61回目 力こそ全てだという事実から目を背けても待つのは死と滅亡である 2
(でも、レベルだけじゃどうにもならねえだろうなあ)
そんな事も思う。
個人としての強さは必要だ。
これがなければ生き延びる事も出来ないだろう。
だが、それだけでどうにかなると思う程お気楽にもなれない。
社会の力の巨大さを、それを動かす地位や名誉というものの強さも理解してる。
この世界でもそうだが、前世の日本でもそうだった。
相手の立場や地位というのは、それだけで迂闊に手を出しにくくなるほど面倒なものである。
後先考えねばどうとでもなるが、無茶をやったら相応の対応もとられる。
最低でも警察との追いかけっこは免れなくなるだろう。
この世界もそれは変わらない。
(もっと戦力が欲しいな)
分かりやすく言うと、兵隊である。
部下とも言う。
それらをまとめた組織にもなる。
それらが欲しかった。
手を出してくる連中を迎撃するために。
自分一人では補いきれない部分を補完する為に。
戦闘もそうだし、それ以外の部分をこなすための存在としても。
これから相手にする連中は、戦闘だけでどうにかなるようなものではない。
だからこそ、様々な事に対応出来る人間や組織が欲しかった。
戦闘以外の情報収集や防諜、更には欺瞞工作に相手の勢力の切り崩しが出来るように。
それらを作って維持する為の金も。
金を稼ぎ出すための仕組みも。
考えていくと求めるものがどんどんと巨大化していってしまう。
それだけ必要だという事でもある、様々なものが。
さすがにその全てを望むのは難しいとは思う。
だが、幾らかは実現させておきたかった。
もっとも、トモル自身が生き残っていくためだけなら、こんなものも必要は無いだろう。
今後もレベルを上げ続けて、迫る誰をも殲滅する事が出来る強さを持てば良い。
どこかに定住せず、あちこちを動き回る事になるだろう。
だが、それでも生きていく事くらいは出来るだろう。
守らねばならないものがあるならともかく、そうでもないトモルには風来坊として生きていく事も出来る。
極端な話、家族すら見捨てていけば、それなりに生きていけるだろうとは思った。
また、トモルにとって家族はさして重要でもなく、守るべき対象というわけでもない。
悪い人間ではないのかもしれないが、貴族という枠組みから抜け出せないでいる父や母は、どうにも窮屈ではあった。
心配してくれてるのは分かる。
貴族としては当然の考え方の範囲内ではあるが、大切にしてくれるのも分かる。
それでも大事にしたいかどうかと問われれば、否と答える事は出来た。
トモルにとってはその程度のものでしかない。
しかし、それでも、これらを捨てるのは最後の手段にしたかった。
また、今回の事が原因で死亡、そうはならなくても失墜するような可能性は排除したかった。
(あいつらのせいで自分らしく生きられないのもなあ)
結局それは、より強い連中の我が儘によって人生を左右されてる事にほかならない。
そんなの御免だった。
それが無法や無体によるふざけた仕打ちによるものであるならばなおさらだった。
貴族子弟の上級生の不当な仕打ちを撃退したら命を狙われる…………そんな事があってたまるか、という思いだった。
だからこそトモルは自分を守り、なおかつ相手を叩きのめすための力を求めていた。
(そうなると、あいつらは使えそうではあるけど)
ダンジョンで自分の後ろをついてまわる冒険者達。
どうでもいいと思っている連中ではあるが、毎回毎回必死になってついてくる。
その根性と、生き残る為に始めた様々な努力は素直に認めざるえない。
少なくとも智慧と勇気はあると思える。
もし取り込む事が出来れば、今後役立つ事もあるかもしれない。
(声をかけてみるかな)
そんな事も考え始める。
もっとも、相手がこちらの言う事を聞くかどうかは分からない。
相手にも考えがあり意志があり気持ちがある。
それを無視する事は出来なかった。
(学校の連中も使えればいいんだけど)
自分に協力してくれる連中。
それらも割と便利に使える。
なかなか使える者もいる。
そいつらを今後も子飼いとしていければとも思う。
生徒だけではなく、教師の方も。
学校の運営に携わってる連中を、丸ごと確保出来ればこれほどありがたいことはない。
何せ、学校は将来の支配層たる生徒を手中にしている。
生徒という将来を根こそぎ確保出来るのだ。
しかも学校という教育機関。
使い方次第では、効率的な洗脳装置にもなる。
やろうと思えば、トモルに忠実な僕を大量生産出来る。
しかもそれが貴族だ。
学校で洗脳した者達は、貴族としてあちこちに放り込む事が可能になる。
政治に関わる様々な所に。
これも大きな強みになる。
すぐには出来ないだろうが、学校を手に入れるというのは一考の価値はありそうだった。
(使えるもんはどんどん使っていこう)
あるものは何でも使っていく。
そんな強引さも生きていくためには必要だという事も、トモルは長い人生で悟っていた。
それを為す力がある今、以前よりは多くの事がやれるだろうとも。




