44回目 寄宿舎伝統の歓迎会に丁寧な迎撃をしていく 2
「おい」
手近にいた上級生に声をかける。
相手が何かを言う前に、返事をする前に、こちらを見るまえに手を出す。
既に強化魔術を自分にかけている。
知覚・運動能力などは向上した状態だ。
それも何回か重ねがけがなされてる。
そんな状態で拳を叩き込まれたのだ。
12歳の少年が耐えられるわけがない。
軽く、ぐるんと腕を振るっただけの攻撃で、少年は壁まで吹き飛んだ。
かなり勢いよく。
派手な音がする。
重い物が壁にぶつかったような。
それなりの背丈と体重のある子供が叩きつけられたのだから当然である。
それを見ていた者達は目を見開いて驚いた。
音に驚いてそちらに目を向けた者は、何が起こってるのか分からなかった。
だが、理解が出来なくても問題は無い。
すぐに我が身をもって知るのだから。
何があったのかを。
「クソガキが舐めた真似してんじゃねえ」
そう言ってトモルは行動を開始していった。
やる事は単純明快。
その場にいる上級生を例外なく全員叩きのめす。
音頭を取ってる偉そうな奴は念入りに叩きのめす。
それだけだ。
村でモンスターを相手に暴れていたトモルにとっては造作もない。
最下級とはいえ、人間を殺すだけの力をもった存在なのがモンスターだ。
それを経験値の餌として日夜狩り続けてきたのだ。
人間の子供など、それに比べればとるにたらない存在である。
それらを相手にするのは、もう戦いでも喧嘩でもない。
一方的な蹂躙であった。
そこは寄宿舎の広間であった。
建物の中にある、入寮生が集まる事が出来る場所だった。
寄宿舎における行事や会合などで使われる場所であった。
そこでこの夜、毎年恒例になってしまっていた新入生虐待が行われる予定だった。
しかし。
今そこで宙を舞ってるのは新入生ではない。
叩きのめされてるのは新入生ではない。
涙をにじませ這いつくばってるのは新入生ではない。
この寄宿舎にいる入寮生の最上級生。
この一年、寄宿舎で最大最高の権威を持つはずの者達だった。




