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5回目 お前が全部悪い、それが全てだ

 掴みかかってきたタケジの腕を、トモルは両手で握った。

 無駄な抵抗を、と思ったタケジは意に介す事なく殴りかかっていく。

 だがその動きはすぐ止まる。

 掴まれた腕から走ってくる激痛によって。



「ぎゃあ!」

 腕からかけのぼってくる痛み。

 それは今まで味わった事の無いものだった。

 悲鳴をあげてタケジは、その痛みから逃げようとする。

 しかし、その動きのせいで体に無理が余計にかかってしまう。

 腕の痛みが更に強くなってしまう。



 痛みから逃げようとする。

 それが体に無理のある体勢になってしまう。

 その不安定さから逃げようとすると、痛みが襲ってくる。

 関節を完全に極められてるせいだ。

 どこに体を動かしても、必ず痛い思いをする。



 それを振り払いたいがそうもできない。

 トモルが掴んだ腕を外さないからだ。

 しっかりと腕を握ったトモルは、タケジを決して離しはしない。

 おかげで苦痛が延々と続く。



(なんで?!)

 悲鳴をあげながらタケジは疑問を抱く。

 力では勝ってるはずである。

 なのに、トモルの手をふりほどく事が出来ない。

 それが、関節を極められてるせいだとは分からない。



 痛みから逃げようとして、無意識に無理な体勢をとらされてる。

 そのせいで普段ほど力が入らないのだ。

 力を入れようとすると激痛が走るというのもある。

 理由を説明すると、こういう事になる。



 だが、子供のタケジにそんな事が分かるわけもない

 そもそもタケジは頭が働く方ではない。

 ものを知ってるわけでもない。

 年齢相応の子供だから当然である。



 ただひたすらに痛い思いをする。 

 訳の分からない状態に追い込まれ、ただ混乱するしかない。

 当然ながら、現状を覆す事は出来ない。



 そんなタケジの腕が更に極まっていく。

「ぎゃああああああああ!」

 悲鳴をあげるもトモルは容赦しない。

 逃げることも出来ない状態で、タケジを地面に叩きつけた。

 頭から地面に、一切の容赦なく。



 全体重が地面にぶつかり、頭を激しくゆらす。

 タケジはそのまま白目をむいていった。



 兵士との訓練を続けているトモルである。

 教えてもらってるのは刀剣などの扱い方だけではない。

 他にも、いくつかの技も教えてもらっていた。

 それらは基本中の基本であり、そう高度なものではない。



 だが、基本だけにおぼえやすい。

 すべての技の土台になるという事で何度も反復していた。

 今回タケジに使ったのは、その中にある素手戦闘術だ。



 単純な拳による突きや蹴りもある。

 投げ技や関節技もある。

 それらを使えば、力はあっても技術のない子供をしとめるのは簡単だ。

 もちろんトモルは、その全てをしっかり身につけてるわけではない。

 まだ兵士に比べればつたない。

 文字通りに児戯のレベルである。

 だが、その動きはある程度は体に馴染んでいた。

 おかげでタケジは、地面に頭から投げつけられることになった。



(すげえな)

 トモルもこの結果に驚いていた。

 兵士相手ではろくに効果もなかったからだ。

 相手はプロなんだから当然ではある。

 しかし、何も知らない子供相手には最大の効果を発揮してくれた。



 今回使ったのは、関節を極めてからの投げ技だ。

 相手の体を極めて受身がとれないようにする。

 そうしてから地面に叩きつける。

 受身を知ってなければ危険極まりない。

 受身もろくに知らないタケジは、頭から地面に落とされた。

 自分の体の重さそのものを威力にさせられて。



 そうして、地面と衝突させられた。

 今まで体感したことのない重い衝撃を頭に受けた。

 意識を保てるわけもなく、そのまま気絶していく。



(さすが、実戦で使う技)

 トモルもそれを見て驚いた。

 思ったよりも簡単に技がきいた事に。

 想像以上に勢いよく地面に叩きつけられた事に。

 こんなに効果があるのかと思ってしまった。



 スポーツではない、殺し合いのための技のすさまじさを実感する。

 だが、感動してばかりもいられない。

 地面に頭から落ちたタケジをどうするか。

 今は失神しているが、今後の事を考えると面倒ではある。



 何せ、どんな屑でも庄屋の息子。

 なまじ影響力のある家の人間だ。

 今後の処理が面倒である。

 非がタケジにあるのは明白なのだが。

(それだけじゃ済まないよなあ)

 大人や社会の力関係がそこに絡んでくる。



(でもまあ、まずは周りの皆を……)

