始まり
新しいのを書いてしまいました、どうも風狼龍です。
この作品は自分が好きなヒーローと悪魔を組み合わせてみた物語です。
今回は短めですが、楽しんでもらえる様に頑張ります。
いつも通りの日常だと思っていた。
いつもと変わらず学校に通い、勉強をして、休み時間などには友達とバカな話で盛り上がって。
そんなありふれていて、どこにでもある様な日常。
俺、黒川 蓮はそう思っていた。
だけど、そんな日常が壊れる日が来るなんて誰が思うだろうか?
漫画やアニメでよく見る様な突然日常が壊れて、自分の認識している世界の在り方が変わり始めるなんて。
いつも通りの帰路についていたはずなのに、その帰路に響き渡るのは悲鳴や泣き声などと言ったもの。
何かから逃げる様な叫び声と混じって聞こえてくる愉悦と言わんばかりの笑い声や鳴き声。
俺の目の前に広がっているのは逃げ回る人々とそれらを襲う異形の存在達。
何が起こっているのかなんて、俺には理解するので、必死で……どうしてこんなことが起こっているのか、本当にわからなかった。
とりあえず、逃げなければならない。
逃げなきゃ、襲われた人たちの様に殺されるか、喰われるかの末路を辿ることになる。
俺は恐怖を振り払い、逃げ出そうとした時だ。
「お母さん! お母さん! 起きて、お母さん!」
子供の声が聞こえ、そちらへと視線を向けると、血だまりの中に横たわる女性を必死に揺すっている男の子の姿があった。
近くには緑色の肌を持ち、醜い顔をした小柄な人型の異形がいる。
RPGとかでよく見るゴブリンのそれに近い姿だ。
恐らくだが、子供を庇って斬られたのだろう。
あの出血量だと……もう。
近くにいたゴブリン(仮称)はそんな泣きじゃくる子供に不気味な笑みを浮かべながら近づく。
そして、持っていた短剣を振りかぶり始める。
近づいた瞬間に斬り殺すつもりだ。
それに気付いた俺は頭が理解するよりも先に足が動き出していた。
我ながらバカなことをしているのかもしれない。
自分の命が惜しいのなら、子供のことなんて無視して逃げ出せばいいだろう。
だけど……それでも。
「見捨てることなんてできるかよ……!」
ヒーローとかの様に戦えなくたって、あの子を助けるくらいはできるんだからよ!
ゴブリンは男の子の元まで来ると、不気味な笑みは歪んだと言ってもいいほどの笑みに変わる。
まるで今から殺す子を、何もできない子を、哀れだとバカにするかの様な笑みで。
俺は走るスピードをあげる。
「間に合えェェェ!」
短剣が男の子目掛けて振り下ろされたと同時に俺は飛び込み、その子を抱えて、地面を転がる。
ゴブリンは短剣が空ぶったことに驚いた後、こちらへと視線を向けてくる。
まるで、楽しみを取ったことに怒りを覚えているかの様な目。
「ゲキャキャ!」
怒声の様な声をあげながら、地団駄を踏み始める。
恐らく罵倒か何かを言っているのだろうが、生憎俺にはゴブリンの言葉などわからない。
腕の中にいる男の子へと視線を向けると、男の子は涙を流しながら、俺を見てくる。
「大丈夫か?」
「うん……。だけど、お母さんが……! お母さんが……!」
「……今は逃げるしかない。一緒に逃げるぞ」
そういって、男の子を抱えて立ち上がった時だ。
俺の目の前に他のゴブリンが数体現れる。
少し後ろに下がり、別の方向に逃げようとするが、そこには豚の顔を持った人型の異形がいた。
恐らくだが、オークだろう。
なら、違う方に! と考え、そちらへと向くと、二、三メートルはあるのではないのだろうかと疑いたくなるような異形の大男がいた。
巨人……というほどの大きさではない。
こういう感じのって、ゲームではオーガっていう名前で出て来たりしているし……オーガかもしれない。
だけど、どうしたものか。
気付けば、異形の怪物たちに囲まれていた様だ。
絶体絶命とはまさにこのことだなとしか言いようがない。
先ほど怒声をあげ、地団駄を踏んでいたゴブリンもそれをやめ、殺気をこちらへと向けながら、少しずつにじり寄ってくる。
他のゴブリンやオーク、オーガも地道に近づいてきており、死が少しずつ迫ってきているのがわかる。
死ぬんだとしても、せめて……この子だけでもどうにかして助けてあげたい。
こんな状況で何ができるかなんてわからない。
相手は武器を持っているから、素手で勝てる自信だってない……いや、そもそも怪物なのだから、素手で勝てる保証さえない。
だが、もしかしたら、俺が囮になれば、チャンスはあるかもしれない。
それでもし……俺を狙わず、子供を狙ってしまったら?
