80回目 そうするつもりなら、こうしていくしかないでしょう 5
女子寄宿舎の舎監達から、必要な情報を引き出しきる。
さすがにこれ以上は何も隠してないというところまで。
それでもトモルは、あらためて舎監達に精神介入魔術を使っていく。
先ほどは全体に向けて使ったので、効果は実はさほどではない。
それでも、通常の人間が抵抗出来るような生やさしい威力ではなかったが。
今度はそれを、一人一人に集中してかけていく。
そうする事で、先ほど以上の効力の強さで精神介入する事が出来る。
効果時間も更に延ばす事が出来る。
(こいつら、まだ何か隠してるかもしれないし)
そう思っての事だ。
出来るだけ情報が欲しい。
何せ、次に客が来る時までの時間がない。
今ここでやれるだけやっておかないと、被害者が出てしまう。
それでは遅い。
それに徹底しておかねばならない事がある。
トモルの存在の隠蔽だ。
決して外部に漏れないように口止めする必要がある。
それもあって、強く精神介入の魔術を使っていく。
それによって、相手の頭や心が壊れてもかまわなかった。
生かしておきたくもないクズなのだから。
「ついでだから、偽情報を流しておけ」
トモルの事を隠すついでである。
真相を隠すだけでなく、嘘を流す事で相手を攪乱させておく。
完璧に出来るとは思わないが、可能な範囲で構わないからそうさせておく。
少しでも相手が混乱すればそれでよい。
分かりやすい大きな嘘を垂れ流す必要は無い。
そんなのすぐに露見する。
小さな、ちょっとした勘違いにおさまる範囲の事で充分だった。
それならあやしまれる事もない。
それに、積み重なれば大きな効果も出てくる。
上手くいけば、多少の時間稼ぎにはなるだろう。
そうなれば十分だった、今のところは。
そうして精神を書き換えてから、治療魔術で舎監達の怪我を治していく。
変な怪我でもしてたら、それだけで怪しまれる。
痕跡は消しておかねばならない。
何より、今は事が表に出るのはまずい。
出来れば痛みにのたうち回ってもらいたいのだが。
それは我慢せねばならなかった。
それが終わってからトモルは寄宿舎の鍵を手に取る。
まだこちらに用があるからだ。
夜中に申し訳ないが、ここにいる女子に話がある。
その為に部屋をまわらねばならなかった。
鍵はその為に必要になる。
それに、今後の出入りを簡単にするための合い鍵も作らねばならない。
なので暫くは借りておく事にした。
巡っていくのは聞き出した関係者の所。
売春の指示を出す側の連中の部屋に行き、魔術を使って支配下に置いていく。
修得した精神介入魔術の有効活用だ。
情報を素直に喋らせ、今後は組織内をかく乱していくように命令をする。
もちろんトモルの事は一切喋らせないように命令もする。
ただ関係者は意外と多い。
全部を回るだけで結構な時間がかかった。
だが、手を抜くわけにもいかないので、限られた時間を有効活用していく。
「おい、起きろ」
そんな関係者の一人をたたき起こす。
乱暴だとはトモルも思ったが、そいつだけはかまわないと思った。
なぜなら、そこで眠りこけてるのは、森園スミレなのだから。
容赦なく叩き起こす。
売春には関わってないようだが、これも元締めの取り巻きだと聞いている。
放置するわけにはいかない。
文字通りに叩き起こして、首を掴んで持ち上げる。
今のトモルなら、子供一人を簡単に持ち上げられる。
されてるスミレは苦しげに顔をしかめていく。
それに構わずトモルは言葉を続ける。
「お前、確か藤園カオリの関係者だって言ってたよな」
「ぐ、うっ!」
「どうせ下っ端だろうけど、少しは働いてもらうぞ」
「げ、ぶっ……!」
「藤園と、どうせいるだろう取り巻き共。
そいつらの情報をこっちに流せ。
分かる範囲でいい。
それと、出来るだけ情報を仕入れられるように、仲間も増やせ。
こびへつらって懐に入れ。
少しでも内部に食い込め。
なんでもいい、どんな小さな事でもいいから調べてこっちに教えろ」
「ぐう…………」
苦しげにうめくスミレは返事も出来ない。
だが、魔術によって精神介入を受けてるので、言われた事はしっかりと頭に刻まれていく。
「あと、こっちの事については絶対に喋るな。
適当に誤魔化しておけ。
どうしても喋らなくちゃならなくなったら、別の誰かの名前を出せ。
その場合は藤園の関係者を使え」
基本的な事としてこれらを命令していく。
トモルの事が伝わらないように、なおかつ相手に多少なりとも打撃が与えられるように。
それらにスミレは否応なく従っていく。
そうなってしまうだけの力がトモルの魔術にはあった。
「それと、俺を呼び出すような話が出てるようだな」
その事も、他の者達から聞き出していた。
「徹底的に誤魔化せ。
俺が見つけられないとか、出会う事が出来ないとか。
呼び出そうにも見つからないからどうにも出来ないとな。
絶対に俺を呼び出させるな」
時間稼ぎである。
いずれは対峙する事になるだろう。
だが、そうなるまでにある程度体勢をととのえておきたい。
出来ればカオリの方の足下を崩しておきたい。
それまではどうにかして直接の接触は控えたかった。
今の段階では、勝ち目がどうにも見えないのだ。
単純に叩きのめすだけなら何の問題もないが。
(関わってる連中をあぶり出さないとなあ)
まずはそれが先決である。
相手は組織だ。
一人二人を潰しただけでは終わらない。
と、そこまで考えてふと思った。
(いや、直接聞き出せばいいのか?)
会って直接魔術をかければ一気に片付く。
その事を考えて、トモルは少々方針変更をする事にした。
(何も、遠慮する必要はないんだし)
トモルの力をもってすれば、カオリの所に押し入る事など造作もない。
ただ、それでも直接会うのは、もう少し時間を置いてからにしておく事にする。
下準備を少しでも進めておいた方が、何かと有利になると考えてである。
相手は国政に影響力をもつほどの一族である。
何一つ油断は出来ない。
少しでも有利な条件を作っていかねばならなかった。