 とりあえずこの場に居た子供達を見る。

 そいつらは呆然として倒れたタケジを見ていた。

 それらに声をかけていく。

 口裏をあわせのために。

 それに、はっきりと言っておかねばならない事もある。



「みんな」

 その声に周りの子供達が、トモルを見る。

「これから色々聞かれると思う。

 けど、大人には正直に言ってくれ」

 その言葉を聞いて、誰もが驚いた顔をする。

 てっきり、トモルに都合の良いことを言えと命令されると思ったからだ。

 だが、次の瞬間、その言葉の意味と重さを知る事になる。



「タケジが怖いからって嘘をつくなよ。

 俺が不利になるような事はするな。

 正直に見た事を言うのはかまわない。

 けど、決して嘘はつかないように。

 正しい事を話すように

 絶対にだ」

 その声に全員が背を震わせた。

 タケジの子分のみならず、タケジを恐れてる者達も。



 これからの事を考えて、彼等はタケジに有利な話をしようとしていた。

 しかし、それをトモルに阻まれてしまったのだ。

 嘘(タケジに有利な証言)を吐いたら駄目だと。

 起こった事を正直に話せと。

 それは、タケジとタケジの家を敵に回す事になりかねない。



 タケジが通うこの神社の学校。

 寺子屋みたいなものであるので、私塾と言うべきかもしれないが。

 ここに今後も通うとなると、正直に話すのはかなりの痛手だ。

 特にタケジと同じ集落の者にとっては死活問題になりかねない。

 庄屋を敵に回すというのは、集落にとってそれくらい死活問題だ。



 だが、断ったらどうなるかも怖かった。

 何せ、トモルは領主の息子である。

 その言葉に逆らうのも恐ろしい。

 拒否したら、庄屋以上に危険な相手を敵に回す事になる。



 そうでなくても、タケジを瞬時に叩きのめした実力者である。

 それが実際に目の前にいる。

 接触できるところにいるというのも怖い。

 子供ながらに感じ取っている。大人同士の力関係よりも恐ろしい。



 子供達はここではっきりと突きつけられたのだ。

 真相トモルをとるか、嘘八百タケジをとるか。

 二者択一である。



「いいね?」

 トモルの問いかけが答えを強制する。

 それは、沈黙によってうやむやにしようという考えを取り上げる。

 ここでしっかり返答しなければ今後どうなるか…………それを全員が考えた。

 皆、黙って頷いていく。

 しかしトモルは、

「返事は?」

と聞いていく。

 黙っているのは、沈黙は許さないと言わんばかりに。

 実際、どれだけ頷いても沈黙などトモルは認めるつもりはなかった。



「はい……」

「うん……」

「分かった……」

 それを聞いてトモルは笑顔をうかべた。

 誰もがその笑顔を見て、背筋を震わせた。



 それからは結構大変だった。

 神主をはじめとした大人が駆けつけてきて、のびてるタケジを見て驚いていく。

 何があったのかを周りの者達から聞き、トモルとの一件を聞いて更に驚いていく。

 さすがに放置するわけにもいかない。

 領主と庄屋の子供が絡んでるのだ。



 神主がそれぞれの親に連絡をとり、一度神社に出向いてもらうよう促した。

 また、その間に目撃証言を集めていく。

 そのために子供達から話を聞いていく。

 当然といえば当然の対応である。



 だが、そうしていく中で子供達の証言に少しばかり違和感を覚えていった。

(いつもと違って、タケジに有利な事を言わないな……)

 こういう場合、たいていはタケジに有利な話が出てくるものだ。

 そうするようタケジに言い含められてるのは、大人達には分かっている。

 そうせざるを得ないのだろうと。

 だが、今回はそれがない。



 子供によっては多少タケジよりだったり、トモルよりだったりはする。

 しかし、全体的な発言は、見た事をそのまま伝えてると感じられた。

 なんというか、公平というか素のままの言葉という印象を受けていく。



(やっぱり、領主の子供が絡んでるのは大きいのか?)

 神主達はそんな事を思った。

 今まで庄屋の息子だからと、タケジが幅を利かせていたが。

 対抗しうる存在が出てきたのは大きいように思えた。

(これはいいな)

 神主も、他の大人たちもそう思った。



 神社の者達もタケジには手を焼いていた。

 どうにか出来ないかと思っていた。

 しかし、庄屋の子供という事で、どうにも出来なかった。

 なのだが、どうやら対抗できる存在が出てきた。

 話を聞いていた者達はそう思った。



 そしてそれぞれの親がやってきて、事の次第を伝えられていく。

 あらためて事情を聞いた双方の親は、なかなかに面倒な事になったと思っていた。

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