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【2巻】アルディスが帰ってくるまでお留守番 ――リアナ――

書籍版では2巻53ページあたり、Web版では41話あたりの話です。

 温かさに包まれながらゆっくりと目をあけると、たちこめるような木のにおいがした。


「おはよ、リアナ」


 すぐとなりからききなれた声がする。

 あくびと伸びをしながら、反射的に返事が口からでていった。


「おふぁよー、フィリア」


 まだ眠いけど、フィリアが起きてるってことはたぶんもう朝だ。

 外はもう明るいんだろう。


 朝はいつもフィリアの方が先に目をさますみたいだ。

 どうしてだか私が先におきたためしはない。


 私が目覚めるのをまっていたフィリアはさっさとベッドからおりてしまった。

 あわてて私もよろめきながらベッドをあとにする。もうちょっとあの温もりを味わいたかったけど……。


 フィリアとふたりそろってヨタヨタと歩きながらテーブルのそばまでいくと、ネーレが私たちを見ていつもどおり無表情のまま口をひらいた。


「起きたか。食事の用意は出来ておるぞ」


 テーブルの上はよく見えないけど、おいしそうなにおいがしてくるのはわかった。


 となりで私と同じ顔をしたもうひとりの私が鼻をヒクヒクさせている。

 本人は気づいてないみたいだけど、無意識でやっているクセなんだろうなあ。

 おもしろいから指摘せずに黙ってるけど。


 それにしてもネーレはいつ寝てるのかな?

 いつもこうして私たちがおきる前に朝ごはんを準備してるし、アルディスみたいにお昼寝してる姿も見ない。


 もしかして寝なくても大丈夫な人なのかな?

 この前アルディスにその話をしたら笑われたけど。


「温かいうちに食すが良い」


「はーい」


 ネーレに言われて私とフィリアはイスの上にのぼる。

 アルディスのつくったイスも、私たちにはちょっと高くてすわりにくい。

 でも足をひっかける場所がついているから、時間をかければなんとか自分ですわれる。


 ようやくすわったところで後ろからネーレがイスをテーブルにスッとよせてくれた。

 こればかりは自分でどうしようもないから助かる。


「ありがと、ネーレ」


 足をブラブラとゆらし、床に届かなくて不安な気持ちをごまかしながら、視線はテーブルの上におかれたごはんへ向く。

 木を削ってつくったお皿に大きな葉っぱをのせて、その上へこんがり焼かれたなにかの肉がのっている。

 おいしそうなにおいにお腹の虫がはやく食べろとうるさく鳴りはじめた。


「いただきまーす」


 フィリアと声をあわせてお肉にかぶりつく。

 かみきると中からじゅわっと味の濃い肉汁がにじみでてきた。


「あちっ」


 熱い物の苦手なフィリアがいつものようにとなりで苦戦している。

 ……そんなに熱いかなあ? 


 塩もふってない肉の味だけが口いっぱいに広がった。

 昨日もおなじ味だったけど、お腹いっぱい食べられるんだから気にならない。


「直に我が主が王都で食材を調達して来るであろう。それまでは変わり映えのせぬ食事が続く。わかるな?」


 味の変わらないごはんの理由をネーレが説明する。


 私とフィリアが怖いおじさんたちに捕まったせいで、おうちの荷物をとりに戻れないまま逃げることになったのは理解している。

 だからごはんの味が変わらないくらいで文句をいうつもりはない。


 モグモグと肉をかみながらうなずくと、となりでフィリアもおなじように首を縦にふっていた。




 ごはんを食べたあとは外にでておうちのそばにある空き地へふたりで向かう。

 ネーレは「柵の外に出てはならぬぞ」と言ってたから森へはいかない。

 でもさすがに柵の中は最初の日だけでぜんぶ探険しおわっている。


 ひまになったからフィリアと相談した。


「畑作ろう!」


 思いついたのはアルディスにもらった遊び場で食べ物を育てようということだ。


「うん、そうしよ!」


 フィリアも賛成してくれたので、ふたりでここに畑を作ることにした。


「何つくる?」


「えーとね、おイモとトマトとキュウリと……、あとリンゴ」


「フィリアもリンゴ食べたい!」


「うん!」


 おイモもリンゴもつくったことはないけど、お父さんの仕事を見たことあるからたぶん大丈夫……のはず。


 靴でてきとうに地面へ線をひいて、どこをなんの畑にするか考える。

 アルディスは「自由に使っていい」っていってくれたけど、もらったのは場所だけだった。

 もともと遊び道具はなにもない。


「こっちはおイモで、こっちがトマト。そっちはキュウリとリンゴね」


 そこまでやって、ふたりともピタッと動きがとまる。ここからどうすればいいんだろう?


「もっとこう……、ぐちゃぐちゃってしてたよね?」


「えーと……、そうだっけ?」


 お父さんの畑を思いだして言ってみたけど、フィリアはきょとんとして首をひねるだけ。


 たしかお父さんの畑はほかの地面とちがって土がフワフワしてた。

 普通の地面はたたいてもカチコチだけど、畑の土は押すとゆびがズボッて埋まった気がする。


「とりあえず、掘ろうよ」


 ネーレにちょうどいい大きさの木切れをもらい、土を掘りおこす。

 小さな針のように木の破片が手にささって取れなくなったけど、ネーレにいったら魔法ですぐにとりのぞいてくれた。魔法すごい。

 そのあとはネーレが手袋を貸してくれたので、針がささることもなくなったけど、結局線の内側をぜんぶ掘るのに次の日までかかってしまった。




「つかれたー」


 ぺたりと地面にすわってフィリアが大きく息をつく。

 昨日引いた線の内側はぜんぶ掘りおこした。フィリアも私も汗まみれだけど、やりとげた感じがして気分はいい。


「でもこれからどうするの?」


 そんな気分に水をさしたのはフィリアのひとこと。


「……どうするのかな?」


 畑は作ったけど、それからどうするのかがわからない。

 芽がでたらそれが大きくなって実がなるのはしってるけど……。


「お水をあげれば芽がでるのかなあ?」


「おイモってどこから芽がでるの?」


「わかんない」


 フィリアとふたりそろって首をひねる。

 お水をあげたらかってに芽がでてくるのかな?

 お父さんはどうしてたっけ?


「あっ……」


 思いだした。

 種だ。

 お父さんは畑をつくったあとで最初に種をまいてたはず。


 そっか、たぶん種がないと芽がでないんだ。


「……種がいるのかも?」


「種……」


 フィリアも思いだしたのか、とたんにがっかりした顔になる。

 たぶん私の顔も似たような感じだろう。


「アルディスに買ってきてもらえばよかったね」


 今度アルディスが町へいく時には、おみやげでおイモとトマトとキュウリとリンゴの種を買ってきてもらうようにお願いしよう。


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