守護者達の休息
後日談になります。
全てが終わり、出来事に思いを馳せる人々。
新書「守護者達の休息」
※ ※ ※ ※
★勇者王ルミナトゥス。
○生没年・在位期間は「歴代国王の記録・コーデラ王国」を参照。
○王朝:デラコーデラ(婚姻による)
○両親:母親は
ラズーパーリの宿屋の娘だが、名は伝わっていない。
父親は農村から婿入りしたが、母親の妊娠中に死亡。
母の再婚相手はヴェンロイド家当主の弟で、異父弟にアプフェロルド・オ・ヴェンロイドがいるが、「複合体事件」でラズーパーリが壊滅したため、教会の孤児院で育った。
○配偶者:ディアディーヌ・デラ・コーデラ(クレセンティス12世長女・第二子)…出産時に死亡。
バーガンディナ・デラ・コーデラ(クレセンティス12世次女・第三子。)
○子:“グラナド”・ピウストゥス・オ・ル・コーデラ。(初代ラズーパーリ公。)
○その他:弟:アプフェロルド・オ・ル・ヴェンロイド(異父弟)
○墓所:ラズーパーリのホプラス教会(現在の「国立歴史科学博物館」)
○概説:複合体戦争で、多大な功績を上げ、ディアディーヌ王女の婿になる。「勇者王」とは、その活躍による称号。極めて意欲的で大胆な改革を行い、国を導いた。反面、古い貴族から反感を買い、テスパンの乱が起きる。墓は略奪を逃れて、ラズーパーリに作られた。共に眠るのは王妃ではなく、一番の騎士だが、これはアルコーデラ教の旧い「伴葬」の慣習による(異説あり)。ただし、埋葬時の教会は、デラコーデラ教の物。
ピウストゥスは、弟のアプフェロルドの子であるが、にもかかわらず王が彼を後継者にしたために、保守層の反発を招き、テスパンの乱が起きた。
しかし、テスパンは、王都コーデリアを蹂躙し、無抵抗の市民を殺戮、魔法院や神殿も破壊した。当時カオスト公爵夫人であった、イスタサラビナ王女に強引に言い寄り、ルミナトゥスから注意されたのが、真の原因と言われている。
中性的な外見とは裏腹に、大胆で革新的な性格で、魔法と剣術に優れていた。類まれな美貌の持ち主ということもあり、史上、最も人気のある王である。
美貌故に、男女を問わず噂が絶えず、実は女性には興味が無かったため、王妃との間に子供を作らなかった、という説がある。
★クラリサッシャ一世。
○生没年・在位期間は「歴代国王の記録・コーデラ王国」を参照。
○王朝:デラコーデラ
○両親:ヨルガオード・オ・ル・コーデラ。(第37代カオスト公爵ウォリク次男)
バーガンディナ・デラ・コーデラ。(二度目の結婚による。)
○配偶者:ヘリオス・ハーストン
○子:無し
○その他:ピウストゥス・オ・ル・コーデラ(義弟)
レアディージナ・デラ・ヴェンロイド(実妹)
○墓所:コーデラ王族墓所。現在のコーデリア大教会。
○概説:テスパンの乱の後、皇太子ピウストゥスの行方不明期間に、暫定女王として即位。彼が宰相の座を希望したことから、正式に即位する。
テスパンの乱、原聖女教会の乱、トエン戦争に続く激動の時代、魔法から科学へと急速に進化する時代に、近代国家の基礎を築き上げる。
たおやかで儚げな容姿とはほど遠い、行動力と決断力のある女王だった。
デラコーデラ朝では、独身で自ら単独即位した、最初の女王である。(後に騎士ヘリオス・ハーストンと結婚)
神官出身者は妊娠しにくく、子供は居なかった。義弟のピウストゥスの子のセレニウスと、叔母のイスタサラビナ王女の子のアパタイオスのどちらを後継者にするか迷ったが、前者を選んだ。
後にフォルリーナ女王の即位の時に、アパタイオスの娘のエミーリーナ王女が、「彼女より私が正統」と発言して、一連の騒動になった事から、後継者問題は、クラリサッシャ女王唯一の失策と捉える向きもある。
