528回目 ニート生活に向けての最終行程 2
「さてと」
一人、先に霊界にやってきていたトモル。
トモルはそこに自分たちの居場所を作っていく。
自分と、近しい者達の居場所を。
霊界とは、言ってみれば材料だけの世界だ。
エネルギーとか、物質とか、原子や分子など。
それらの元となる『気』と呼ばれるもの。
これだけしかない。
この『気』が集合して、様々な原子や分子、物質などになっていく。
そんな霊界には、特定の空間といったものがない。
そのままだと、気にとりこまれて霊魂が分解してしまいかねない。
なので、それを防ぐために、まず自分たちが存在できる空間を作っていく。
そうして作った空間に、移住希望者達を集めていく。
トモル領にいた者達は、この空間で新たな生活をはじめていく。
といってもやる事があるわけではない。
生命というか、存在を保つために必要なエネルギー。
それは常に周囲にあふれてる。
『気』が常に充填されるので、霊魂はそれを糧に存在し続ける事が出来る。
また、気候なども気にする必要がない。
霊魂状態ではそれらに左右される事がない。
温度や天気の変化がそもそも無いのだから。
常に最善最適の状態が保たれてる。
やる事がないのは確かだ。
だが、何かをする必要がない。
心地よい状態で常に存在し続ける事が出来る。
強いて言うならば、より近くにいる者達の存在。
それがより大きな快適さになっていく。
霊魂が響き合い、調和音を発していく。
音というのもまた正確ではないが、そうした響き合いが心地良さを増幅させていく。
もちろん、例外はいる。
一人でいる事を好む者もいる。
そうした者は単独で存在する事に快適さを感じる。
それはそれで独自の響きを周囲に広げていく。
巡り巡ってそれが、より多くの存在、あふれる『気』に作用していく。
そして、響きあう『気』は増幅し、分裂していく。
新たに『気』が生まれると言うべきだろうか。
そうして増幅していく事で、霊界は増大していく。
それがある意味仕事と言えるだろうか。
それをトモル達は続けていく。
「ようやく落ちついたかな」
ふと、そう思う。
なぜか異世界に転生し。
なぜか絶大な力を手に入れて。
それで好き勝手やって生きてきた。
結果はとりあえず良好なように思えた。
ここには無駄な騒動はない。
煩わしい外敵はいない。
内側の問題も存在しない。
どちらもこの世界にまで手を伸ばしてきてはいない。
それだけで十分だった。




