45回目 寄宿舎伝統の歓迎会に丁寧な迎撃をしていく 3
一方的な蹂躙は休むことなく続く。
上級生達が床にのたうち周り、顔が腫れ上がるまで行われた。
ただでさえ並の人間を超える能力値を持つトモルである。
その能力を魔術で強化している。
そんな状態で攻撃を受けたのだ。
素手であるとはいえ、それで攻撃を受けて無事で済むわけがない。
生きてるのも奇跡と言ってよい。
内臓が破裂し、骨が粉砕されていてもおかしくない。
そうなってないのは、ある程度トモルが手加減したからだ。
それでも、上級生達にとってそれが幸運という事はなかっただろう。
あり得ないほどの激痛に苛まれてるのだから。
「う……」
「うが……」
「ぐ……げ……」
「ひぅ……」
うめき声が床から上がる。
立つ事も出来なくなった上級生達の声だ。
それの中心でトモルは、一人の上級生の胸ぐらを掴んで、相手を無理矢理立たせていた。
相手は足で立つのも難しいほど体をひくつかせていた。
時折痙攣する体は、もう力を込める事も出来ないようだった。
手足もまともに動かせないほど痛めつけられてる。
体の表面に浮かんでる痣を見れば明らかだろう。
それでもトモルは容赦なくそいつに声をかけていく。
「それで、わざわざ夜中に呼び出したのはどういうつもりだ、おい」
「う……」
「なんか用があるから俺らを呼び集めたんだろ。
さっさと説明しろ」
「ぐ……あ……」
「喋れっつってんだよ」
拳が上級生に叩き込まれる。
腹にめり込む一撃。
内臓を壊してもおかしくないものだった。
打ち込むのとほぼ同時で行う回復魔術で致命傷にはならずに済んではいる。
だが、手加減して使われる回復魔術は怪我の全てを治すには至らない。
死にはしないが動けもしない状態を保っていく。
「なんでわざわざ呼び集めた。
さっさと説明しろ、屑ゴミ」
「ひ……」
悲鳴をあげる上級生は、答えを口にする事も出来ずに震える。
痛みと恐怖で喉が引きつって声が出ないのだ。
それ以前に、吹き荒れた暴虐の嵐に気持ちがのまれていた。
上級生達は思う。
おかしい、こんなはずではなかったのにと。
去年も一昨年もそうであったように、新入生をいびって終わるはずだったと。
自分達が新入生の時に受けた恐怖を、今年の新入生も受けるはずだったと。
それがこの学校の、寄宿舎の伝統であり、毎年繰り替えされてきた事だと。
(それが……なぜ……)
彼等は何でこうなってるのか分からなかった。
かつて自分が受けた仕打ちを、今度は他の者にする。
ただそれだけの、当たり前の事をしようとしただけである。
でなければ、自分達だけが一方的に嫌な思いをしただけで終わってしまう。
(そんなの────平等ではない)
自分達が嫌な思いをしたのだから、同じように誰かが嫌な思いをしなければ辻褄が合わないと。
…………その考えが既にしておかしいと思う事すらなく。
トモルに掴み上げられてる者もそんな事を考えていた。
なんで自分がこんな目にあうのだと。
新入生の頃に嫌な思いをして、今また同じように、いやそれ以上に酷い目にあってる。
おかしい、理不尽だと。
だが、あまりの力の差の前に、そんな事を言うことも出来ない。
相手を力で屈服させる事で意を通す事が出来ない。
かつても今も、ただ暴虐に組み伏せられている。
「ふ……ざけるなあああああ!」
どうにかそれだけ叫んだ。
そして泣いた。
そんな事を言えばどうなるかくらいは想像がつく。
それで泣いた。
これから何がどうなるか、自分がどうなるかを想像して。
それでも言わずにはおれなかった。
憤りが、苦しみが涙を流させながら。
そんな上級生にトモルは冷たい目を向け続けていた。




