93回目 事が終わったあとの処理 3
こうして、一応の目処がついた。
全てが片付くまでにはまだ時間がかかるが、それも時間の問題になりつつある。
何はなくとも女子生徒は恐怖から解放された。
自分にお鉢が回ってくるという事から。
被害者については、これからまた地獄が始まっていくわけだが。
今それを知る者はいない。
誰もが訪れた平穏を喜んでいた。
「あの……」
授業が終わって教室から出て暫く歩いたあたり。
階段の途中で呼び止められたトモルは、なんだと思いながら振り向く。
そこには、何となく見覚えはあるが、名前が分からない女の子が立っていた。
「えっと、ごめん、誰かな?」
尋ねるトモルに相手は、
「羽川サナエです、隣の教室の」
と名乗る。
それを聞いても、トモルは誰だか分からなかった。
聞き覚えのない名前である。
どこかで会ったような記憶はあるが、どこでだったのかが思い出せない。
「えっと、どこかで会った事があるかな?」
「あの、少しだけですけど。
寄宿舎に来る時に」
「……ああ、あの時か」
ようやくそれでトモルは思い出した。
女子側の寄宿舎に入る時に協力してもらった者の一人だ。
ほんの少しだけ接触をしただけだったから、記憶にもあまり残ってなかったのだ。
(なのに何で?)
疑問が残る。
目の前の女子、羽川サナエを自分はほとんどおぼえてない。
彼女と接触したのが、後にも先にもその時くらいだったからだ。
だが、彼女はトモルを知っている。
何故なのかと思った。
「その、色々聞いてますから。
お友達……の人達から」
「友達って……なんの?」
「一緒に、柊君を応援してるみんな」
「ああ、そういう……」
それで合点がいった。
仲間同士の繋がりでトモルの事を知ったのだろうと。
頭の痛い事だった。
情報が漏れてる証拠でもあるからだ。
どれだけ隠していても、どこかで情報は漏れる。
それは分かっているのだが。
こうもあっさりと身元がばれていたとは思わなかった。
(防諜体制を再構築しないとまずいな)
この状況は決して喜ばしいものではない。
既に漏れてしまったものは仕方ないとしても。
今後は情報が漏洩しないようにしないとまずい。
下手したら、敵に筒抜けになる。
(まあ、それはこれからだな)
今は目の前にいるサナエをどうにかしないといけない。
「それで、どうしたの?」
わざわざ声をかけてきた用件を聞かねばならない。
教室が違うのに声をかけてくるのだから、何かあるのだろうから。
それを問うたトモルに、サナエは途切れ途切れに応える。
「あの、ありがとうね」
「ん?
何がだな?」
「……森園様のこと」
「…………何か知ってるのか?」
「うん、私の所にもお話が来たから」
恥ずかしそうにサナエは頷く。
「それって……外に出かけて、まあ、その、あれだ。
男と一緒にってやつか?」
「うん、それだと思う。
私も……行くように言われていたから」
「そっか……」
目の前の娘も被害者だったとは思わなかった。
「この前、行かされる事になってたから。
それが無くなって、本当に助かったの」
「間一髪だったか」
ギリギリのところで、彼女は助かったようだ。
少しだけ安堵する。
被害の拡大を防ぐ事が出来て。
「じゃあ、もう安心なのかな」
「だと思う。
どうなるか分からないけど」
そう言って寂しそうに笑う。
「でも、ありがとう。
おかげで悪い事にはならずにすんだようだから」
「そうだな。
でも、何か気になる事でもあるのか?」
相手の顔色から、まだ事が完全に終わってないような素振りが見える。
それが気になって尋ねてみた。
すると、ろくでもない言葉が出てきた。
「お父さんにやるように言われてたから。
だから、これからも何かがあるかもしれない」
完全な解決というわけにはいかなかったようだ。
学校内での活動は潰したが。
家が乗り気だとそれで終わりというわけにもいかないようだ。
この問題、かなり根が深い。
(まだまだこれからか)
この問題は尾を引きそうだと思った。




