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入れ物とお姫さま

 森にすむ者たちは張り切りました。自分の贈り物に小人族のお姫さまが入ってくれるのかもしれないのですから。

 やわらかな草で編んだ籠をたくさんのお花であしらったり、クモの糸で編んだレースで袋を作ったり、木の皮をつなぎ合わせた寄せ木細工で箱を作ったり。


 お城には、たくさんの入れ物が集まりました。


 部屋に運び入れた者たちがいなくなると、お姫さまは入っていた箱から身を乗り出しました。


「まあ、すてき!」


 さっそく箱を出て、試着をはじめました。さまざまな大きさの入れ物を、次から次へと出たり入ったり、入ったり出たり。


 そうなのです、大きさがまちまちなので、試しに入ってみないとしっくりくるかどうかわからないのです。

 大きさがまちまちなのも当然です。なぜなら、みんな、お城から出ることのないお姫さまの体の大きさなんて、知らないのですから。


 はじめのうちはニコニコしていたお姫さまの顔が、だんだんくもっていきます。

 入れ物を一通り試し終わったころには、悲しそうな顔になっていました。ピタリと合う入れ物がみつからなかったのです。


 今まで入っていたドレスの空き箱にもどるしかありません。

 お姫さまにとって大切なのは、見た目の美しさよりも入り心地のよさなのです。どんなに美しい入れ物でも、中に入ってしまえば見えないのですから。


 ふと呼ばれた気がして振り向くと、まだ試していなかった入れ物がありました。

 もちろん入れ物が呼びかけるはずなどありませんし、そこにあったのはちっとも美しくない入れ物でした。


 お姫さまは、自分でもどうして振り向いたのかわかりませんでしたが、そのまま吸い寄せられるようにしてその入れ物に手を触れました。


 まあるい石ころでした。


 中がくり抜かれていて、入れるようにはなっていますが、外側に彫刻がほどこされているわけでもなければ、絵が描かれているわけでもありません。見た目はただの石ころそのものでした。

 美しくはありません。けれども、とても丈夫そうです。そのことは、怖がりのお姫さまにはとても心強く感じられました。


 入り口は小さな扉になっています。ほかの入れ物は、籠や箱、壺の形をしていて、扉やふたがついたものなどひとつもありませんでした。外が怖くて入るものなのですから、扉やふたで閉じられるなら安心です。


「これはわたしが求めていたものに近いわ」


 けれども石ころです。ザラザラゴツゴツとした石でできているのです。入り心地は期待できそうにありません。


 ところが、扉を開くと、中には綿毛がたっぷり敷き詰められていました。そして壁には色とりどりの石のかけらでモザイク画が描かれています。


「まあ! なんてすてきなんでしょう!」


 お姫さまはすっかり気に入ってしまいました。

 中もまあるいので、座っても横になっても包まれているような心地よさです。ゆらゆらと揺れるのも眠りを誘うほどの気持ちよさです。敷物の綿毛はやわらかな部分だけが使われていて、この入れ物を作った者の思いやりが伝わってきます。


 見知らぬ誰かのやさしさに包まれて、お姫さまはうとうととあたたかな夢の中。


 そこへ王さまがご機嫌うかがいにやってきました。


「姫よ、見事な入れ物ばかりだっただろう。どうだい、姫のお気に召すものはあったかな?」


 しかし、お姫さまの返事がありません。


「おや? わたしのかわいい姫はどこに入っているのやら」


 王さまは「ここかな?」「こちらだな?」「きっとここだろう」などと楽しそうにひとつひとつ覗きこんでいましたが、残り少なくなってくると慌て始めました。


「姫! 姫はどこだ! 返事がないぞ! 姿もないぞ!」


 王さまが乱暴に扱うものですから、袋は破れ、籠は壊れ、壺は割れました。それでもお姫さまの姿は現れません。


「まあまあ、いったいどうなさったのです?」


 あまりの騒がしさに、お妃さまがやってきました。そして、部屋のありさまに悲鳴をあげました。

 その悲鳴を聞いて、お城の者たちがなにごとかと集まりました。


「たいへんだ! 姫がいなくなったぞ! 届けられた入れ物の中に曲者が忍び込んでいて、姫を連れ去ったにちがいない。探すんだ!」


 王さまの言葉に、お妃さまは驚きのあまり倒れ、自分の部屋に連れていかれました。

 王さまは城の者たちに、もう一度入れ物を調べるように命じました。美しい入れ物が次々と運び出されていきます。


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