488回目 本格的な隣国との戦争 3
戦争の形は様々だ。
相手を殲滅する、制圧する。
それが戦争、それが戦争の目的。
だとするならばだ。
それは何も軍勢を繰り出す事だけではない。
計略や謀略によって相手の国を混乱させる。
暴動や事件を多発させる。
国力を低下させる。
国民一人一人のやる気を消して、生産性を落とす。
こういった事も戦争の手段になる。
どれをとっても、相手国を衰退させる事になるのだから。
そもそもとして、軍勢の役割も敵の排除である。
相手に国を衰退させる事にある。
その為の手段が軍勢か計略・謀略になるかの違いだ。
また、軍勢も敵が衰退してから動かした方が効果が高い。
最終的に武力制圧になるにしても、事前の準備として計略・謀略は有効だ。
この事前準備も含めて、戦争と呼ばれるものと言えるだろう。
そう考えれば、今のヒライワツミ王国は戦争状態に突入している。
隣国との熾烈な争いをしている。
国力の低下や衰退を巡った争いをしている。
これが進んでどちらかの力が大きく落ちれば、次は軍事侵攻になる。
「それが敵の狙いなんでしょう」
トモルはそう考える。
「軍勢の強さでは、我々の方が大きく上回ってます。
それを覆すのは難しい。
ならば、我々の国力を可能な限り低下させる。
そうして軍勢の動きを落としていく」
「その上で侵攻か」
「その通りです」
タカヤスの声に頷く。
たとえ優秀な武器があっても、それを使えなければどうしようもない。
武器や弾薬の補充がなければ、銃器も無駄になる。
燃料がなければ、自動車などは動かない。
それらの供給が滞るだけでもいい。
動きは大きく制限される。
そうなれば多少は勝ち目も上がる。
剣と弓矢と魔術でもどうにか勝てる可能性が出てくる。
「敵が狙ってるのはそこでしょう」
その為に、後方攪乱を行なっている。
工場が、輸送が滞ればいい。
そうなれば、軍勢への補給や補充が滞る。
国民が戦争に反対と叫べばいい。
侵攻されても戦う事を国民が拒否すれば、防衛は難しくなる。
そうなるように教育する、洗脳していく。
それによって、国としてまとまった行動が出来なくなる。
「それを狙ってるんでしょう」
戦争の準備としてはなかなかだ。
戦わずして有利な状況を作り出そうとしている。
何の対策もしないでいたら、ヒライワツミ王国は戦う力を失っていただろう。
実際、国内の敵勢力から手に入れた情報などからそれがうかがえる。
隣国が侵攻を開始したら、反戦運動を行うようにと。
「ようは、国内で暴動を起こす。
それで前線に向ける戦力を減らす。
そんなところでしょう」
治安機関だけで対処出来るなら良い。
しかし、それが各地で大量に起こったらどうなるか。
場合によっては軍を差し向けねばならなくなる。
「そうなったら、前線の兵力も減少。
戦闘力の低下は避けられません」
また、隣国が攻め込んだ場合の対応も指示されている。
もし隣国が攻め込んだら、この軍勢を歓迎するように。
そう動くよう指示が出されていた。
「軍勢に抵抗する事無く従い、無駄な争いを起こさない。
それだけで、侵攻は円滑に進みますからね」
現地人が協力的なら、侵略者は助かる。
その為にも、独立の意思など持ってもらっては困る。
「そこも徹底的に潰そうとしてたようです」
様々な手段を使って、戦争を有利に進めようとしている。
その事がしっかりと伝わってくる。
敵はかなり本腰を入れて暗躍をしていた。
「どうすればいい?」
タカヤスは尋ねる。
この状況を打破する方法を。
「戦争」
トモルの答えは短いものだった。
「ここまでされてるんです。
もう、攻め込んで滅ぼした方がいいでしょう」
「それしかないか」
「他に思いつきません」
もうここまで来てるのだ。
やるしかなかった。
そうして相手を壊滅させるしかない。
でなければ、この状態が延々と続く。
それはそれで効率が悪い。
諜報戦に人も金も手間も注ぐ事になる。
「そうしない為にも、戦争です。
それで敵を殲滅します」
攻撃してくるなら、そいつを殺すしかない。
そうすれば、二度と煩わされる事はない。
「やむをえんか」
タカヤスも腹をくくる。




