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【完結】なんでか転生した異世界で出来るだけの事はしてみようと思うけどこれってチートですか?  作者: よぎそーと
第3章

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75回目 迂闊に持ち出したらこうなるという実例

「──という事です」

 静かにそう言うと、藤園カオリはにこりと笑顔を浮かべた。

「私からは以上です。

 下がってよいですよ」

「は、はい!」

 裏返りそうな声をあげて、森園スミレは退室していく。



 その態度と表情と声には余裕なんてこれっぽっちもない。

 蒼白になった顔からは、怯えがみてとれた。

「みだりにお家の名を出してしまった事、平に謝りつつ、森園スミレ、さがらせていただきます」

「はい、よしなに」

 それで二人の会話は終わった。



「よろしかったのですか?」

 スミレが退室して暫くしてからカオリの傍に座っていた者が尋ねる。



 寄宿舎の中でも特に豪奢な一室、その中にある応接間。

 学生の部屋とは思えない設備を備えたそこには、主のカオリの他にも数名の女生徒がいる。

 いずれも彼女の側近として子供の頃から一緒だった者達だ。

 藤園の家に仕える直属の貴族達の娘である。



 このような者を、上級の貴族は子供の頃から側につけられる。

 将来の側近として用いるために。

 そんな配下の言葉にカオリは、

「かまいませんわ。

 おいたが過ぎた愚か者へのお小言に時間を割いてもいられません」

 年齢より大人びた言い方で返事をする。

 それを聞いた側近である娘は、

「過ぎたる質問でした、お許しを」

と頭を下げる。



 基本的に主にあれこれ尋ねる事は、臣下として間違ってると考えられている。

 臣下ならば主の考えや気持ちを、言われずとも察するものだという考えがあるからだ。

 だが、それでは間違いを発生させる。



 その為、時に臣下から質問をして主の意向を伺う事も求められる。

 そうした場合には、わざわざ主に考えを述べさせるという手間をかけさせるので、詫びを入れねばならない、という事になっていた。

 回りくどくて馬鹿馬鹿しい礼儀作法である。



 だが、無闇矢鱈に権威づけたがるむきには、こういったものが君臣の礼を彷彿とさせるのか感動を呼び起こす。

 この時のカオリと側仕えの娘のやりとりも、そうした君臣の間に起こる出来事の一つとして彼女達の中で処理されていった。



「まあ、起こしてしまった事は仕方ありませんわ。

 こちらとしても適切に対応をいたしませんと」

「かしこまりました」

「色々と立て込んでるというのに。

 困ったものですわ」

 そう言って面白そうに笑う。

 明らかに状況を楽しんでるようであった。



「森園さんには困ったものですけど。

 でも、藤園の名前を出した以上、やむをえませんわ。

 相手の方には色々と学んでいただきませんと」

「では、そのように」

「ええ。

 礼儀というものをしっかり身につけていただいてもらいなさいまし」

 その言葉に側の者達は「ははっ」と頭を下げた。



 この日、スミレはカオリの呼び出しを受けていた。

 理由は簡単で、藤園の名前を出した事の事情聴取のためである。

 簡単に家の、更にはカオリの名前を出した理由を問いただすためである。

 子供の喧嘩とはいえ、それはさすがに見過ごせない事である。



 取るに足らない事で一々そんな事をされていては、家の重みがなくなる。

 第一、つまらない争いならば自分で解決するべきである。

 取り巻きを(勢力確保のために)保護するのも上に立つ者のつとめではある。

 だが、自力で問題を解決出来ない者まで面倒はみてられない。

 そんな者は取り巻きとは言えないのだ。



 派閥とは、所属する者が互いに自分の力を提供し合ってはじめて成り立つ。

 派閥の恩恵にすがるのではない。

 まずは自分から何かを提供しなくてはならない。

 そうでない者は、乞食でしかない。

 そんな者は侮蔑の対象にしかならない。

 今のスミレがまさにこれである。



「それにしても、本当に困ったものです」

 言いながらため息を吐くカオリ。

「今少し慎んで行動してもらいたいものです」

「全くです」

「家名というものを何と思ってるのでしょう?」

 カオリの疑問に、側近達は思う所を口にしていく。



「下々の事は把握しかねるのでなんとも言えませんが」

「おそらく、カオリ様にお呼ばれされるようになって浮ついてしまったのかと」

「晴れがましい心地で吹聴してしまったのではないでしょうか」

「名誉に浴した事の無い者にはありがちな事と聞いてます」

「まあ…………!」

 少々驚いたように声をあげるカオリ。

「それでは、あの方はとんだ田舎者という事ですね」

「まったくもってその通りかと」

 側の者達はその言葉を唱和する。

 それを聞いてカオリは、

「本当に困ったお方ですこと」

と息を吐いた。



 スミレが家の名前を出した事で、どうあっても相手を成敗しなくてはならなくなった。

 とはいっても、出向いて相手に膝をつかせ、この度の事に詫びを入れさせるだけではある。

 事の理非はこの際全く関係がない。

 家の権威を守り示すために、相手に頭を下げさせねばならない。

 その為に相手をここに呼びつけねばならなくなる。



 そんな面倒な事をせねばならなくなった事をカオリは憂えていた。

 だからスミレを呼び寄せて、叱りつけもした。

 軽率な行動のせいで、カオリが動かねばならなくなったからだ。

 スミレが蒼白になって退室したのはその為である。

 下手すれば自分の家が吹き飛ぶかもしれない事態になった事を、スミレもようやく理解したのだ。



 もっとも、カオリにはそこまでするつもりはない。

 ただ、後日あらためて父親共々詫びを入れに来てくれれば、それで許すつもりだった。

 愚かとはいえ、わざわざ頭を下げて傘下に入ってきた者達である。

 そこまで酷い処罰をするつもりはなかった。



(でも……)

 その原因を作った相手の男子には、今少し手厳しい対応が必要にはなるだろう。

 頭を下げるのは当然として、更に相応の罰も与えねばならない。

 でなければ、傘下に入った者への仕打ちの対価にならない。

(どうしたものか)

 カオリはカオリなりに事を解決しようと悩んでいた。



 それが傍から見れば、どう考えても身びいきによる、理非の欠片もない仕打ちであったとしても。

 彼女は彼女の生まれ育った空間の中で当然の解決をしていこうとしていた。



 もっとも、そんな事を考える余裕などすぐに無くなるのだが。

 問題の原因であるトモルは、スミレとの衝突の後、即座に動き出していた。

 それはスミレどころかカオリまで巻き込む事態となっていく。

 誤字脱字報告をいただきました。

 この後書きを書き込んでる時点でいただいた部分は修正してあります。


 いい加減、無くしたいところだがどうにもならないでいる。

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