しかし、エミーリーナの母イスタサラビナ王女は、アパタイオスの父親モルタン男爵アガトスと、正式に結婚はしていたものの、王室を離れて、家族だけで自由気ままに暮らしていた。クラリサッシャの決断は、そのような生育環境を配慮した結果の、賢明な判断と言える。
フォルリーナの大叔父に当るローデサ伯爵キリウスは、エミーリーナの軽率な発言と、それに続く騒動を回想録にし、クラリサッシャ女王は、長い目で見れば、賢明な選択をした、と、決断を支持している。
★“グラナド”・ピウストゥス・オ・ル・コーデラ。(初代ラズーパーリ公。)。
○生没年・在職期間は「コーデラ王国歴代宰相」を参照。
○両親:公式には勇者王ルミナトゥスと、ディアディーヌ・デラ・コーデラの息子となっているが、実父は叔父のアプフェロルド・オ・ル・ヴェンロイド。本人も認めている
○配偶者:“プリンセッサ”・ミルファ・ライサンドラ(結婚時にラッシル皇家の養女となる。)
○子:セレニウス三世(2代目ラズーパーリ公爵)、
サフィロス・オ・ル・コーデラ(40代目ザンドナイス公爵)、
キリウス・ローデサ(ラッシルのローデサ伯。伯爵令嬢マーリンカとの結婚による)
○その他:姉:クラリサッシャ一世
、レアディージナ・デラ・ヴェンロイド
○墓所:ラズーパーリ第二教会(現在のコーデリア薔薇公園)
○概説:愛称の「グラナド」は、ザクロのよう、と言われた髪の色による。歴史上、一番の働き者の宰相で、最後の大魔導師、とも呼ばれている。
ルミナトゥスの第一王子だが、出生に難点があり、王位は放棄した。ただし、コーデラ王女が母なのは確実で、ルミナトゥスも彼を認知していたので、当時の法律では、国王になったとしても、問題はなかった。ピウストゥスは知性と理性で、国民感情を考慮し、地位よりも、実を選んだとされている。
最初は国民に不人気だったが、相次ぐクーデターで荒廃した国を、短期間で立て直したため、爆発的に、支持者を増やした。
ディアディーヌ王女は、前後に乱れた噂一つなく、神官だった事や、ルミナトゥスとも夫婦仲は良かった事などから、承知の上での、後継者確保のため、との説もある。
テスパンの乱は、ルミナトゥスではなく、ピウストゥスをターゲットにした、という学説もあり、テスパンが失脚した後も、暫く身を隠していた。原聖女教会の乱の折は、自ら仲間を率いて、全国を回った。
女性的な容姿と、巧みな会話術、その上、身分を隠して旅をする事を好んだため、あちこちで浮いた噂が絶えず、結婚まで様々な浮名を流した。死後に庶子を名乗る者が十四人いたが、どれも偽者だった。
ルミナトゥスの父親が無名なこともあり、実はルミナトゥスとアプフェロルドの父親は同じで、ルミナトゥス本人には出なかったヴェンロイドの特徴が、ピウストゥスに出たのでは、という学説もある。
★セレニウス三世。
○生没年・在位期間は「歴代国王の記録・コーデラ王国」を参照。
○王朝:ラズーパーリ朝(後期デラコーデラ朝)
○両親:“グラナド”・ピウストゥス・オ・ル・コーデラ
“プリンセッサ”・ミルファ・ライサンドラ
○配偶者:ゲルダ・“ラ・ベラスタ”・コラディアス
○子:アーベルタス・オ・ル・コーデラ(アーベルタス七世)
クリストフ(第4代ラズーパーリ公)
メルクリウス(第39代カオスト公)
○その他:サフィロス・オ・ル・コーデラ(弟)(第40代ザンドナイス公)
キリウス・ローデサ(弟)(ラッシル帝国ローデサ伯爵。マリンカ・ローデサとの結婚による。)
○概説:伯母にあたるクラリサッシャ一世に子供がいなかった事から、女王と議会の要請を受けて皇太子となる。
父ピウストゥスが王位につかなかったのは、その実父がヴェンロイド宰相だったからなので、セレニウスの即位に当たり、当然、それは問題になった。そのため、即位後は、「女王と議会と、国民に選ばれた王」という点を、度々強調していた。
