82回目 そうするつもりなら、こうしていくしかないでしょう 7
職員室を退出したトモルは、更に学校内を歩き回る。
精神介入魔術で強制的にでも情報を引きずり出すために。
それで判明した事もある。
生徒と教師・職員の中にある連絡網の存在だ。
一般的なものではない。
様々な方面から学校に出される指示の流れだ。
主に、高位や上位の貴族が無理難題を通すための。
これがいくつか浮かび上がってきた。
売春もその中の一つだ。
他にもあちこち貴族家からの指示が流れこんできている。
学業成績の操作や、悪行の隠蔽等々。
学校での評価や成績を操作しようというものが多い。
少しでも自分の子供の今後を有利にしようというのだろう。
(だったら、自分で教育しろ)
呆れてそう思いもする。
学校の方を操作するのではなく。
自分の子供に頑張らせろと思ってしまう。
なぜ少しでも教育に力を注がないのかと。
本人に努力をさせるのではなく、評価を操作しようとする。
それがもう、どうしようもなかった。
それだけではない。
我が子の邪魔になるような者がいるならば、それを掣肘するようにという指示もあるという。
学業成績の良い者を虐げたり。
素行などが良い者の評価を下げたり。
そうして自分の子供の邪魔になる者を排除しようとする。
更には、イジメや暴虐を行なってる者を糺すのではなく。
それを止めようとした者を排除せよと。
イジメ・暴虐、ひいては犯罪行為を働いていた子弟の親がそう言ってくるのだ。
これも、高位や上位の貴族家からである。
つまり、まっとうな勝負をしてる者を引きずりおろそうとする。
どれだけ優れた結果を残してもだ。
それが下位の貴族の子弟ならば、排除の対象になる。
どれだけ結果を出しても、採点が厳しいものになったり、成績通知表の評価を下げたりと。
そうした行為が学校内に蔓延っていた。
(そういうもんなんだろうな)
呆れはしたが、トモルはそういうものなのだろうとも思った。
何せ人間が作ってる社会である。
こういった不正など嫌でも発生するだろう。
誰だって自分が有利になるためなら何でもする。
その為に人を追い落とす事だってやる。
そもそもとして、人を追い落とす事や貶める事を楽しんでやるのが人間だ。
社会そのものがそういう構造になっていくのも当然ではある。
それが社会そのものを衰退・崩壊させ、やがては自滅に至るのであるが。
(そこまで考えないよなあ。
考えても、今の自分が良ければそれで構わないだろうし)
誰だって自分がかわいい。
それだけが良ければ他はどうでもいい。
そういう考えが大半であろう。
正当な評価も、正当な努力もせずに楽して結果を得られるならその方が良い。
それを求めるのが人間の本性でもあるのだろう。
駄目だなとは思うが、それを修正する事が出来るとも思えなかった。
(でもまあ、あるものは使わせてもらおう)
折角出来上がってる連絡網である。
利用方法もあるだろう。
あちこちから飛んでくる指示で、どこの家が動いてるのかも分かるかもしれない。
また、学校側から情報を提供もしてるようだ。
それを利用して、外部を攪乱、ある程度の操作も出来るかもしれない。
何せ情報を提供する側をトモルは抑えてるのだ。
幾らでも使いようも動きようがある。
(折角だから、学校内の問題について動いてもらうか)
とりあえず、言われた通りに学業成績を操作してるという嘘を流してもらう。
そして、指示を出してる様々な者達を誘導するように情報をばらまいてもらう。
上手くいくとは思わないが、やれるならやってみようと思った。
さしあたっては藤園カオリとその一派が不利になるように。
目の前の敵であるこれらをどうにかしていく事にする。
他の家には、連合を組んで藤園に対抗してもらえればと思った。
何も敵対して攻撃しろとまではいかない。
付き合いを減らし、距離を置いてもらえればそれで良い。
学校の外における藤園の動きを牽制してもらえればとも思う。
さすがにそれは難しいだろうが、せめて情報提供や行動への協力をしないように。
そういう状況を作れるようにしてもらいたかった。
もっとも、これはさすがに無理があるとも思ってはいた。
学校側からの情報提供でそんな事まで出来るとはさすがに思いはしない。
この程度で動くくらいなら世の中簡単なものだ。
だが、そういう流れを作っていく事で、今後の役に立つかもしれない。
それを期待してのものである。
(とりあえずは、我が家の評判でも上げていってもらうか)
トモルと仲良くしてる者達の家には、トモルと実家の柊家の評判を流してもらう。
もちろん欺瞞情報だ。
だが、そんなもので多少なりとも心証がよくなれば、今後の展開で有利になる事もあるかもしれない。
あまり期待はせずに、そうした工作をしてもらう。
ついでに売春組織についての話を流してもらう。
偽情報を含め、幾つか流していく。




