78回目 そうするつもりなら、こうしていくしかないでしょう 3
呆れるような話が出続けている。
その中でも特に驚いたのが、この組織だった売春の管理者だ。
それを舎監達が口にした時、トモルは嘘だと思った。
「生徒が元締めかよ……」
何の冗談だと思った。
「嘘だろ」
「いえ……本当なんです」
先ほどからあれこれと喋り続けてきた舎監達が、必死になって伝えてくる。
「ここ最近は、この学校に通うとある方がまとめておられます」
「そんな奴がいるのかよ」
言ってしまえば小学校である。
そこに通ってる生徒────小学生が元締めというのはさすがに予想外であった。
だが、ここまで色々喋ってる舎監が嘘を言ってるとも思えない。
いや、欺瞞情報かもしれないのだが、頭ごなしに否定するわけにもいかない。
それしかありえないと証拠が示してるなら、それが事実である可能性は非常に高い。
どんな突拍子もないと思える事であってもだ。
仮に証拠が揃ってないなら、なおのことあらゆる可能性を否定してはいけない。
それは思い込みを発生させ、真実に至る道から目を逸らす事になる。
とりあえず、それが誰なのかを聞かねばならない。
「誰がやってるんだ?」
確認していく。
だが、今回ばかりは舎監達の口も重い。
さすがにそれを告げるのは躊躇われるようだった。
だが、彼女らも悩んでいる。
元締めの名前を出すのも怖いが、目の前にいるトモルはもっと恐ろしい。
下手に逆らえばどうなるかは、身をもって知った。
なのだが、喋れば今後どうなるか分からない。
とはいえ、黙っていれば、目の前のトモルに何をされるか分からない。
どうしたらいいのか迷ってしまう。
それでも、舎監達は口を開いていく。
先の事よりまずは目先の問題を解決する事を優先した。
でなければ、自分の命も、実家の者達もどうなるか分からない。
「藤園カオリ様です……」
おそるおそる舎監達は元締めの名前を口にする。
まさかその名前を聞くことになるとは思わず、トモルは呆気にとられた。
舎監達が言うには、もともとこの売春組織は藤園が仕切ってるのだとか。
なので、その関係者が実務を担ってるという。
今は藤園家の者が入学してるので、直接指揮をとってる。
とはいっても、さすがに全部を管理してるわけではない。
役目は女子生徒ににらみをきかすこと。
藤園家の権威を十全に使う事。
いわゆる名前を貸して仕事をしやすくする事。
それが主な目的だという。
その為に、女子の中の階級、スクールカーストを利用している。
藤園に逆らえる者などいないので、女子内のこの体制はかなり効果的に機能してる。
この絶対的な支配体制によって、少女売春は円滑に運営されている。
下級貴族の娘に強制する事で。
確かにそれなら逆らえないのだろうと思った。
家の力関係は学校内にも及ぶ。
生徒同士であってもそこから逃れる事は出来ない。
力のある家の者がいれば、生徒もそれにひれ伏さねばならない。
藤園カオリは現時点における最高権威であり権力なのだ。
逆らえる者がなどいるわけがない。
藤園に匹敵するような家の者でもないかぎりは。
(けど、敵は見えてきたな)
何が問題なのか、その根源が少しははっきりした。
敵は巨大だが、見えないよりは良い。
どう攻めれば良いかは分からないが、闇雲に動く必要はなくなってきた。
それだけでも幸いと言うべきだろう。
(それに、伝手も無いわけじゃないか)
今回、わざわざ女子寄宿舎にやってきたもう一つの目的を思い出す。
藤園への伝手が一応はあるらしい輩を。
(会う理由が増えたな)
同時に、容赦をする必要性がまた一つ無くなったとも思った。
今日はいつぞやの夜より更に徹底して痛めつけてやる事にした。
無駄な敵愾心を無くし、少しは協力的になってもらえるように。
あるいは従属的になり、言われた事に素直に従うように。