事実、科学に重点を置いた政策は、国民の支持が高く、妻が名高い美人(愛称の“ラ・ベラスタ”は、“最も美しい”の意味)であることも、人気を支えていた。
ピウストゥスの三人の息子の中では、父に外見が一番似ていて、ヴェンロイドの血が濃く出ていた。
祖父のルミナトゥスや、父のピウストゥスとは反対に、真面目で禁欲的な性格で、彼の生涯の被服費は、妻ゲルダの百分の一と言われているが、公式記録にはそのような記述は無い。タルコース伯爵ガラハドの愛人である、ソプラノ歌手マリィ・ブロンテが、「国王夫妻は、夫婦とは思えないくらい、服に差がある。百倍くらいかしら。」と、日記に残しているため、そこから生まれた話と考えられる。
※ ※ ※ ※
「…さん、ラズーリさん。」
我に返る。振り向くと、ラリマーがいた、彼女は、簡単な記述の検索パネルに、一心に見入る俺を、不思議そうに見て、
「何か、目新しい物でも。ありましたか。」
と尋ねた。
「セレナイトさんとサニディンさん、先に行ってしまいましたよ。」
「ああ、ごめん。目新しい、というか、懐かしくてね。
俺はもう少ししてから行く。君は先に行ってくれ。」
ラリマーは、遠慮はしたものの、喜んでメインホールに行った。新人には、豪華な儀式会場のほうが、興味を惹かれるらしい。
今日は、ワールドNo.24602の昇格式だ。関わった者達は、守護者も計画者も、みな招待される。
セレモニーの前、各展示室で、ワールド側の記録パネルを検索してみた。民間のデータベースには、王族でもなければ、全員の記録はないだろうと思っていたが、予想より、多くの痕跡を見つけた。ダリル画伯をはじめとする、当時の画家達が、新旧の勇者集合図を何枚も残しているからだろう。
ホプラスは、もともとのホプロスと言う名前は、なかったことになって、ルーミの付けた「ホプラス」が、まかり通っていた。記念館まで出来てたくらいだ。基金や教会に名が残っているのは、当たり前なのかもしれない。
「伴葬」という風習は聞いた事はない。(苦し紛れかもしれない。)
俺の名は、グラナドの旅仲間としての他に、「ただし」付きで、史上最年長騎士として残っていた。百年は生きた計算になるが、グラナドが、最後まで死亡扱いにしなかったからだ。「ただし」無しでは、ホプラス時代の副団長の、老ベクトアルが最長だった。
サヤンは、シーチューヤの児童文学「少女勇者サヤンの冒険」に名を残していた。ユッシは兄でなく父親として出ている。本はグラナドの死後に書かれたものだが、もしユッシが見たら、喜んだだろう。
ラールは、歴史上はミルファの母として重要人物だが、それ以外に、ラッシルで一番、美しい女スパイ「旋風のラール」として、数々の武勇伝を付けられていた。カッシーと人物像が混ざっているようだ。
カッシー本人は、グラナドに使える前は旅芸人だった、という記載はあるものの、優秀な暗殺者だった記録はない。フィクションでは、たいていファイスと結婚した事になっていて、最後は、行方不明の夫を探す旅に出ている。
キーリの個人の記録はほとんど無いが、ミルファの父親だったことから、傍系の系譜や、血筋が、かなり掘り下げられていた。表舞台に出ることを嫌った、堅実な性格の持ち主だったことは、フィクションに踏襲されているが、人当たりの良い立ち居振る舞いは無く、だいたい無骨な雰囲気になっていた。
ファイスは、クロイテスと並んで、トエン戦争での、重要人物の死傷者として挙げられていた。本当は行方不明だったので、墓はないはずだが、あちこちに「墓」「終焉の地」があった。かつてのグラナドの旅仲間、優秀な剣士としての、彼の勇姿を惜しんだものだろう。
ハバンロには、娘のリーンの書いた回顧録があった。教師をしながら、山岳救助隊で活躍していたが、真冬のアレガ北壁に、無許可で登った連中の救助で、命を落としていた。ハバンロらしいと言えば言える。
