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旅の終わり

平和と引き換えに、最後の時が来る。

新書「旅の終わり」


最後の戦いが終わった後、騎士団、神殿、教会、そして魔法院は、組織の改変と再構築に取り掛かった。物理的な再建と同じくらい、精神的な再建は大変な物だった。むしろ、物理的な部分は、被害の少ない地方の貴族や、富裕な市民の寄付や出資で、順調に進んだ。

残念な事だが、クーデターから続き、追い打ちのように起きた出来事は、中枢に対する精神的な求心力を、大いに損なった。さらに、魔法結晶の総量が減ったせいか、神官の増員が困難になり、規模を縮小せざるを得なかった。しかも、神官は、神聖騎士と並び、コーデラのシンボルだ。

また、魔法力を中心とした文化・文明の弱点も顕著になり、この先の展開は、根本から見直さざるを得ない。だが、魔法を使う神聖騎士の存在や、聖女の象徴である聖魔法の力、エレメントに祝福された魔法官の能力で構成された国が、そう簡単に変われはしない。

グラナドは「科学院」を作り、徐々に将来に備える事を、提案し、議会を通した。

四大エレメントと、光と闇の世界から、別の力を拠り所にする世界。その切り替えを目指し始めた。

また、キャビク島と狩人族には、独立の気運が高まった。コーデラだけでなく、ラッシルでも、辺境の自治領で独立運動が起き始めた。狩人族は、主流は、フィールの一族を始めとした、親コーデラ派だった。シィスンに戻ったフィール達は、急進的な一派と、対立する機会も増えた。

このため、クラリサッシャ女王は、神官を退く決意をし、正式に即位し、王室の立場をはっきりさせた。宰相はグラナドに、神官長はファランダが努めた。魔法院はミザリウス、議長はオルタラ伯が中心なのは変わらなかったが、新しい科学院は、ユリアヌスを始めとして、意欲のある学者を募り、ラッシルからも人を集めた。


騎士団は、副団長を置かずに、代表十人の委員会制度に改変した。アリョンシャも選抜された。

「僕は、放浪癖があるから、向かないと思うけど。」

とは言っていたが。

一方、アダマントは「療養」のために辞任した。彼の記憶は、俺と再会したあたりから「歯抜け」になり、最近数カ月分は、殆ど無かった。騎士団の聞き取り調査でも、彼を有罪と見なす、僅かな証拠すら、出なかった。ファイスが、戦いの後に、アダマントが聞いた台詞は、

「殺してくれ」

だったが、この記憶も無かった。アダマントの妻は、副団長の話が出た頃から、彼がたまに、人が変わったようになる、と言う話を、友人達に相談していたのだが、昇進に伴い、気を引き締めているのだろう、と見なされていた。


ライテッタは正式に引退し、ライオネスがヘイヤントに配置変えになった。ハーストンとオネストスは、女王付きのまま、王都に残った。オネストスは、故郷のタルコース領の勤務を希望するか迷っていた。彼の実家は事業を持っていて、長男の兄夫婦が跡を継ぐはずだったが、彼等がラズーパーリに引っ越して、新事業を始めたためだ。縁を切った訳ではないが、ピゥファウムとナウウェルの実家との関係が悪くなった今、年配の両親だけにするのを、心配したからだ。しかし、彼の両親は、非常に気丈な人達で、オネストスの申し出を一蹴した。女王やグラナドにも促されて、王都に残った。

ハーストンは、下級貴族の長男だったが、正妻の子では無かった。騎士団養成所に入る時、たとえ騎士になれなくても、実家には帰るな、と言われていた(アリョンシャと状況が似ていた。)。しかし、女王の正式な即位が決まり、女王付きの隊長になると、実家から、然るべき相手と結婚して、跡を継ぐように、と要請された。しかし、彼は、跡取りの座は、腹違いの弟に譲り、王都に留まった。


レイーラは、しばらく入院が必要だったが、退院して直ぐに、海賊島に戻る事になった。彼女の、神官としての力は消えてしまい、シレーヌ族の力だけが残った。学問研究の道もあったが、まず、故郷のために、何かしよう、と決心した。それに、シェードも同行した。

