442回目 王都にいる者たちは 10
ただ、苛烈な手段をとらざるをえない状況でもある。
王位継承権の変更。
それによる国体の変化。
ひいては藤園に王位を奪われる事態。
それを排除する必要がある。
その為に、現国王らの粛清が必要になる。
そしてそれを王族がやるという形をとっている。
王位を守るために王族が立ち上がったという。
それがトモルの強みになっている。
(王族はこっちにもいる)
そう言えるから大義名分も立つ。
これがトモルが先頭に立って行動を起こしていたら、反乱扱いになってただろう。
それこそ国全部が敵に回っていたはずだ。
しかし、今回の旗頭は王族である。
王族が出てきてることで、各地の有力者も下手に動けないでいる。
仮にも……というか、歴とした王族なのだ、逆らうわけにもいかない。
それが辺境の小領を治める程度の末端であってもだ。
なので、どちらにつくか判断がつかず、身動きがとれない者もいる。
そうする事が狙いでもある。
それに、国王らを処断したとしてもだ。
そうしてもタカヤス達に王位が動くだけである。
王族の間で王位が移動するだけという事にはなる。
手段はかなり荒々しいが、それは非常事態故という事にする。
他に手段がないし、時間もない。
そうであるならば、名分も立つ。
もちろん、そうして王位を奪うのもどうかというところ。
なので、王位はとらず、臨時の代理という事にするつもりではいる。
摂政でもなんでもいい。
より的確な者を王位につけるまでの処置とする。
国王達の処分後はそうやっていくつもりである。
もちろんこれで国がまとまるとは思わない。
何らかの動きは出てくる。
トモルとタカヤスに攻撃を仕掛けてくる者もいるだろう。
結局、国が割れる可能性も出てくる。
そこにつけ込んで周辺諸国が攻め込んでくる可能性だってある。
だが、それはそれでかまわなかった。
国全体をまとめられなくても良い。
そうなれば良いのだが、さすがにそこまで出来るとはトモルも考えてない。
今回の戦争で求めてるのは、とりあえず藤園の排除。
それによってふざけた圧力を消す。
そこまでいければ良い。
あとは制圧した地域を安泰にする。
そうして基盤を作る。
そうなれば、他の勢力を制圧する事も出来る。
仮に国土が乱れて戦国乱世になっていたとしてもだ。
まとまった基盤が出来てから取り戻していけば良い。
全土を取り戻すのはそれからでも良い。
介入してきた他国を撃退するのもだ。
今の勢力で出来る事はそのあたりが限界だ。
たとえ装備の面で大きく勝っていても、兵力が足りない。
国の領地全部を制圧するには至らない。
なので、出来る事をやれれば良いと考えている。
トモルとしては自領の安泰。
その為に出入り口になるイツキヤマが安泰であってほしい。
そこが保たれてるならば、外からの圧力を防ぐ事が出来る。
トモルとしてはそれだけで十分だ。
あとはどうなろうと知った事ではない…………というのが本音である。
なので、タカヤス達がどうなろうともかまわない。
極端に言えばそうなる。
だが、さりとて切り捨てるのもしのびない。
利用するだけ利用して、用がなくなったら捨てるのもどうかと思う。
そこまで非情にはなれない。
タカヤス達がトモルに牙をむくならともかく。
都合よく利用したのだ。
ならば利用させてもらった見返りは用意したい。
タカヤス達が何を望んでるのかは分からないが。
それがトモルの利益を削るものでないなら叶えてやりたかった。
全てを成就させるのはさすがに無理だろうが。
なので、タカヤス達が統治する地域の安泰。
それくらいは達成しようと考えている。
トモルの領地の安全確保のためにも、これは必要になる。
モンスターの領域を切り開いて作ったトモルの領地。
そこはどうにか安定させておきたい。
安全地帯の確保をしたいというのもある。
何せ、モンスターに周囲を囲まれてるのだ。
かなり切り開いており、人里近くに出てくるモンスターは減ったけども。
それでも危険地帯である事に変わりはない。
ここで更に背後まで脅かされてはたまったものではない。
その背後の安全を確保するためにも、タカヤスの治める地域を不動のものにしたかった。
だが、それもまず目の前の戦闘を終わらせてからだ。
敵軍を倒し、王都と王城を占領する。
それが出来なければどうにもならない。
この先の問題について悩むのはそれからだ。
「がんばって勝たないと」
そう思いながら王城をあとにする。




