483回目 一極集中から、全体の底上げへ 9
他の領域からのモンスターの巣の駆除。
これにより得られた恩恵は大きい。
何はなくとも、他勢力の力を大きくそぎ落とす事が出来た。
これにより、貴重な時間を稼げた。
とはいえ、それも限界がきている。
隣国はどこも勢力を盛り返してきた。
すぐに攻め込んではこないだろう。
しかし、いずれ戦争になる可能性は高い。
その時期が早いか遅いか。
それはまだ分からない。
トモルとしては、出来るだけ先延ばしにしたかった。
まずは自分の領域を拡大したい。
産業基盤を拡大したい。
そうして、より強固な社会を作り上げたかった。
その為にも、開拓をすすめ、人の住める場所を建築する必要がある。
どんなに短く見積もっても、何年もかかる事業になる。
戦争なんぞやってる場合ではない。
そっちに資源や人手をとられるなど冗談ではなかった。
「まーだ冷戦を続けていてもらいたいな……」
偽らざる本心である。
国境でにらみ合ってる分には問題ない。
それだけで済んでくれるなら、人も資源もとられる事は無い。
せいぜい、国境沿いに陣地や要塞を作る手間がかかるだけだ。
それくらいは、仕方の無い経費として割り切る事が出来る。
幸いにも、現段階では戦力差が大きい。
火縄銃や大砲を配備しているヒライワツミ王国の方が有利だ。
隣接する全ての国を敵にしてもだ。
防衛戦に徹するなら簡単に撃破出来る。
それに、鉄道による迅速な輸送。
気球や飛行船による、空からの観測。
これらがもたらす優位性も戦闘を有利に進めていってくれる。
仮に戦闘が起こったとしても、ヒライワツミ王国だけで当面は対処出来る。
まだそれだけの戦力差がある。
いずれそれも縮んでいくだろう。
だが、それは何年も先だ。
このあたりは安心できる材料になっている。
それでも戦争の可能性は否定できない。
あり得ないとは言い切れない。
まさかそんな事は無いだろうというが起こるのが世の中だ。
『あり得ないこそ、あり得ない』というのは、胸に刻むべき警句である。
ただ、あと数年は大丈夫だと思える。
その数年で、ベビーブーム世代が成人し、社会に出る。
それを開拓に投入して一気に拡大拡張をはかりたかった。
しかし、開拓開発には何年もかかる。
大雑把に、ある程度落ち着くまで10年ほどと見積もっている。
となると、この先15年ほどは他に手を回す余裕がなくなる。
それだけの時間があれば、大小問わず、何らかの衝突が起こりうる。
そうなった場合にどうするかが悩みどころだった。
「まあ、悩んでも仕方ないがか」
あれこれ考えるが、悩むのはここで止める事にした。
どれほど先を考えても。
どれほど工作を施しても。
思い通りにいかない事もある。
それについて悩んでも仕方が無い。
「なるようになるしかないもんな」
前世と今生での経験則だ。
そう見越してトモルは、モンスター領域の開拓開発に乗り出す。
迷って悩んでいても仕方が無いと割り切って。




