神を殺す
「ではブリーフィングを行います。兵器開発部門のナオトです、よろしくお願いします」
ナオトが軽く挨拶を済ませ打ち合わせが始まった。この部屋には現在最高司令部の面々と各部隊長、そしてルナ(とガルダ)が集まっていた。決して広い訳ではないためややぎゅうぎゅうの状態だが致し方なかった。
あの恐ろしい強襲の後、最高司令部は標的にされる前に直ちに本部基地を放棄し、一隻の戦艦の中に移った。場合によってはこの戦艦も放棄する可能性ももちろん考えている。今後の戦況次第であった。
「これが偵察部隊から送られてきた奴の全貌です」
スクリーンに映像が映し出される。それを見て軍の人間は皆一様に驚きの声を上げた。ルナも思わず目を見開いてしまった。
それは巨大な人間だった。全身を装甲で固めた、超巨大な機械の人形……とでも言おうか。今彼らが搭乗しているこの戦艦など比ではない。その何倍もの大きさを誇っている。
「解析した所、全長はおよそ1km。捕虜として捕らえた解世軍の科学者に問い質した所、ご丁寧に名前を教えてくれましたよ。彼らは最終兵器として開発したあれを、エフェスと呼んでいます」
「エフェス……この世界の創造神……か」
マッキンリーが呟いた。創造神エフェス……心の世界の調和を乱した破壊神でもある。
映像を見せながらナオトは解説を続ける。
「奴の装甲ははっきり言ってとてつもなく頑丈です。大型弾頭でようやく多少凹む程度です。しかし……見て下さい」
映像がエフェスの被弾部位にズームされた。
「5秒も経たない内に完全に修復がなされています」
「! ……自己修復……」
「そうだねルナ……解世軍も自己修復プログラムの開発に成功した様です」
その後映像では戦闘機隊とエフェスとの戦いが展開されて終わった。計十分程度の映像だった。
「あんなのとどうやって戦えって言うんだよ」
「サイズもめちゃくちゃだ……」
隊長達は口々に不安を漏らす。映像の中には一瞬で腕で薙ぎ払われ墜落する機体もあった。
「あの光線は何なのかね」
「はい、ルナの視覚映像記録を出します」
今度は別の映像が映された。あの時ルナが目にした眩い閃光が迸っていく物だ。
「おそらくこれは荷電粒子でしょう。しかしこれもやはりとてつもない程のエネルギー、熱量を持っています。この時の狙いはルナだと考えられます。彼らの上層部も今の我々と同じ様に既に基地を放棄していたんでしょうね。射程はおよそ10km」
「二射目はまだかね」
「まだ確認は取れていません。あの大きさです、クール・タイムはかなり長い……数時間単位なのはまず間違い無いでしょう。彼らに今最も与えてはいけないのは時間です。あれを何発も撃たれたらこの大地がどうなるかわかったもんじゃない。それに被害の規模も相当大きい。早急に叩くべきです」
「言われなくともわかっているよ……それで、君はどう考えるのかね」
「ご覧になった通り、外から破壊するのは相当厳しい……しかし内側はどうでしょう」
「中に入り込むと?」
「はい」
ナオトはもう一度最初の映像を見せ、途中で一時停止した。
「ここを見て下さい。関節です。肘に当たる部位……構造上どうしても関節部は装甲が薄くなっています。この一点を狙います。ここだけです。集中的に」
「なるほど、一点突破か……シンプルだ。物量で押すという事か」
「我が軍が所持している全ての弾頭をここに投入する可能性も考えています。修復にかかる時間を出来るだけ伸ばす……最後に飛行機に乗せたルナを投入します……特攻に近い形になりますが、被弾部分に突っ込ませ、とどめの一撃で荷電粒子を撃ち込む。そうすれば人ひとりくらいなら通れるほどの穴が開いてくれるでしょう」
「とどめと言っても……」
「すみません表現が相応しくなかったですね。そうしてルナを奴の体内に潜らせます。ここからが本当の始まりですね」
「内部から破壊する……」
「はっきり言って賭けです。しかし賭けに出なければいけない局面に直面している事もまた、事実です」
「うむ……内部構造の把握は?」
「大雑把な予測は出来ます……しかし実態は実際に中に入らないとわかりません。ルナには内部を探りつつまずはあの超々高圧縮粒子砲の破壊を行ってもらいます。最優先は間違い無くそれでしょう。動力部を止めるのは二の次で構わないと思います」
「不明な部分が多過ぎるな。当然だが」
「ですが私は私が作ったLUNAを信じています。私の最高傑作なので」
「……わかった。よかろう」
マッキンリーが立ち上がり前に出た。
「諸君、これが正真正銘最後の作戦だ。ただいまより本作戦をオペレーション・神殺しとする」