86回目 ついに相手のボスのお出ましのようで(たぶん、序盤の)
昼は学校、夜は貴族の所を巡回。
そんな事をしてるうちに一週間が過ぎていく。
気付かないうちに、あと少しで夏休みという時期になっている。
多くの者は実家への帰省を楽しみにしているようだった。
そんな中でトモルは、これからどうするかを考えていた。
帰省はする事になるだろう。
しなくてはいけない義務はないのだが、周囲の流れにあわせるとそうなってしまう。
寄宿舎に残る事も出来るが、そうする者は少ない。
たいていの者は学校よりは自宅が快適らしい。
そんなわけで、多くの生徒は夏季休暇が来るのを楽しみにしている。
特に実家が快適とは思わないトモルはそうでもないが。
帰る理由はないし、無理して帰宅するつもりもない。
だが、周りに合わせる為に一応帰宅する事にしていた。
(それに、冒険者を受け入れる布石を作っておきたいし)
そんな事も考えていく。
これから冒険者を増やすにあたり、それなりの準備も必要になる。
その為にも一度帰省しておいた方が良いかもしれなかった。
(いきなり冒険者がおしかけても混乱するだけだろうし)
そうなった時に領主の父や村の者達が何をするのか?
それが分からないのが怖い。
だからこそ、一度帰っておいた方が良いような気がした。
その前に片付けておかねばならない事もある。
ついに藤園カオリからの呼び出しがかかったのだ。
これは無視するわけにはいかない。
どんな用件であるのかは、森園スミレを始めとした学校内情報網から入ってきている。
なので、それについては疑問はない。
やる事も今までと大差はない。
(魔術で支配下において、情報源にするか)
これまでやってきた事の繰り返しである。
ただ、相手がどう出てくるのか分からない。
呼び出す理由などは分かっていても、実際にどう切り出してくるのか。
用件は一つだけで終わるのか。
事前情報と違う事もあるかもしれない。
むしろ、事前情報は欺瞞で、当日は別の話をされるかもしれない。
主導権は相手にある。
それは怖い事だった。
そもそも相手が何の準備もなしに待ち構えているのか?
仮にも上位・高位貴族の娘がだ。
権謀術数渦巻く中心にいる藤園の姫である。
そんな不用心な事をするだろうか?
そんな疑問もある。
なんだかんだで学校内の組織を一つを任されてる存在だ。
それが何の備えもないとは考えにくい。
少なくとも、トモルについても多少は情報を得てると考えた方が良い。
もしかしたら、能力についての情報すらも得てる可能性がある。
正確なところは伝わってないだろうが、常人を凌駕するという事くらいは知ってる可能性がある。
それを踏まえて何らかの対策をしてる可能性はあった。
(用心はしておいた方がいいよな)
この学校に間者を放っている事は充分に考えられた。
それらを通して学校で起こってる事を把握してるかもしれない。
そこから何らかの対策をしてくる可能性もあった。
(相手は腐っても藤園のお姫様。
こっちが知らない情報源を持ってるだろうし)
トモルが知らない情報を。
トモルを凌駕する権勢を。
それを持って何かを仕掛けてくるかもしれない。
だとして何が出来るのか……という事になる。
個人の能力はともかく、権力や権勢で上回る相手だ。
どんな搦め手を使ってるか分からない。
そこが怖い。
だが、もう迷ったり悩んでる場合ではない。
呼び出しは既に受けている。
これを断る事は出来ない。
ならば、出向いて何かしらの成果を得るしかない。
(さて……)
能力値を表示する。
それから修得可能な技術一覧をひろげていく。
何かないか、使えるものはないかと探っていく。
少しでも有利に出来る何かがないかと。




