441回目 王都にいる者たちは 9
「まあ、予想通りだな」
城内の様子を探るトモルは、そうつぶやいた。
軍勢から離れて先んじ、単独で行動して王都内に。
既にその身は王城内部にすら入っていた。
トモルの能力をもってすれば造作も無い。
そんなトモルの目には、慌てふためく王城内の様子が手に取るように分かる。
直に目にし、耳を傍立て。
魔術も使って状況を見聞きしていく。
その感想は、
(まあ、酷いもんだ)
この一点につきる。
劣勢が伝えられてるのだろう。
誰もが戦々恐々としている。
状況に流されずうろたえない者もいるにはいる。
だが、大半はどこか表情をこわばらせ、今後を心配している。
そんな中、秘密裏に行われる国王の脱出が画策されていく。
予想の内ではあるが、実際にやられると面倒である。
このままでは国中を逃げ回り、引っかき回されてしまう。
なので、
(ここで逃がすわけにはいかないんだよ)
すぐに動き出す。
逃げるのを捕まえるのは簡単だ。
トモルと相手とでは力に差がありすぎる。
足を止める事など造作も無い。
見つけた抜け道を潰し、逃げ場を無くす。
建物も破壊し、出口や窓を塞ぐ。
地面を隆起させて壁を作って閉じ込める。
それくらい簡単にできる。
「なんだ?!」
脱出しようと思っていた国王達は仰天した。
それもそうだろう、何せ逃げ道の全てが塞がれたのだから。
「何が起こってる!」
すぐに周りに問いただす。
それに応じて、側近達が指示を出していく。
起こってる事の確認のために。
「周りが全て塞がれてます!」
「なんだと?!」
確認に行った者達の報告に国王も側近も大声を出す。
「城の周囲は盛り上がった土で覆われております。
石のように硬く、掘り進めるのも難しいです」
「な…………!」
あまりの事に二の句がつげられなくなる。
程なく国王達は理解する。
自分たちが城に閉じ込められた事を。
逃げ道が塞がれた事を。
「とりあえずこんな所か」
まだ油断は出来ないが、これで逃げられる可能性は減った。
もっとも、仮に逃げたとしてもだ。
トモルの能力を用いれば居所を掴む事は出来る。
捕らえる事も難しくはない。
このまま逃がしてしまっても、そう大きな問題にはならない。
ただ、手間が大きくなるのも確かだ。
そうなるくらいなら、ここで捕獲しておいた方が良い。
「あとは……」
暴れられても面倒になる。
起きてる人間を次々に眠らせていく。
そうしてから、何人かの精神を支配していく。
そうした者達は起きだして他の者達を拘束させていく。
手錠や枷などをはめていく。
そうして城内の人間を拘束していく。
それが終われば、動かしていた者達同士で縛り上げさせていく。
動いてる者達は半分に分かれてもう半分を縛っていく。
それを繰り返し、残り一人になったものを、トモルが縛りあげる。
それで王城の制圧は完了した。
(面倒だよなあ)
最初からこうしておけばそう手間もかからなかっただろう。
だが、国の制圧を目指すとなるとそうもいかない。
単に殲滅壊滅するだけでは駄目なのだ。
最終的に処分するにしても、生かしておかねばならない者達もいる。
それらはまだ確保しておかねばならなかった。
王位の継承やら何やら。
色々と手続きや手順が必要になる。
それを大きく無視してやっているのが、今の戦争ではあるが。
この戦争を終わらせるためにも、とりあえず国王達は必要だった。
「あとは、ここを攻め込ませるだけか」
縛り上げた国王達を見て呟く。
王都まで攻め込んで、王城を制圧。
そうしてから国王とその他枢要にいる者を捕縛。
それから政権交代になる。
現国王とその一家と一族。
その縁者などは斬首となる。
そうして目に見える形で示しておかないと、後々の面倒になる。
「本当に、面倒くさい……」
つくづくそう思った。