彼女は、すっかり回復したように見えたが、力の開放の余波はまだ消えていなかったのだ。シェードは、出来る限り、レイーラと共にいることを望んだ。

ハバンロも、ひとまず、故郷に帰った。将来のビジョンが決まるまで、ロテオンの所に戻る選択肢もあったが、彼の娘のパトナが婚約してしまったので、それにショックを受けていた。(ロテオンは、ハバンロの気持ちは知っていたが、パトナにその気がないのも知っていた。)

三人は、同じ日に王都を後にした。皆で街の出口まで見送った。

ハバンロは、入院中のルーナを見舞った時に、彼女の兄のノイから、医学以外の発展も目指すアレガノスに、山岳の植生や気象、文化史を研究する機関が出来る、という話に興味を持っていた。

「新しい事をやりたいと考えていたので、落ち着いたら、ペパードにも、話を聞いてみる事にします。」

という彼に、グラナドは、

「ゆっくり考えるといい。王都に戻る時は、何時でも歓迎するよ。」

と言った。

レイーラは、

「お元気で。毎日、お祈りします。」

と涙ぐんでいた。ミルファもそれに涙で答えた。

シェードは、あまり喋らなかった。グラナドには、

「上手くやれよ。」

と一言。グラナドは、

「ああ。言われるまでもない。」

ふと答えていた。


ミルファは王都に残り、再び勉強を再開したが、一年のうち半分は、魔法院ではなく、大学で学ぶことになった。歴史と民俗学、語学だ。もともと魔法院の強い分野ではあるが、多面的に物事を見たい、と決心した。

「旅をして、色々、考えたの。父の狩人族と、コーデラが対立してきた事や、キャビク島の人達に、どうしてテスパン伯爵を支持する人がいたのか。

でも、考えるには、まず、勉強しないとね。」

と語った。ラールは、ミルファに戻って欲しいようだったが、当人に、希望を口にすることは無かった。


ファイスはグラナドの元に残った。俺と同じく、グラナド直属の護衛だ。

だが、ニ年後、彼は職を辞して、シュクシンに向かった。当時はコーデラとシュクシンは友好国になっていた。軍事国家だったシュクシンだが、ソウエンの皇帝が代替わりしたタイミングで、シュクシンの国王も代わり、新しい統治者達は、和解の道を選んだ。両国は、シーチューヤとも和解して同盟を結んだ。

ソウエン東方には、昔はヒミカ国と呼ばれた、一つの国家があったが、長らく豪族同士が争い、細かく分裂していた。それらを統一し、新生ヒミカを作った王が、シュクシンとソウエンに国交を求めてきた。

両国は、生産技術や、医学、文化交流のために、使節を交換することになった。大国から見たら、対等でないようにも見えるが、軍事に代わる、開拓という前線が手に入るなら、損にはならないだろう。

ファイスは、その計画に加わることを希望したのだ。

グラナドは、

「お前にとっては、帰郷するような物だな。」

と送り出した。ファイスは、俺には、

「言えた義理ではないが、殿下の事は頼む。」

と言った。俺は、

「十分、言えた義理だよ。もちろん、任せておいてくれ。」

と答えたが、この先の事も考え、

「もし、俺に何かあったら、逆に頼む。」

と添えた。

カッシーは、ファイスに同行した。彼女は、シスカーシアの元で、王宮に仕える形になっていたが、

「ファイス一人じゃ、生活が不安だわ。」

と言い、あっさり同行を決めた。ファイスは、料理は得意で、ユリアヌス達といる時は、男四人の食生活を担い、豊かにしていたほどだった。しかし、彼は断らず、

「それは頼もしいな。」

と承知した。


俺は、二人が東方に向かった後、三年、生き延びた。


俺は「騎士団とは独立した騎士」として、宰相に就任したグラナドに仕えた。クロイテスは、俺に正式に騎士団入りして欲しがったので、彼には事情を話した。かなり落胆させてしまった。だが、十年持つ、と言われていた、俺の身体は、最後の戦いで力を使いすぎたのが原因か、予定の半分、持たなかった。傍目には、変化は解らなかったようだが、俺自身は、遠からず、終わりを感じていた。それは、「中身」の見えるグラナドも、感じていたようだ。

俺は、王宮近くに屋敷を構え、そこから、毎日、王宮に出仕した。もちろん、グラナドが地方に出る時は、同行していた。が、最後の半年、彼は王都を殆ど出なかった。宰相は無闇に出歩く者ではないが、都を開ける公務は、ヘドレンチナやアリョンシャに任せることが多くなった。


