98回目 全ては生きるため、貧しくても清くなんて馬鹿な事は考えない
トモルは自分の利益の為に動く人間である。
世のため人のためという理由で動く事はない。
全く人情がないわけではないので、利益を度外視で動く事もあるが。
基本的には、自分の利益の為に動く。
人助けはそのついでか、助けた方が利益になる場合にやる。
たまに、無茶な人助けをどうにか利益に結びつくように動く事もあるが。
それでも、基本的に他者の為ではなく、自分の為に働く。
今回のダンジョン破壊だってそうだ。
何も国の為や人々の為ではない。
破壊して周辺にいる人々をモンスターの脅威から解放したい…………などとは思ってない。
脅威にさらされてる者は可哀想だとは思うが。
それとて、利害が絡まねば基本的に放置する。
それなのにダンジョン攻略をして破壊しようとしてる。
その目的は、あくまでも一つ。
己の利益の為であった。
どうせこの世で生きていくなら、それなりの豊かさは必要だ。
雨風がしのげる荒ら屋でも良いとか。
生きていくのに必要な食い扶持があれば良いとか。
そんなふざけた事は考えない。
何が悲しくて、そんな生きてるだけの状態を望むのか?
何が楽しくて、そんな困窮した生き方をしなくてはならないのか?
そんな人生はまっぴら御免だった。
既に前世で体験しているのだから。
そんな前世のおかげで悟りもした。
人は豊かにならねばならないと。
人間は可能な限り豊かに生きるべきである。
その為に誰かを犠牲にしてはいけないが。
自らの努力と才覚でそれが達成出来るならやるべきである。
豊かな生活は、人生を確実に幸せなものにする。
少なくとも、生活の心配が人を幸せにする事は無い。
貧しさが幸せをもたらすなんて事も無い。
困窮と貧困は、不幸と同義である。
その事をトモルは、前世でいやというほど味わった。
(貧しくても清くなんて冗談じゃない)
清く生きるのには賛成だが、貧しさは排除する必要がある。
大切なのは豊かさの方だ。
貧しさはそのまま生命の危機に直結する。
飢え死にや栄養失調がそれだ。
それは果たして幸せなのか?
だが、豊かであればこんな心配をする必要もない。
だからこそトモルは豊かさを得る為に行動していく。
その為にどうしても人が必要だった。
どんな事業を興すにしろ、その為には人が必要になる。
資金や資本ももちろんだが。
作業をこなす人間がいなければ、事業を興すことは出来ない。
人がいなくても出来る事もあるかもしれないが。
トモルがやろうとしてる事はそうではない。
出来るだけ多くの、それも優秀な人材が必要だった。
だからこそ、ダンジョンを破壊しなくてはならなかった。
そうすれば冒険者が流出する。
せざるをえない。
ダンジョンが無くなれば、そこで稼ぐ事は出来なくなる。
それがトモルの狙いだった。