レイーラは「原聖女教会の乱」で、命と引き換えに世界を救った聖女、とされていたが、実際は、俺より少しだけ、長く生きた。彼女の墓は、海賊島に、今も残っていて、シェードの子孫が、「聖女の墓」として護っていた。
シェードは生前は、海賊島の島主「コラード」ではあっても、身分は一市民のままで、貫き通したが、娘が王妃になり、王子を産んでからもだ。彼もハバンロど同様、嵐の予報を無視して、無理やり船を出した連中を助けた時に、死亡した。
騎士団は、クロイテスの次は、オネストスが騎士団長になっていた。もてる男だったが、独身を通したらしい。前後の記事を見て、騎士団長の婚姻規程なんて、形式的な物だと思っていたが、実は生きていたのだと知った。
フィールの名は無かったが、後に狩人族の連合国が出来た時に、首都に「フィール」とつけられついた。
魔法院、ミザリウスはグラナドとミルファの婚礼の後に、急病で亡くなり、魔法院長にはへドレンチナが就任していた。ファランダは終身、神官長として努めた。
アリョンシャは騎士団議会初期メンバーとして、ユリアヌスは科学院初代所長として、功績が記載されていた。
意外なのはイスタサラビナ姫で、「服飾史で、最も重要な人物の一人」に数えられていた。彼女がいたため、この時代のコーデラの貴婦人は、他のワールドと違い、いわゆるコルセットの弊害を、ほぼ受けずに済んだ、とされている。幾歳月の後に、天才デザイナーのモカ・シャンドラが、女性を縛る服からの解放、をテーマに、「アル・タッシャ」(原点のタッシャ)を謳い文句に、運動を繰り広げていた。
しかし、俺達の公式記録に比べたら、無理もない事だが、齟齬も目立つ。ルーミはもてたが、堅物だったし、グラナドは、宮廷人にしては、真面目なほうだったのに。
「散々、公式記録を見ただろう。それに比べたら、あっさりしていると思うが。」
と、振り向いたら、セレナイトがいた。
「ラリマーに聞いた。とりあえず、『迷子』になっていそうだから、釣りに来た。」
と、微笑む。
《最後?何を寝ぼけたことを。簡単に終われると思わないでよ。》
《これだけ型破りな前例を作ったんだ。あっさり最後なんて、虫が良すぎるぞ?》
あの時、戻った途端、連絡者とセレナイトに、異口同音に言われた。死んだつもりで、完全に腹をくくっていたので、何を言い返す気もなく、おとなしく聞いた。
俺は守護者は辞める事になった。協力者がいたとはいえ、堂々と命令違反をしたのは変わりない。だが、処分はされなかった。持ち帰った情報の価値と相殺されたからだ。
しかし、上司の「上の苦労を知るべし」の一言と共に、計画者見習いとして、セレナイトの元に配置換えになった。
No.24601から戻ったセレナイトは、No.30000番代の計画者に復帰した。たまに緊急事態でワールドに降りる事はあったが、勇者の守護はしなかった。見習い期間が終わった後、新しいNo.70000シリーズの計画者になった。
直接的、間接的に、様々なワールドに関わってきたが、それでも、何年も立っても、やはり、
「忘れられない物語がある、か?」
自分の声ではなく、サニディンの声だった。セレナイトは、先程、俺に、ああ言ったのに、パネルで、ジェイデアとイシュマエルの記録を調べていた。シルビンが、セレナイトに声をかけていたが、反応が鈍いので、俺達の所にきた。彼は、開発部の担当だった。
「この情報量で、この早さ。すごいもんだが、ああまで夢中になるかな?彼女が、システムに興味があるとは、意外だ。」
これに、サニディンは、気持ちよさげに笑った。シルビンは、
「ああ、ごめん。君の子孫、ワールドにいたよな。三代目モカ・シャンドル、凄いじゃないか。初代の再来、と言われてるんだろ。」
と、解らないなりに、理解しようとして、返した。その時、やや離れたブースから、サンストンが、賓客にパネル操作を教えるため、彼を呼んだ。