そして、夏のある日。


初夏にシェードから、

「レイーラを、見舞ってくれないか?」

と、連絡があった。悟ったグラナドは、女王に話し、夏に訪問の計画を立てた。「見舞い」とすると、レイーラの周りが騒がしくなる。それは良くないだろう。

折よく、収穫祭で、シスカーシアがタルコース領に帰っていて、オネストスが休暇で実家に帰る時期と重なった。さらに、ラズーパーリで例の大花火大会もある。非公式に、収穫祭と花火を見る、という口実で、明るい顔をして、レイーラに会いに行った。


先にタルコース領でシスカーシアに会い、オネストスの案内で、ゴールダベルに行く。彼の両親や兄ジェネロスと、妻のマリィに会った。義兄に当たる、警官のジョゼと久しぶりに会い、最近結婚したという、妻のギゼラにも紹介された。

式典には、ピウファウムの両親も、十代くらいの少年を連れてきていた。グラナドから声をかけ、話しかけた時、ピウファウムの母親は、泣いて感動していた(ピウファウムの妻と子供は、「遠くに」引っ越してしまったらしく、少年は養子だった)。

収穫祭の後は、ロサマリナで、リンスク伯爵に会った。彼は去年から議席を持ち、キャビクの独立には、反対の立場を取っていた。話題の水を何度か向けられたが、私的な旅の途中、という事で、明言は避けた。

そしていよいよ、レイーラの見舞いだ。

彼女は、病気と言うには元気だったが、健康と言うには、儚げだった。俺達は、公務の途中に、ちょっと寄っただけ、という体を装った。彼女は、昔の事より、今の事をよく話した。

「本当に、グラナドとラズーリが来てくれて、嬉しいわ。この島、すごく良くなったでしょう?」

と、無邪気な笑顔を見せていた。

シェードの仲間たちにも、久しぶりに会った。みな、シェードを「コラード」と呼んでいたが、ただ一人、メドラだけは、名前で呼んでいた。島を出る時は、レイーラを除く、島の皆が見送りに来てくれた。そういえば、タラの姿が無かったが、聞くと、結婚して、ラッシルにいる、と言うことだった。メドラは、

「先月、皇都で、偶然、ミルファと会ったらしいわ。一緒に、レイーラに会いに来てくれたの。」

と行った。ミルファが、夏の休暇でラッシルにいる事は知っていた。だが、それは初耳だった。グラナドは知っていたようだ。

「本当の所、どうするつもりなんだ?」

と、シェードが、珍しく、こういう問題に、突っ込んだ。俺は何だか緊張した。

「あいつにも、拘りがあってな。今の目標が一区切りつけないと。」

と、グラナドは曖昧な返事をしたが、シェードは納得したようだった。


島を出た後は、ラズーパーリに行く。ルーミとホプラスの墓所を訪れ、グラナドの「屋敷」に。彼は「ラズーパーリ公爵」になったので、滅多に泊まらないが、いつ来てもいいように、家はしっかり整えられていた。

花火の見える部屋に二人で、サヤンから贈られた、という、新製品のジュースを空けた。

「夜だから、酒のほうがいいか、と思ったが、俺達は、酔わないからな。」

と、派手な金紙に包まれた瓶を見て、互いに笑った。

しかし、飲み始めてから気が付いたが、実は酒だった。アルコール分は、ワインの3分の1程度だ。黄金色に輝くのが売りの、チューヤ名産の酒に似ているが、リンゴ酒の風味が加わっている。

「リンゴの味と香りで、解りにくいな。売る時には気をつけないと、子供が間違って、飲んでしまうかも。」

と、感想を述べた。グラナドは、相槌をうち、瓶のラベルを眺めて、

「ヴェンロイドのリンゴか。」

と、言った。

彼は、最後の戦いから今まで、動き出した時間の中で、背が伸び、昔の記憶の中の、華奢で小柄だったエスカーを思わせる部分は、青年の彼には、もう殆どなくなっていた。

「ヴェンロイドには、足を運んだ事は無かったな。今度、考えてみるか。」

と静かに言った。そして、

「サヤンさんは、これの発売に合わせて、新メニューを考えているらしい。ハバンロが、『同盟記念定食』という名がいい、と提案したら、サヤンさんに笑われた、と憤慨していた。」

