95回目 事が終わったあとの処理 5
サナエに声をかけられたその日、トモルはカオリの所へと出向いた。
情報を得る為である。
彼女が仕事をさせてきた者達の。
そして、誰が娘を喜んで差し出したのか。
誰が泣く泣く娘を提供せねばならなくなったのか。
それを直接本人に聞き出し、名簿にしてまとめさせていった。
完成までには少しばかり日にちがかかったが、それを受け取ったトモルは早速行動に出ていった。
喜んで娘を差し出した家は論外である。
そういう所には帰省させるわけにはいかない。
どこでどのように利用されるか分からないからだ。
その逆に、娘を心ならずも手放さなくてはならなかった家もある。
そういう所に、被害者を夏の間引き受けてもらえるよう打診していく。
同じ境遇なだけに哀れみを抱く可能性があるからだ。
それならばと、引き受けてくれれば助かる。
また、その打診もトモルではなく、娘からさせていく。
幾ら功労者でも、トモルからの頼みでは承諾しない可能性もある。
だが、実の子である娘からなら、どうにかなるかもしれない。
そこに賭けて手紙を出させていく。
「同じように売春をさせられそうになった友達がいる、家に戻すのも可哀相だ」と。
同情を引くような内容であるが、それで上手くいけば、という思いもあった。
幸いな事に、大半の家からは「ならば連れてきなさい」という返事が送られてきた。
これで夏の間に女子が実家で悲惨な目にあう可能性は下がった。
また、そんな家同士で繋がりを作る良い機会にもなった。
藤園に対抗する勢力に成長するきっかけになるかもしれない。
可能ならばそうなるようにしていきたいとトモルは考えていた。
折角の機会であるのだから。
(それはそれとして)
やるべき事が意外と山積みで泣けてくる。
今はまだ良いが、そのうち自分一人ではどうにもならなくなるとも思った。
(組織を作らないと、本当にまずいな)
いくら個人の能力が優れてるとはいえ、全てを一人でこなせるわけではない。
今回のように、被害者を引き受けてくれる場所を探したりする場合、どうしても人が必要になる。
被害者を引き受ける人、引き受ける人を捜す人、探した相手に要望を通せるような人。
(人脈……派閥っていうのかな)
そういったものの必要性を感じた。
面倒も多いが、利点も大きい。
どうにかしてこれを作り上げたかった。
今後の活動のためにも。
その為にも恩を売っておければと思う。
また、トモルと組む利益も。
そして。
(他に行けない状況も作っておけば……)
そんな事も考える。
人間が恩義で動くなどとはとても思えない。
そんなもんだけで何かしてくれるのは、余程の善人だ。
さもなくば、それがその人にとって大した労力でも損失でもない場合だ。
トモルが今回助けた者達がそうであるかどうかは分からない。
娘が助かって喜ぶ者もいるだろうが、それについては「ありがとう」という言葉だけで終わらす可能性もあった。
人間なんてそんなもんである。
だからこそ、相手を縛り上げるだけの状況も作っておきたかった。
(そうすると、情報の拡散も必要かな)
あらためて、被害者情報の提供も行なっていく事にする。
加害者の名前をしっかりと公表しながら。
それらによって誰が貶められたのかを示していく必要がある。
でなければ、事を起こした者ではなく、情報を公開した者を非難する可能性が出てきてしまう。
そうやって情報を広める事で、身の置き所を失う者も出てくるかもしれない。
それがトモルの狙いだ。
そうして行き場を失った者を拾っていけば、それなりの勢力になる可能性があった。
他に行き場がないから、逃げる可能性も少ない。
恩義や利害で縛れない連中でも、これで確保出来る可能性はあった。
(そうなると、かなり広範囲に情報をひろめないといけないか)
噂の伝播だけではとうてい足りない。
もっとよりはっきりとした、形に残る手段も欲しい。
たとえば、宣伝用のチラシとか。
(活版印刷、作ってみるか)
この世界にあるかどうかは分からないが、簡単な印刷機械を作ってみようかとは思った。
版画のようなものでもいいから、手書きよりは簡単に大量に印刷できるものを。
それでチラシを作って、あちこちにばらまくようにする。
この世界ではそれなりに有効な宣伝手段になるかもしれなかった。
(チラシを撒く人間も必要になるけど)
やはり、組織力は必要になる。
(夏休みの工作のつもりでやってみるかな……)
つとめて暢気にそんな事を考えた。
そのために必要な技術も考えていく。
この場合は工作という技術で良いのだろうか……などと考えながら。
この話を書いてて感じたり思ったりした事
BOOTHにそんなものをまとめたものを置いている
↓
https://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/485234953.html




