527回目 ニート生活に向けての最終行程
霊体も肉体も、基本的には原子や分子で出来ている。
上手く変換できれば、生きたまま霊界に移動出来る。
その考えが実現されたその日。
トモルはニート生活への移行を決断した。
霊体になる。
霊界に移り住む。
それが実現出来れば、完全なるニート生活になる。
もうこの世界の出来事に左右される事は無い。
生活のために、様々な作業をする必要はない。
農業や工業、商業に娯楽業などなど。
これらを保つために働く必要がなくなる。
とはいえ、すぐに実行するわけにもいかなかった。
自分だけであれば問題はない。
しかし、家族や自分の自治州の事がある。
ヒライワツミ王国とも縁がある。
これらを全て放り投げる事も出来なかった。
わずかなりとも情がある。
憎たらしい連中ならともかく、それなりに世話になった者もいる。
それらを全て切り捨てるのもしのびなかった。
なので、身近な関係者から打診をしていった。
霊界に移動出来るようになったこと。
永遠に存在できること。
そちらに行くか行かないか。
それを確かめていく。
「出来るなら、国ごと移行したい」
それがトモルの考えだった。
「生活のために働く必要がなくなる。
そちらに行きたいというなら希望をかなえる」
トモルとしてはそういう事に悩む必要を無くしたい。
それを望むならば、そういう者も連れていきたかった。
自分だけが楽をするのではなく。
「手を出す事も難しくなるかもしれない。
そうなると助ける事も出来なくなるかもしれない」
これが気がかりでもあった。
霊体になる、霊界に行く。
そうなると、現実世界に手を出しにくくなる。
全く何も出来ないわけではない。
だが、接点が薄くなるのは避けがたい。
今までのように、助け合いながら生きていくのも難しくなる。
「だから、望む者は霊界につれていく」
そうする事で、現実での騒動に巻き込まれる者を減らす。
そう提案していく。
「ただし、無理して移行する必要はない。
望まないなら残るのも自由だ」
強制もしないでいく。
「どのみち、死ねば必ず行く場所だ。
急ぐ必要もない」
これもある。
どのみち人は必ず死ぬ。
生命体もいつか死ぬ。
無機物も、いずれ崩壊する。
なので、無理して死後の世界に移動する必要は無い。
時間はかかるが、再び巡り会えるのだから。
「ただ、俺はこっちでやる事は全部やった。
向こう側に行く」
それもまた伝えていった。
それによって、トモルの介入がかなり減る事。
どうしても直接手を出せなくなる事。
これもあわせて伝えながら。
それを聞いて人々の反応は様々に分かれた。
あの世に行くか、この世にとどまるか。
その利点も問題点も聞いて色々と考えていく。
考えてどうするか決めていく。
大半はこの世に残る事になった。
永遠に続く世界といっても、それがどんなものか分からないからだ。
分からないから、どうしても警戒をしてしまう。
本当にそんな風になってるのかと。
健全な警戒心だ。
それに比べれば小数となる、移住の希望者達。
これらは次々に霊界へと移動していく。
そのほとんどは、家族ごとだったり仲間ごとの移住となった。
やはり、つながりのある者達との縁は断ち切りがたいようだ。
その一方で、個人で移住を望む者もいる。
天涯孤独だったり、一人でいるのが好きだったり。
そういった者は周りを気にする事無く、自分の求める道を選んでいく。
いずれも一人一人の意思や気持ちを可能な限り尊重した。
ここで気持ちを踏みにじれば、必ず問題に発展するからだ。
そうした確認をして、希望者を霊界に移住させていく。
融合した科学と魔術を用いて、肉体を霊体に変換していく。
そうして人々は、現実世界から霊界へと移住をしていった。




