76回目 そうするつもりなら、こうしていくしかないでしょう
スミレが絡んできたその日。
トモルはすぐに動き出した。
生徒や学校関係者を通じて情報を集め、夜には行動を開始する。
寄宿舎を抜け出し、女子側の寄宿舎へ。
正体がばれないように仮面とフード付きマントで姿を隠し。
常人の数倍に到達した身体能力を駆使して忍びこんでいった。
目標はもちろんスミレ。
今度もまた徹底的に教育をするつもりであった。
また、ついでとばかりに気がかりな事を解決していこうとしてもいた。
それは同級生とその家族、更に学校関係者などから聞き出していた事である。
この学校において為されているという出来事。
それの確認を兼ねての潜入である。
(デマならいいんだけど……)
最初に聞いた時には、嘘だと思った。
だが、貴族社会の腐敗した部分などを考えると、頭ごなしに否定出来るものでもなかった。
まさかと思いつつも、一定の信憑性を感じてしまった。
それを確かめるのも兼ねて、トモルは女子側の寄宿舎に侵入していった。
中に入る事はそれほど難しくはなかった。
事前に伝えておいた通り、女子の一室の窓が開いていた。
トモルに協力的な者達の部屋だ。
そこから中に入り、目的の場所へと向かう。
寄宿舎の事を誰よりも熟知してる者達。
舎監の所へ。
舎監室の鍵はかかっていたが、魔術を用いて強制的に開く。
魔術で鍵を開いたのではない。
熱を発生させて、鍵を溶かしたのだ。
焼けただれた鉄から扉や壁に引火しそうになったが、それも魔術で発生させた水をかけて鎮火していった。
能力が大きくなったせいでこういった事も出来るようになっていた。
それから中に入り、後は入学式直後の男子寄宿舎で起こった事の再現である。
女ばかりの舎監を叩き起こして尋問を始める。
反抗しようとした者もいたが、拳を数発食らうと大人しく従うようになった。
それでも反抗する者は、手首を掴まれ骨ごと粉砕された。
それを見た舎監達は、トモルへの反抗心を失っていった。
「それじゃ、教えてもらおうか?」
そう言ってトモルは舎監達から目的の情報を引き出していく。
この女子寄宿舎で行われているという事を。
さすがにそれについては彼女らもすぐには口を割らなかった。
なので、事前に調べておいた彼女らの家の名前と家族構成を伝えていく。
それらがどうなってもいいのかと最後に告げて。
そうしたら、意外なほど簡単に情報を提供してくれるようになった。
やはり、「喋らなかったらこいつらを潰す」と伝えると話が通りやすくなる。
自分が大事という者は、自分の身に危機が及べば態度を変える。
自分以外に大事なものがあるなら、それが危機にさらされれば考えを変える。
ここにいるのは、そうした者達ばかりだった。
おかげでトモルは、一応は全員を生かしておく事が出来た。
(情報源が減らなくて助かった……)
そこに相手の命をおもいやる気持ちなど皆無である。
彼女がしてきた事を考えれば、そんな事をする必要性がどこにもないのが明白だからだ。
(こいつらが根性なしで本当によかった)
もし彼女らが自分や大事なものすら擲てる人間だったら。
仕える誰かに狂信的な忠誠を捧げていたならば。
心の底から心酔していたならば。
この場で跡形もなく消し去っていた事だろう。
そういう者は、情報を吐く事もない。
生かしておくだけで危険になる。
生き延びたら、主に事の次第を報告しにいくのだから。
そうならないように対処する必要がある。
今後の事を考えれば始末するしかない。
そうならずに本当に良かったとトモルは思っていた。
処分するのも手間だからだ。
ダンジョンまで持ち出すのも面倒なのだ。