その時点でアウトだ。
二度連続で助けることができる保証がないのだから。
「クソ……どうすれば」
「ゲキャキャ!」
ゴブリンはあたふたしている俺が面白いのか、楽しそうに笑いながら近づいてくる。
武器となる様なものがあれば……もしかしたら、彼らを退けることができたのかもしれないのに。
それか力さえあれば……!
「なら、力を欲するか?」
「え?」
いきなり聞こえてきた声に不思議に思っていると、俺と男の子の周りを結界の様に炎が燃え盛り始め、怪物たちの進行を止める。
そんな状況に男の子と一緒に戸惑っていると、俺たちの元に一人の少女が降り立った。
パッと見た感じは俺と同い年くらいだろうか? と思う子なのだが……こちらへとその子が向いた時、思わず見惚れてしまった。
炎を表すかの様な綺麗な紅い髪を腰まで伸ばしており、宝石を思わせるかの様な綺麗な黄色い瞳。
容姿も美少女と言ってもいいほどで、二次元から飛び出してきたと言われても納得してしまいそうなほど顔立ちが整った少女。
少女は俺の方へと視線を向けると、笑みを浮かべてみせる。
「力が欲しいといったな? 特異点よ」
「と、特異点……? 何を言っているのかわかんないけど、確かに力があればこの子を助けられるのに、とは思った」
俺は男の子へと視線を向けながら言うと、少女はその言葉に目を見開いてから、「ほほぉ、なるほどなるほど」と呟いて、何度か頷いてみせる。
それよりも、この炎は彼女が張ったのだろうか?
もし、そうなら彼女は一体、何者だと言うのか……聞いてみせるしかないのかもしれない。
俺はそう考えると、意を決して、少女へと声をかける。
「あのさ、一つ聞きたいんだが」
「ん? なんだ?」
「この炎は君が張ったものなのか?」
「あぁ、そうだ。我が張った。せっかく見つけた我と契約可能な特異点を死なせるわけにはいかんのでな。結界を張らせてもらった」
「け、契約……?」
さっきから特異点やら、契約やら、よくわからないことばかり言っているが、今気にするのはここじゃない。
だとするならば、彼女は一体何者なのか?
「恐らくだが、何者なのか? と不思議に思っておるだろうから、名乗らせてもらおうか。我はソロモン七十二柱が内に一人、序列『68』番目の魔神、名を『ベリアル』という! どうだ、特異点よ。誰かを助ける力が欲しくないか? いや、欲しいだろ? お主が先ほど、そう望んでいたのだからな。だからこそ、言おう。特異点よ、我と『契約』する気はないか? 全てを投げ捨て、我と『契約』する覚悟はあるか? その覚悟があるのなら、我と『契約』しようではないか。『契約』すれば、お主に絶大な力を与えよう」
そういって、ベリアルと名乗った少女は紅蓮の炎を思わせる本を取り出し、俺へと差し出してきた。
それが俺とベリアルの出会いだった。