94回目 事が終わったあとの処理 4
「でも、森園様からお話があったから、もう大丈夫だとは思うんだけどね」
そういうサナエの表情は決して朗らかとは言えない。
当面の問題は消えても、今後に再発する事を考えてるからだろう。
家族が売春をやれと言ってるのだから、それもあり得る話である。
「でも、助けてもらったのも確かだから。
お礼を言おうと思って」
それで声をかけてきたのだろう。
「そっか、わざわざありがとう」
一応そう声を返す。
だが、突きつけられた新たな問題で、トモルの頭はいっぱいになっていた。
「でも、それだと家に戻るのもまずくないか?」
「ええっと……うん、それは大丈夫だよ」
口ではそう言うが、表情はそれとは裏腹だった。
決して好ましくない事態が起こるだろうと予想している顔である。
確信はないが、今までの事から事態を楽観してはいない。
それが分かるだけに、トモルはどうにか出来ないかと思った。
「まあ、学校にいる間は大丈夫だろうさ」
少なくとも、ここにいる限り親であろうとどうにか出来るものではない。
問題なのは家にいる間である。
(もうすぐ夏休みだしなあ……)
そうなれば帰省する事もあるだろう。
その時に何をどうされるやら、である。
それが気になったので、ついでに尋ねる事にした。
「でも、夏休みとかはやっぱり家に帰るの?」
「そうなると思う。
お父さんもお母さんも帰ってこいって言ってるし」
どういうつもりでそう言ってるのかが気になるところである。
特に裏が無いなら良いのだが。
とてもそうは思えない。
おそらく、実家に帰れば面倒な事になるだろう。
むしろ、何も無いという事の方があり得ない。
親がサナエにやらそうとしてた事を考えれば、良い結果など期待出来ない。
(どうしたもんかな)
これはサナエだけの問題ではない。
同じような境遇の他の者達にも言える事だ。
これを解決しないと、今後も似たような事が発生するかもしれない。
(折角潰したのに)
二度も三度も同じ事をするのは面倒である。
どうにかして片付けておきたかった。
「だったらさ……」
ふと、思いつきを口にしてみる。
「知り合いに声をかけて、夏の間遊びにいける所を探してみるよ。
そっちに行ってみたらどうだ?」
「え?」
「まあ、見つかるかどうか分からないけど。
同じ教室の奴とか、寄宿舎の連中に声をかけてみるよ。
それで、もし良い所が見つかったらさ、そっちに行ってみない?」
「え、あ、うん。
そう出来るなら嬉しいけど」
「じゃあ、声をかけてみるよ」
「うん、お願いします」
そう言ってサナエは嬉しそうに頭を下げた。
(とは言うものの)
サナエにああ言いはしたものの、上手くいくかどうかは分からなかった。
何せ、これから引き受けてくれる者を探さねばならないのだ。
(同じ被害者の家なら、可能かもしれないけど)
それもあまりあてには出来ない。
同じ境遇という事で同情はしてくれるかもしれないが。
よその子供をわざわざ預かるお人好しはそうはいないだろう。
それでもトモルは、どうにかして被害者を出さないようにしたかった。
とりあえず、この夏の間だけでも。
その為に、預かってくれる所を探すつもりでいた。
(乗りかかった船だしな)
始めた事なのだから、最後の最後まで面倒を見なくてはと思ったのだ。
それに、これから先にも似たような事は起こるはずである。
今回はその予行練習と思ってやってみる事にした。
これくらいの後始末が出来ないなら、この先何をやっても失敗するようにも思えるから。
(やるしかないんだろうな)
事を起こすのは難しいとあらためて感じた。
後始末まで綺麗に片付けないといけないのだから。




