勇者達の翌朝
勇者の物語の終わりです。
仲間たちが、どう生きたか。
新書「勇者達の翌朝」
守護者の去った世界で、勇者と仲間達は生きた。
宰相ピウストゥスは、「騎士ラズライト・ユノルピスが、『旅立った』」と、発表した。東方では、夏は死者を迎え、送る季節である。ラッシル系だが東方人の血を引くラズライトには、旅の季節だった。
だが、旅であれば、墓は不要、と、メモリアルは、各自の胸に刻まれた。
その後間もなく、冬になる前に、レイーラ・マリナトゥスが死亡した。まだ秋の残る穏やかな朝、眠るように静かに逝った。遺体はそのまま、海賊島で水葬にされた。
年が開けて、王都に早い春がきた時、ピウストゥスは、ミルファ・ライサンドラと結婚した。式には、亡くなった者を除き、仲間たちが一同に会した。
その次の年の春、海賊島の長“コラード”のシェードは、同じ海賊島の女性・メドラと結婚した。
ピウストゥスとミルファに、第一王子セレニウスが産まれた年、シェードとメドラにも、娘ゲルダが産まれた。
セレニウスは、ヴェンロイドの小麦色の肌と琥珀色の瞳、髪はラッシルの黒だった。ゲルダは、母親からは赤みがかった独特の色相いの金髪を、父親からは明るいエメラルドグリーンの瞳と、美貌を受け継いだ。
クラリサッシャ女王は騎士ハーストンと結婚したが、子供はいなかったので、後にセレニウスが王位を継いだ。彼と結婚していたゲルダは、王妃になった。
ハバンロはアレガノスで学び、教師になった。シャロルーナ・イゼンシャと結婚し、アレガノスに住み続けた。ルーナは地元の山岳協会に勤めた。二人の間には双子の娘が産まれ、リーン、エールと名付けられた。
剣士ファイスとカッシーは、レイーラが亡くなった後で、東方の仕事が一段落したから、と戻ってきた。そして、コーデラで再び、王家に仕えた。彼等も、そろそろ年貢を納めようか、という時に、トエンのバルトゥ族が、一部の狩人族と結託して、侵攻してきた。コーデラとラッシルは、穏健派の氏族長フィール達の力を借りて、シィスンを守りながら、チューヤと協力し、東で敵と戦った。
激しい戦闘になり、勝ちはしたが、騎士団長クロイテスが負傷し、ファイスも行方不明になった。クロイテスは、王都に搬送され、着いて間もなく死亡した。
次の団長は、スイ・アリョンシャを押す声が高かったが、アリョンシャ自身は、コンスト・オネストスを推薦した。最終的には、アリョンシャの強い要望で、オネストスに決定した。
団長の就任式には、聖女コーデリアの役割をする女性が必要で、それは通常は妻がやる。独身のオネストスには縁談が殺到したが、彼は全て断った。最終的には神官長のファランダが引き受けた。
カッシーは、就任式の後で、
「また旅に出たいから。」
と、ピウストゥスの元を辞した。彼女は、旅先からたまに手紙を出したが、次第に間遠になり、やがて途絶えた。最後の手紙には、
「ファイスによく似た人を見かけた。」
とあったが、場所は解らなかった。
トエン侵攻の時は、狩人族の氏族長フィールは、同じ氏族の戦士ゾーイと結婚していた。娘一人と、息子二人には、それぞれサーヤ、ジーリ、キーリと名付けた。初の女性氏族長で、烈女と呼ばれたフィールの死後、跡を継いだのは、末のキーリだった。女性の後は女性が継ぐべき、というサーヤと、優秀だった祖父の名を継いだ自分が相応しい、というジーリの間で争いが起きたが、氏族が選んだのは、彼等二人のどちらでも無く、英雄の名を継ぎ、一番弓の上手いキーリだった。彼は、急進派と穏健派の橋渡しを行った。
ピウストゥスとミルファの間には、セレニウスの他、サフィロス、キリウスの二人の息子が産まれた。「上」が渇望した、娘は産まれなかった。セレニウスとゲルダの間には、アーベスタス、クリストフ、メルクリウスと、三人の息子が産まれた。王位を継いだのはアーベスタスだった。彼はクロイテス家のマルガレーテと結婚し、娘フォルリーナを儲けた。彼女は「不屈のフォリー」と呼ばれる、偉大な女王になったが、長男の皇太子が若くして亡くなった後、十人の子供達が跡を争った。最終的に次男クラレンスが勝ったが、彼は援助の代償に、有力貴族や富裕な市民に、王権を切り売りしていた。これで結果として、王権は議会によって制限されるようになった。
ピウストゥスは、90まで生きた。当時としては極めて長命だった。彼の旅立った日は、ミルファが亡くなった一年後の、同じ日だった。彼の死は、「最後の魔導師、妻を探しに帰らぬ旅に。」と報じられた。
時代は剣と魔法から科学と計算機に、エレメントから原子と何もない空間へと変わった。こうして、全ての勇者達は、翌朝を迎えたが、さらにまた、誕生の朝を迎えていく。
常に新しい勇者達が、一日目の朝に立ち帰りながら、また翌朝を目指すのだ。