誓い
町から少し離れた小高い丘の上にスージィの墓はあった。墓と言っても盛って固めた土に棒を刺しただけの物で、その下には何も無い。彼女の肉片はあの日飛び散った。唯一残った両腕は腐敗が進む前に、彼女の宝物であるぬいぐるみと一緒に焼いた。死後の世界とやらが本当にあるのならば今頃は両親と再会しているのだろう。こんな世界で生きていくぐらいならそっちの方がよっぽど幸せかもな、とミードが言ったがすぐに訂正した。
「だからって死にたいなんておいらは思わない。死が救いだと思ってる奴らはそれでいいよ。確かにこの世界は神とやらが作った不完全な失敗作なのかもしれない。だけどだからっておいらは全部を諦めたくはないよ。だっておいらは生きてるんだから。この世界で」
「……」
「スージィだってそうだった。懸命に生きてたんだ……なあ姉ちゃん、何でもっと早く戦ってくれなかったんだよ。そうしてたらスージィは死ななかったかもしれないじゃんか」
「……」
ルナは何も答える事が出来なかった。あの時、戦闘機の襲来は当然ながら感知していた。だが何も言わなかったし、何もしなかった。戦う事が嫌だったからだ。そして結果的にスージィが死んだ。今彼女の胸には確かな後悔の念が渦巻いていた。決して払拭する事が出来ない。
「姉ちゃんめちゃめちゃ強いんだろ? だったら戦ってくれよ。戦って、さっさとこの戦争を終わらせてくれよ」
「……君の言う通りだよ。初めから私はそのために生み出されたのに、人を殺すのが嫌になって逃げ出しちゃった。でも……これまでに数え切れないくらい命を奪ってきたのに今更逃げたってどうにもならなかったんだ」
ルナはくるりと後ろを振り返り、スージィの墓に背を向けた。
「ありがとうミード。皆にも伝えておいて。戦うよ。戦って戦って、これからもこれまで以上にたくさんの人を殺して、何もかもが終わるまで殺し尽くす。私に出来る事はそれしか無かったんだ」
歪な翼を生やすと軽く地面を蹴り、そのままゆっくりと浮上を始める。きっともうここには来ないだろう。彼らとも二度と会う事は無い。
「だって……私は兵器だから」
顔を上げた彼女の瞳にはこれまでには無かった煌めきが宿っていた。