「俺達も、そろそろ、行くか。新守護者の発表があるから、必ず出ろ、と、言われてる。お前もだろ。」
とサニディンが言った。確か連絡者が、そう言っていたが、スピーチ原稿へのツッコミついでだったから、聞き流してしまっていた。
「なあ。」
「何だ?」
「素晴らしいワールドだったよな、あの世界は。」
「そうだな。そう思うよ、《ガディオス》。」
サニディン、いや、ガディオスは、目を開いたが、直ぐに笑いながら、
「じゃあ、祝杯を上げるか、ネレディウス…ラズーリ。」
と言った。
メインホールに入る前に、背後を振り返る。ちょうど、三人の男性が、パノラマのパネルに、ダレルの「新旧勇者集合図」を映し出して、「再現率が凄い」と盛り上がっていた。旧い絵だが、デジタル修復されていた。
架空の野営地に、架空の黄昏。みな、旅の当時の、若い姿で描かれている。パノラマの両端には、それぞれ、シェードとユッシがいた。
シェードは、いかにも、水から上がった、という格好で、上半身裸だった。彼の脇腹にある傷も、正確に描かれていた。彼の足元には。魚の入った籠が置かれている。彼の隣には、キーリがいた。大きな鳥から、矢を外そうとしていた。顔は、彼の右を向いている。キーリは、右肩に微かな傷を作っていて、その彼に、レイーラが、回復をかけていた。それに、キーリが、礼を言っているようだ。レイーラの隣のラールは、間の二人を超えて、シェードに布を渡そうとしていた。カッシーが明かりを出して、四人を照らしている。
《ああ、良く捕れた。だけど、日が落ちてから、潜るのは、海賊でも…》
《お疲れ様、これで拭いて。》
《怪我してるわ。》
《すいません。大した事はないです。鳥を射るのに集中していたら、折れた枝に引っかかってしまって。》
《それでも、命中なんて、凄いわ。ほら、急所を一発で。》
反対側、ユッシは、馬車に積んだ酒樽を指さしながら、自慢げにしていた。ファイスが、思案顔で酒樽を見ていた。サヤンがファイスの横から、首を突っ込んで、何か文句を言っていて、ハバンロに、背後から、たしなめられていた。エスカーが、ノートを取り出し、書きながら、やや渋い表情を見せていた。
《いい酒だろう。掘り出し物だ。》
《いい酒は確かだ。疑う気は全くないが、酒以外の食料は?》
《ちょっと、残りのお金は?》
《いや、落ち着いて。食料なら、魚と鳥があります。》
《余裕がないわけじゃ、ないんですけど…昨日も同じ話をしましたよね?》
ここまでは両翼だ。
中央は、右から、俺、ディニイ、グラナド、ルーミ、ミルファ、ホプラスと並んでいた。
ルーミが薪に火をつけて、グラナドが小さな風を当てている。薪の上には、網が乗っていて、ディニイが串を準備していた。ミルファは、ナイフ片手に、傍らの立木の枝を、軽く掴んでいる。俺はグラナドを、ホプラスは、ルーミを見ている。ルーミは、火を出しながら、振り向いて、サヤン達を見ていた。グラナドは、首をやや傾けて、背後に話しかけていた。
《なあ、火を起こして串を準備したのに、酒しかないのか?》
《あ、ほら、魚と鳥はあるようだよ。》
《そっちも、火に当たれよ。風邪、引くぞ。》
《たまには、こういうのも、いいな。》
《そうね。でも、串は足りるでしょうか。》
《足りなかったら、木の枝を削って作るわ。》
架空の会話を打ち切るように、セレモニーの序曲が流れ始めた。なつかしい、チャフスクの行進曲だ。
俺は、黄昏の野営地を離れ、会場に向かう。食事の前に、見回りでも、という気分で。
《今、俺と一緒にいる。ここにいる、お前なんだよ。》
《忘れろ、なんて言うなよ。お前が残す物なんて、記憶しか、ないんだ。》
数えきれない時の中、何人も出会った勇者達。俺達の残せる物は、存在の記憶。
こうして、守護者達は、休息する。勇者達の眠る間に。記憶の中から、夢を選びながら。