465回目 忙中閑ありとはいかないから、暇をどうにか作っていく 5
外との戦いも大変である。
しかし、内政もおろそかに出来ない。
揃えねばならない施設・設備・機関が多い。
まだまだ全てがそろってるとは言いがたい。
現段階でもこの世界の水準からすれば絶大な発展をしている。
しかし、トモルの知ってる前世の日本に比べれば色々と遅れてる。
世界はようやく産業革命が終わり、19世紀の終わりの段階にさしかかっている。
とはいえ、それがトモルの領地全体に拡散してるというわけではない。
まだこの世界の水準にとどまってる地域は確かにある。
地域格差が大きい。
これはどうしようもない事ではある。
使える資源や資本に限りがあるからだ。
その中でやりくりしなくてはならない。
どうしても、まずは一カ所の開発に集中する事になる。
満遍なく全体にというわけにはいかない。
それだけの生産力がそもそもない。
水道や下水に電気にガス。
これらを提供しようにも、必要になる器具の生産が追いつかない。
工業力は年々拡大してるのだが。
それでも領地全体に全てを施すほどではない。
作業員や技術者も限られている。
モンスターによるレベルアップでまかなってはいてもだ。
必要な人数の確保にはなかなか至らない。
そんな問題を抱えてるので、どうしても対応が遅れがちになる。
効率よく進めようにも、物も人も足りない。
生産力そのものは増大してるにもかかわらずだ。
全体に行き渡らせるほどの産業規模はまだ出来上がってない。
それでもトモルの領地の首都たる町は発展している。
意図的に集中して開発をしているためだ。
まずは一カ所だけでいい、生活水準も産業水準も高い場所を作る。
そこを拠点にして工業や経済を底上げする。
そうして出来た余裕を使い、他の地域を開発していく。
一時的に地域格差が生まれてしまうが、こうするより他にない。
また、そうして発展させる事で、目に見える見本を作るためでもある。
人間は自分の目でみないと、それがどういうものか分からない。
トモルが言葉で説明しても、それをちゃんと理解できる者はいないのだ。
だから、何を作るのか、どうするのかを目で見える形にする必要がある。
トモルの目指す理想世界の形を。
それが首都にあたる町になる。
完備された社会資本、それによる快適な生活空間。
それをはっきりと示していかねばならない。
それを見た者達が理想とするように。
目で見てしまえば、肌で感じてしまえば後は楽だ。
実体験したものを元にしていける。
「こういうものを作りたい」と言えば通じるようになる。
そうして実際に見た者達を用いて周辺の開発に乗り出す。
その為の第一段階として、首都を開発している。
そこかしこで様々な工事が行われている。
町の姿は一日ごとに変わるほどだ。
しかし、それでもまだトモルの求める水準には届かない。
このままいけば、立派な都市になるのは分かっているのだが。
「時間をかけるしかないか」
そうしていくしかない。
分かってはいるのだ。
どれほど急いでも、簡単に望んだ水準まで発展する事は無いと。
それでも可能な限り急ごうとしてしまう。
焦っていた。
その原因の一つに子ども達の事がある。
今の子どもが15歳の成人を迎えるまで、あと10年あまりといったところ。
その頃にはもう少し高い生活水準にしておきたかった。
しかし、それはまだまだ難しい。
「しょうがないか」
どうしようもないから諦める。
とりあえず、今の段階で出来るところまで進められればいい。
そう割り切って開発を進めていく。
とはいえ、それでもかなりの水準にまで来ている。
一般向けの自動車も販売され出した。
初期型とはいえ、電気やガスもとおり、冷蔵庫に洗濯機にラジオにガスコンロも出来てきた。
道路も舗装されてきている。
電気鉄道も試験的に走りはじめた。
それだけでも他の地域を大きく上回る発展具合だ。
この水準をとりあえず保つ。
それが出来れば御の字だ。
その為にトモルは、今日も差配をしていく。
何をどこに作り、何を壊して撤去するのかを。
最も効率よく進めるために、頭を働かせていく。