と、笑ってグラスを傾けた。

「その命名センス、確実にサヤン譲りだと思うけどな。」

と、「勇者定食」の話をした。

そうして、笑いながら飲みながら、取り留めもなく、色々な話をした。

話の切れ目に、そろそろ、花火が始まるから、と、バルコニーに移動した。近すぎず遠すぎない喧騒が、窓の森に広がる。庭からは、おそらく、木々が邪魔で、庭に降りたら、見えないだれう。

グラナドは、少し遠くを見ながら、

「ゴールダベル、行けてよかった。一面の金色の小麦から、『黄金の帯』と呼ばれている。あの金色を出す絵の具が、タルコース領にもクロイテス領にも、無かったから、昔の子供達は、学校の課題でも、この時期の風景画は、描かなかった。そんな話、見るまで眉つばだったんだが。」

と言った。

「それは初めて聞くな。」

「一回、誘われたんだ、オネストスに。小麦畑の他には、目を引く物はないけど、住みやすい土地ですよ、ってな。」

俺はグラスを取り落としそうになった。グラナドは、気がついているのかいないのか、

「五年前の話だ。地元勤務をしようか、迷ってた頃だな。」

と続けた。

「俺は、お前と、お前たちと、王都で、やる事が色々あったからな。ついでに、オネストスも引き止めたが。居なくなったら、選択肢が減る。」

「選択肢?」

「花婿候補だ。陛下の。」

に、今度は、本当に手が滑った。だが、なんとか落とさなくてすんだ。

「そんなに驚く事か?まあ、陛下は独身で通したいようだ。気が合うのはオネストスより、ハーストンの方だがな。」

「でも、そうなったら、陛下が。」

「あくまでも、『候補』だ。一人しか適材がいないと、決定事項になってしまう。どちらにしても。」

グラナドは、続きを話す前に、ぐい、と一杯を飲み干した。

「そこまで、王族は、まだ自由じゃないのさ。」

俺のグラスは、殆ど残っていたが、グラナドは、少しだけ、継ぎ足してきた。

「ラズーリ、もし、もっと未来に、俺達が生きていたら、どうなったろう。何をどう選んでも、自由な時代に。」

酒と同じ色の目が、何故か青く輝いた。

自由に、全ての選択肢から、選べる時代。みな、それが未来にある、と思っている。未来になくても、この世界でいう、神の御元や、来世と呼ばれる世界には。

しかし、どうだろう、現実は。空の上、遥かに超越した世界でも、すべてが自由には、決してならない。なら、自由な未来とは、架空の物だろうか。

「グラナド。」

改めて呼ぶと、グラナドは、真直ぐ見返してきた。

「今、ここにこうして居ること、君とこの世界で生きてきた事は、俺が『自由に』選べたんだ。別の世界、別の立場で出会ってたとしても、その場に相応しい形で、同じ選択肢を選び取っていたと思う。

それが、君のくれた物だ。俺は、君に、ほんの僅かなもの、しか、残せないが。」

言ってしまってから、俺は、なんだか、体が急に軽くなったような、不思議な高揚感に包まれた。椅子から立ち上がる。グラナドも立ち上がり、もう青みのない瞳で、俺を見た。彼が腕を伸ばし、そっと俺を捉えた。

背後で、一発目の花火が、高らかに上がる。二発目、三発目。遠い空なのに、音が響いた。だが、音に伴う、体の響きは、弱い。

ああ、立ち上がったんじゃなくて、浮いたのかな。それも違うか。視界がだんだんと明るくなり、グラナドの、紅い髪と、琥珀の瞳、彼の色彩が、広がって見えた。

《忘れろ、なんて言うなよ。お前が残す物なんて、記憶しか、ないんだ。

これから先、俺はどんな人生を送ったとしても、生きてる限り、忘れない。》

そうだ、生きて、生き続けてくれ、グラナド。俺の追憶と共に。俺も、忘れない。もう、時間がないが、君は、俺の、最後の勇者だ。


一瞬だが、ベルシレーで彼からもらったペンダントを片手に、笑顔で泣いている、グラナドが見えた。花火の音と光に包まれて。

《これしか、残さないんだな。》


俺の目が最後に見た世界。もう、見えるはずのない、姿を焼き付けた。


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