531回目 ニート生活に向けての最終行程 5
「また面倒な事になってるな」
地上に降りてきたトモルは、ぼやきながら苦笑した。
向かいに立つ子孫も、
「面目ない」
と言いながら苦笑する。
「どうにかしようとしたんですけど」
「ああ、分かってるよ。
お前は頑張った、よくやったよ」
そう言って子孫をねぎらい、いたわる。
実際、子孫は良くやっていた。
地上は相変わらず騒乱が起こってる。
といっても、かつてのように戦争によるものではない。
そういったものと様相が変わった問題が発生している。
戦争自体はかなり減っている。
いい加減、侵攻と侵略を繰り返してるのは無駄。
争って破壊を繰り返し、衰退に陥る。
それでは無意味で無駄だと悟り始めてきていた。
そのせいか、国家間の戦争はなかなか発生しなくなっていた。
諜報戦や情報戦も含めてだ。
だが、そうなればなったで、別の問題が頭をもたげる。
対外的な戦争が無いなら、国内における治安問題が発生する。
なまじ、外に敵を作れないだけに、国内統一が出来ない。
人間は悪者を作って、それを敵にして一つにまとまる。
悪者にされた者が、実際に悪人であるかどうかは関係ない。
この悪い者を他国にする事で、とりあえず国をまとめる。
そうして国をまとめてきたのが人類だ。
だが、この方法が使えない。
悪者にすれば、いずれ攻撃しなければならなくなる。
「なんで悪辣な連中を野放しにしてるのか」と国内から突き上げがくる。
そうなると、嫌でも戦争に乗り出さねばならなくなる。
そうなっては、また戦乱と破壊と衰退に突入する。
それを避けるために、他国を悪者にする事を控えるようになった。
すると、国を一つにまとめる手段がなくなる。
全員がそうだというわけではない。
別に悪者など作らなくても、隣人と仲良くやっていこうという者はいる。
だが、世の中には騒動が大好きな人間がいる。
人をいたぶり、傷つけるのが好きな者達がいる。
そういう者達は、常に退屈してるという。
人との交わり、交友で喜びを見いだせない。
しかし、孤独を楽しむ事も出来ない。
だから騒動を起こして退屈を紛らわそうとする。
そういう人間もいるという。
そういった者達は、落ち着いて安穏と生活する事が出来ないのだろう。
だから無意味な騒動を起こす。
そうやって退屈を紛らわす。
迷惑な話である。
そんな者達が各国で暴れ回り、治安を乱している。
戦争もしてないのに、国内が乱れて停滞していく。
その余波がヒライワツミ王国、ひいてはトモルの自治州にも及んでくる。
大きな戦争にはならない。
軍勢が押し寄せる事もない。
だが、犯罪組織が暗躍しようとする。
国境を越えて内部に浸透し、自分たちの拠点を作ろうとする。
国家とは違う面倒さがあった。
もっとも、ヒライワツミ王国はともかく、トモルの自治州に入る事は出来ないが。
そういった者が侵入できないように、対策は施してある。
ただ、度重なると面倒になる。
ヒライワツミ王国内に犯罪組織が乱立するのも鬱陶しい。
今更必要がないが、盾が盾としての役目を果たせないのは問題だ。
トモルとしても少しばかりは愛着がある。
トモルの子孫達もそれは同じだ。
「やるしかないか」
トモルは決断していく。
「仕方ない。
外に出よう。
面倒を起こす連中を残さず潰そう」
「はい!」
今や神としてあがめる対象になってるトモル。
そのトモルの、先祖の声に子孫は応じる。
程なくトモルの自治州から様々な者達が各地に散らばっていく。
犯罪組織を潰し、問題を起こしてる連中をたどって根絶やしにするために。
場所を探知し、心のうちを見透かし、あらゆる事を見破りながら。
そうして各地の犯罪組織を。
そうした問題を起こす者達を処分していく。
二度と同じ事が起こらないように。
その指示と、必要な措置を伝えて、トモルは霊界に帰還する。
「これで落ち着けばいいけど」
そう思いながら。
神様とあがめられ。
信仰の対象になって。
そうなっても悩みはつきない。
それでもニート生活が崩れる事は無い。
霊界に帰れば、また平穏な日々に戻れる。
「ただいま」
その一言で、全てが終わる。
「おかえりなさい」
迎えてくれる者達の存在を感じながら。
久方ぶりに地上に出て。
問題を片付けて帰ってきたトモルは、再び戻っていく。
「やっぱり、ニート生活は最高だよ」
何もない、何もしないという自堕落な安息の日々を。
いつも一緒にいる女房達と共に。
これにて終了
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