458回目 戦争の終了と、戦争の開始 4
緒戦は腹の探り合いや離合集散になる。
暗躍ともいう。
各地の有力者達は状況を見ている。
さすがにいきなり武力行使という事は少ない。
ただ、派閥の再編は行われていった。
既に最有力と目される者達が、自分の陣営を強化しようとしている。
国王が倒された国の中で主導権を握るために。
藤園の有力者でもあった彼らは、新たな国王をもり立てようという気は無いらしい。
そうではなく、自分が国の頂点に立とうと動いていく。
幸いな事にトモルやタカヤスを糾弾する者はいない。
そんな事をすれば攻撃対象になる。
戦えばどうなるかは明らかだ。
既に彼らはタカヤスとトモルの軍勢の強さを知っている。
それだけの情報収集能力はある。
なので、下手に触れないようにしている。
やれば命が危ない。
そういうわけで、原因であるタカヤス達については何も言わない。
本来ならば、国王への反逆を理由にして、一斉に攻撃する事も出来るのに。
それをやれば間違いなく自分たちが負ける、滅亡すると分かっている。
たとえ勝つにしても損害は大きい。
そうと分かっていて攻撃するほど有力者達は馬鹿ではない。
そんな有力者達は、ひたすら自分の勢力拡大にいそしんでいく。
藤園の本家も倒れた今、彼らを止める者はない。
様々な者達を取り込み、陣営の強化をしていく。
今後に備えてだ。
彼らも分かっている。
今後、より大きな動きが出てくる事を。
おそらく国内での大規模な戦争。
そうなるだろうとは誰もが予想している。
だからこそ、少しでも自分の陣営を強化する。
来たるべき戦争に勝つために。
そんな彼らに新たな国王の姿など見えてない。
そんなもの既にどうでも良くなっている。
彼らは国王や王族の持つ権威を利用していた。
だが、それは藤園本家あってのものだ。
本家が王族に近い立場を利用していたのだ。
そんな彼らにとって国王など既に眼中にない。
「困ったものだ」
新たに即位した国王はそう言ってため息を吐く。
トモル達から事前に打診があり。
国王と藤園の本家を倒すから、それが終わったら国王になってくれと。
何を馬鹿なと思ったが、それでも黙って見ていた。
結果がどうなろうと、戦争が始まる。
そうなれば国内は不穏になる。
それらを少しでも落ち着かせるために。
どのみち、それほど大きな力はない。
自分の王族領を守るので精一杯だ。
トモルの声に応じたわけではないが、黙って様子を見ていた。
それが本当に国王になってしまった。
驚き慌ててしまった。
しかし、なったからにはやるべき事を為そうとしてはいた。
王族の立場として、現状を無視する事は出来ない。
なので、各地の勢力に呼びかけを行なっていた。
王都の事で混乱もあると思うが、静謐を保とうと。
しかし、その声はあっさりと無視された。
「分かってはいたが」
こうなる事は予想していた。
しかし、実際に無視されると悲しいものがある。
ここまで国王という立場は、王族という存在は小さなものだったのかと。
とはいえ嘆いてるわけにもいかない。
やるべき事から逃げるつもりはない。
その後も新国王は出来るだけ各地の者達に呼びかけていく。
静謐を保つようにと。
同時に、自分の王族領の安定をはかる。
せめて手の届く範囲だけでも守るために。
そこに連なる旧氏族とも連携をとって。
「出来る事はこれだけか」
新国王は、己の力のなさを嘆く。
それでも、彼はできる限りの力を尽くしていく。
そうしてるうちに小さな火花が散っていく。
小さな勢力がぶつかり合っていく。
そうして発生した小さな騒動は拡大してより大きくなっていく。
まだ国内全土を巻き込むほどではない。
しかし、それがより大きな混乱と戦乱の呼び水になっていく。




