石ころとお姫さま
かすかな足音が聞こえてきます。目をこらすと、うっすら月明りの降り注ぐ森の奥から、あの石ころがゆっくりと転がってくるではありませんか。
ころ……ころ……ころ……
石ころは、お姫さまの前で止まりました。
「きみかい? 石ころを追いかけてきた子というのは?」
とつぜん石ころがしゃべったので、お姫さまはびっくりして飛びのいてしまいました。
すると、石ころの後ろからひょっこり顔がのぞきました。どうやら、今しゃべったのは小人族の少年のようです。森の奥まで転がった石ころを見つけて届けてくれたのでしょう。
「ええ、そうよ。大切な石ころなの」
「おかしいな。だってこれはお城にあったはずなのに、なんできみが追いかけていたの?」
「だって……」
そういいかけて、お姫さまは自分がちっともお姫さまらしい姿をしていないことに気がつきました。お姫さまらしくないどころか、女の子らしくもありません。髪はボサボサで、服は泥だらけ。
それにひきかえ、少年は立派な身なりではありませんが、とてもすっきりしていました。
お姫さまは名乗るのが恥ずかしくなって、うつむいてしまいました。
「そうか、きっといえない理由があるんだね。でも、これはお姫さまのために作ったものなんだ」
「作った? あなたが作ったの?」
「ああ、そうさ。お姫さまはとても怖がりで、狭いところに入っていないと落ち着かないそうなんだ。とても気の毒だと思わないかい? もし、ぼくの作ったものでお姫さまを安心させてあげられたらすてきだろう? つまりね、この石ころはお姫さまのことを思って作ったものなんだよ。だから、わるいけど、きみにあげることはできないんだ」
「……わかったわ。でも、お姫さまは気に入ってくれないかもしれないわよ? だって、これ、外側はちっとも美しくないもの。お城に届けられる入れ物はどれもきれいに飾られているわ」
「それでもいいんだ。ぼくが作ったものでなくても、お姫さまが気に入るものが見つかるなら、それでいいじゃないか。そうだろう?」
お姫さまは、なぜあんなに石ころの中が居心地よかったのか、わかったような気がしました。
「——ねえ、それ、またお城に届けるの?」
「ああ、そのつもりだよ。どうして戻ってきてしまったのかわからないけどね」
「そう。それなら、届けるのは明日にするといいわ。……そうね、お茶の時間くらいがいいかしら」
「そうか、今日はもう遅いしな。うん、そうするよ」
「ええ。では、わたしは帰るわ」
「送っていくよ。道はわかる?」
「ありがとう。でもひとりでだいじょうぶよ。わたし、森は怖くないって知っているもの。ただ、道は教えて。お城はどっち?」




