462回目 忙中閑ありとはいかないから、暇をどうにか作っていく 2
「ただいま」
再びそう言って出迎えてくれた女房に目をむける。
メイドとしても働いてるサエ。
出迎えるのは専らこの女房だ。
仕事柄当然ではある。
だが、それでも最も付き合いの古い者が出てきてくれると安心する。
「今日は早かったんですね」
「まあね」
言われて苦笑する。
残業3時間での帰宅が早いという。
それはそれで問題だ。
だが、ここ最近では確かに早い方だ。
さすがにこれは、と思ってしまう。
「まあ、まだまだ忙しい日が続くから。
こればかりはどうしようもないよ」
仕事が忙しい。
定番の言い分けだが、現状では紛れもない事実である。
特にトモルの場合、家に帰れない事だってある。
今日のように、多少遅くても家に戻れるなら幸運と言える。
「でも、無茶はしないでくださいよ」
「分かってる。
分かってるんだけどねえ」
「そう言ってまた無茶をするんでしょ?」
「まあねえ」
「本当に、昔から変わらないよね、そういう所」
苦笑なのかなんなのか。
そう言いながらもサエはうれしそうだ。
メイドとして仕え、トモルの女房でもあるサエ。
彼女は昔トモルに救われた者である。
だからトモルがどういう人間なのかを分かってる。
忙しいのは何かしら仕事をしてるから。
それが誰かを助けるためのものであると。
そういうところに惹かれたのだから、サエに文句があろうはずもない。
むしろ、そうしてるトモルが誇りでもある。
昔と変わらず、誰かのために頑張ってるのが分かるから。
それでも心配は心配だ。
だから、
「無茶しないでね」
と言いたくもなる。
それでも無茶をするしかない。
そういう状態なのだというのも分かってる。
だから止める事もしない。
ただ、
「みんなも心配してるから」
そう伝えるに留める。
「分かってるんだけどねえ」
トモルとしては苦笑するしかない。
そんなトモルが奥の部屋に入ると、
「おかえりなさい」
正夫人であるサナエが迎える。
同じ部屋に控えていた他の夫人も。
「ただいま」
出そろった女房達に帰宅を告げる。
ここでようやくトモルは、名実ともに家に帰る事となった。




