぱり、オーウェンもそう思うよね!」


 マリーは目をキラキラさせてオーウェンの腕を掴んだ。


 オーウェンは、キョトンとしてたじろぎ、「マックスが生きていると、俺だって信じたい」と言い、不器用ながらも浅く微笑んだ。


「それじゃ、やっぱりマックスは生きてるのよ! ほら、よくよく考えたらこの川ってボトム街の中央を流れていた川じゃない? 思えば、あんな高さから落ちて気絶しないほうがおかしいわ。きっと、意識をうしなって、川に落ちて、ずーっと流されちゃったのよ」


「相変わらず、聖女様は想像力豊かなのね。……気遣う気持ちとかないの?」


 ワキワキしだしたマリーへ、冷たい表情を向ける少女。長い水色の髪の間からのぞく、紺青(こんじょう)の瞳は深い叡智(えいち)をたたえ、顔はいつものとおり気怠(けだる)げだ。


 現在、冒険者の中でも、もっともテンションの低い、彼女の名はラザニア・グリンデリーである。


 マリーは大事なリーダーを失い、一番参ってしまっている彼女の気持ちを思い出して「ごめんなさい」と顔をふせて元気なく謝った。


「謝る必要はない。加えると、聖女様が豊かなのは想像力だけじゃない」


 謝る聖女のとなり、抑揚のない声が発せられる。


「…………ねえ、アルバート、お願いだから黙っててくれない?」


 マリーへフォローを入れたのは、さらさらの銀髪をした、薄水瞳の美形の青年。

 ″バランスの良い″ことに定評がある、戦う錬金術師アルバート・アルドレアだ。


「と・に・か・く、そろそろ帰還したほうがいいんじゃない、聖女様? お願いだから、ここでマックスを探すなんて言い出さないでね? 冒険者ギルドはジークタリアスへ帰還することを選んだんだからね?」


 ラザニアはジト目でまくしたて、一足先に拠点へと帰りはじめた。


 話し声が聞こえていたのか、眉間にしわをよせた見るからに機嫌の悪いアインはが戻ってくる。


「いい加減にしろよ、マリー。例え、マックスがグレイグの死体を収納できるようになってたとして、だ。絶対に【運び屋】ごときには、あの魔物を倒せない。100歩譲って、マックスが生きていたとしても、このグレイグのを葬った奴とマックスはなんの関係もない!」


 アインはマリーの目を見て、「マックスは死んでんだよ! なんでアイツなんかに構うんだ!?」と怒鳴りたてて、不満を爆発させ、近くの木を魔剣で叩き斬って拠点へと帰っていってしまった。


「……ぅ」


 オーウェンは「暴走しないか見てくる」とマリーに告げて、さっさとアインのあとを追っていってしまう。


 残されたマリーに、ライトとボルディ、グウェンがそっと近寄る。


 肩を震わせてすすり泣く聖女へ、ライトは声を確かにマックスの特徴をつらつらと並べていく。


「深い紫色の瞳でした。黒い髪はボサボサで長くて、山籠りから帰ってきたみたいな格好してて、くたびれてボロボロの革鎧を着てましたんですよ。ちょうど、これくらいの剣を装備してて、俺たちが怪我してるってわかったら一生懸命に治してくれたんです。俺たち、見たんですから、あれは幻なんかじゃありません! マックスさんは生きてるんですよ!」


 記憶のなかのマックスとは、幾分か特徴が違うが、マリーは少年たちの自信に満ちた顔に、言い知れぬ温かさを感じていた。


 マリーは泣き止み、意思を新たに歩きだした。


 もう彼女の瞳には、一分の疑いも残っていない。


 マックスは必ず生きている。



           ⌛︎⌛︎⌛︎



 緊急クエスト、及び崖下の開拓のために設置された簡易拠点が破棄され、街をあげての大規模作戦は完全に収束をむかえた。


 冒険者たちは命の危険に怯えながら、ボトム街まで逃げ帰り、そこからすぐにアッパー街へと帰還。


 ジークタリアスは崖上と崖下の世界が、ふたたび分裂しながらも、冒険者ギルドは手痛い敗走に蓋をして、偽りの平穏へと皆を戻らせていった。


 多くの資材を失い、冒険者を失い、疲弊した冒険者ギルドはしばらくの間、休業を余儀なくされる。


 その間に、都市の外から出稼ぎに来ていた冒険者たちは、おのおの活動拠点へと帰って行き、ジークタリアスでは、都市のにぎわいの根幹となっていた冒険者たちの姿が見れなくなってしまっていた。



           ⌛︎⌛︎⌛︎



 ーージークタリアス帰還から2日後


 まだ日も昇らぬ早朝。


 神殿にある、聖女のために用意された一室。

 豪華な調度品が揃えられた部屋の、大きな窓辺でマリーは膝をかかえていた。


 彼女が見つめるのは、ジークタリアスではない。


 崖の下に無限に広がる、冒険者ギルドを拒絶した魔境の大森林。そこにマックスがいる。


(マックス……もしいるなら、帰ってきてよ……。わたし、″弱い″からひとりじゃマックスの事を探しに行くこともできないの。お願いだから、マックス……)


 ふと、感じる気配に首をかたむける。


「……なんだ、ロージーか」


 扉の開閉音に、マリーは蒼翠の瞳を入り口へとむけてつぶやいた。


 入ってきたのは、彼女の世話係の老婆、ロージーだ。

 

「マリー、こんな朝早くからどうしたの?」

「ロージーこそ。ノックもなく部屋に入ってくるなんて、聖女に対して不敬よ」

「なに今更、聖女ぶってるんですか、この子は、ほんとに。知ってるわよ、マリー。あなたはひょっとしたら、また朝早くにあの少年が自分のことを起こしにきてくれるんじゃないか、って期待している。そうね?」

「……」


 ロージーの問いかけに、マリーは答えない。

 思惑を言い当てられ、むくっと膨れっ面をするだけだ。


「いいわよ、マリー。近くの″聖都(せいと)″アクアテリアスから『聖歌隊(せいかたい)』を呼ぶことにしたわ。もし彼らがやってきたら、あの気持ちの良い少年、マックスの捜索くらいならできるはずでしょう」

「っ、ロージー、いいの?」


(『聖歌隊』はソフレト共和神聖国の最強のスキルホルダー達、彼らが動けばきっと『(あか)(けもの)』の群れも恐くないはず……その分、めったに″聖都″から動かないはずだけど)


「『聖歌隊』はマリーの為なら、必ずチカラを貸してくれる。だから、安心して待ってるといいわ。ただし、聖女としての務めをしっかり果たしなさいよ、ほんとに。冒険者ギルドも今はお休みなんだし、毎日、お祈りに参加してもらいますかね、ほんと」


 ロージーの言葉に、マリーは顔がほころぶのを隠せなかった。


 老婆の名前を呼びながら、抱きつき「ありがと!」と感謝の言葉をのべた。


「まったく、この子ったら、ほんとにね。……まあ、後悔の残らないようにしなさいな。歳とってから悔いたって遅いの。やれる時に、全力をだしておきなさいよ、ほんとにね」


 愛嬌をふりまく聖女に、思わず笑顔をうかべるロージー。


「っ」


 しかし、彼女の顔色がふと、険しいモノに変わった。


 老婆の目線のさきは、窓の外だ。


 マリーは変わりゆく事態に気がつき、慌てて窓辺に駆け寄った。


「っ、嘘……! 街が……っ、」


 美しい瞳は驚愕に見開かれる。


 窓の外の世界、平穏に帰ったばかりのジークタリアスは、赤々と燃ゆる炎に包まれていたのだ。


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