9回目 モンスターとの初戦闘
「さてと」
練習用の防具を身につけ、鉈や手斧や小柄(小型のナイフ)を身につける。
それだけでも子供の身にはずっしりと重い。
あれもこれもと身につけるのは、かえって問題だと思った。
とはいえ、最低限身につけてないとどうしようもないものもある。
「命にはかえられないか……」
重さは危険の代償、命を守る為の費用と考える。
それでも動きに制限が付くし、かなり厳しい。
(体力強化と思ってがんばるか)
ものは考えようである。
自分でも無理があると思ったが。
そして始まったモンスター退治であるが、これがやはり難しい。
漫然と歩いていてもそうそう遭遇するものではない。
出来れば出会いたくもないが、そうも言ってられない。
(出てくるなら、早くしろ)
だんだんと苛立っていく。
それでも周りを見渡し、モンスターがいないかを探っていく。
(もっと奥までいかないと駄目なのかな)
今いる場所ですらかなり集落から離れている。
ここから更に離れるとなると、帰る事も難しい。
それでもモンスターを求めて歩いていく。
ここまで準備に手間をかけて、何の成果もありませんでしたは悲しすぎた。
願いが届いたのか、目の前にモンスターがやってきた。
ピョンピョンと飛んでくるそれは、このあたりでは結構よく見る奴である。
(バッタか)
そう、バッタである。
体長50センチ(胴体だけ)ほどもあるバッタである。
雑食性で田畑などを荒らす事から、農家の目の敵になっているモンスターである。
ただ、体が大きすぎるせいか、一般的な昆虫に比べて跳躍力はそれほどでもない。
最大でも3メートルほど、高さにして1メートルになるかならないかくらいまでしか跳躍しない。
背中の翅を使って、短い距離ながら飛ぶ事もあるが、それにしても10メートルになるかならないかである。
体が大きくなって、かなり運動能力は落ちている。
本来の大きさなら、体の何倍もの高さまで飛び上がるのに。
ただ、50センチの巨体というのは脅威である。
こんなのが全力で突進してきたら、相当な衝撃を受ける。
体も大きいので、食い荒らす草木の量も多い。
また、口も大きいので人間にもかじりつく。
モンスターでは最弱ではあるが、これはこれで危険な存在だ。
こいつが侵入しないように、農家の皆さんは様々な対策をたててるほどだ。
ありがたいのは、集団で行動する事が滅多にない事である。
大挙して田畑に襲来したら、集落一つ分くらいの田畑は簡単に壊滅する。
そんな巨大バッタ、モンスターのバッタが目の前にやってくる。
鉈を手にしたトモルは、早速予定の行動にうつっていった。
相手との距離を考えながら魔術を放つ準備をする。
使うのは光。
それも瞬間的に、最大の光量で。
相手との距離を考え、放つ瞬間を考えていく。
それで目潰しをするつもりだ。
昆虫型のモンスターへの目つぶしがどれだけ効果があるのか?
そこが分からないのが不安である。
だが、他に手段もない。
これが上手くいかなければ、あとは自力でどうにかするしかない。
そうなってしまったら生還率は低くなる。
分の悪い博打である。
(上手くいってくれ)
そう願いながら、接近し、光を放つ。
モンスター・バッタの頭近くに、光はあらわれた。
それを直視してしまったのか、バッタはよろよろとうごめく。
頭を振り回し、体をふるわせている。
目を焼かれたのだろう。
効果は確かにあったようだ。
そこにトモルは一気に近づき、手にした鉈を打ち込んでいく。
背中に振りおろしたそれは、狙い通りに翅を叩き切った。
これで空に逃げる事は出来なくなる。
それでも相手はまだ生きてる。
その足で飛び跳ねたら逃げられる。
なので、二撃目は足を狙った。
続けざまに鉈を打ち込んでいく。
頭を叩き、胴体を叩き、足を叩いていく。
その都度バッタの体のどこかが裂けていき、動きが鈍くなる。
細長い足がもげて動きがとれなくなっていき、地面に横たわる。
すさまじい速さで、足や翅を動かすバッタ。
だが、それがトモルの攻撃を妨げたりはしない。
振り下ろされる鉈は、バッタから命を確実に奪っていく。
数分後にはモンスターバッタの動きは完全に無くなる。
トモルは初めての戦闘を終えた。
無我夢中だったのだろう、疲れは戦闘が終わってからやってきた。
腕も体も重く、手には物を掴んでる感触がない。
それでもやる事をやろうと小柄を手にとる。
モンスターに付着している核を切り取るためだ。
胸の部分にあったそれの縁に刃を入れて、切れ目を入れていく。
動物の肉とも違う独特の感触が手に伝わってくる。
核を切り離すまでその気味の悪さを味わう事になった。
それが終わると、核と離れたモンスターの体が消えていく。
霧のようになっていき消滅したそれをみて、やはり普通の存在でないと実感する。
だが、これで核を手に入れる事も出来た。
(少しは楽を出来るかな)
核は魔術を用いる際に、自分の代わりにMPを消費出来るという。
これで魔術の分の消費を抑える事が出来る。
これから何度もモンスターと遭遇するだろうし、その都度魔術は用いる事になる。
今のトモルにとってはありがたいものだった。
冒険者なら、もったいないからなかなか出来ないだろう。
しかし生活を親に頼ってるトモルは、そんな事気にする必要も無い。
手に入れた分だけどんどん使う。
これで今後の戦闘も少しは楽に出来る。
その次が何時になるか分からないが、もう少しこの辺りを探索していく事になる。
ただ、戦闘というか、モンスターとやりあうのは難しい。
(かなりきついな)
最初の目くらましが効いたから良いが、そうでなかったらどうなっていたか。
この先も上手くやらないと、やられるのは自分であろうと思った。
それでもトモルは、この日5体のモンスターを倒した。
まだ日も高いうちにこれだけの成果を上げることが出来たのはありがたい。
残りの敵も、魔術の先制攻撃でいなす事が出来た。
核もその都度消費したが、それでも手元に三つ残ってる。
そのうち一つは幾らか魔術に用いたが、二つは手つかずだ。
かなり効率よく稼げたほうだろう。
少なくとも、魔術による消耗は考えなくても良い。
最初の一回だけ消耗はしたが、あとは全く問題なく行動が出来た。
普段なら、何回か魔術を使えば頭が朦朧とし体がふらつく。
10回も放とうとしてしまえば、その前に確実に気を失う。
それが今は全く無い。
確かに核は魔術の使用に役立ってくれていた。
初日の成果はなかなか良い物だった。