433回目 王都にいる者たちは
「なんという事だ」
絶望的な声があがる。
もたらされた情報は、そう言わざるえないものだった。
「陥落したか……」
そう言うのが精一杯だった。
イツキヤマからの侵攻。
それは既に王都にもしれわたっている。
末端とはいえ王族が起こした反乱という事で。
あまりの事に王都にいる王侯貴族は唖然となった。
とはいえ、起こってしまった事は仕方がない。
鎮圧のためにすぐに動きが起こっていった。
さすがに彼らも悠長にはしてない。
放置するわけにはいかない大事なので、迅速に対応していく。
まがりなりにも国政を担ってるだけはある。
だが、それも後手後手にまわってる感はいなめない。
県が制圧され、州が陥落した。
にもかかわらず、王都にいる者たちの動きは遅い。
軍の集結にせよ、情報収集にせよ。
イツキヤマ方面への慰撫にせよ。
何にしろ後手に回ってしまっている。
これは藤園とそれに与する者たちの責任とばかりはいえない。
確かに要職にこれらが配置されている。
能力を無視して一族を優先し、それが機能不全を起こしてる。
それも確かにあるのだが。
それにしたって、本当に使えない者を配置してるわけではない。
腐っても貴族である。
しかも国政の中枢を担ってるのだ。
子女の教育に手抜かりはない。
相応の教育を受け、それなりの成績をおさめている者は多い。
持って生まれた性質や性格はともかくだが。
能力や知識・技術などにおいては、それなりのものをほこっている。
そうであっても問題を起こす者もいる。
それどころか、藤園一族全体で問題を起こしてるともいえる。
だが、それであっても、普段はそれなりに仕事をしている。
組織全体での動きはそれほど悪いものではない。
その全てが褒められたものではないにしてもだ。
問題のある部分が適切に動いてないというのは確かだ。
それ故に対応が遅れている部分も出てきている。
だが、これはあらゆる組織が抱える問題だろう。
常に適切な人間が配置されているわけではない。
可能な限り問題のある人間を排除してもだ。
それでも適切な人間が適切な場所にいるとは限らない。
それを踏まえて、組織は可能な限り最善の結果を出せるようにするべきではあろう。
それが実現できれば申し分ないのだが。
しかし、できないならできないで、最悪を回避できるようにはしたいもの。
一応、政府としてそういった事ができるようにはなっている。
それができるだけでも、まずまずよい体制といえる。
今回の反乱。
これが通例通りであれば問題はなかった。
相手が剣と魔術という、この世界の標準的な軍勢であれば。
おそらく、最善の対応はできなくても、最悪の事態にはしなかった。
県ではじまった反乱が州の陥落になる前に鎮圧できた。
それがそうならなかったのは、相手の動きが早すぎた事にある。
そのために対処が後手後手になっていた。
それもそうだろう。
弓や剣、そして魔術で武装した兵と。
全員が銃器を持つ兵。
それがぶつかりあえば、後者の方が強い。
あくまで一般的な兵での話ではあるが。
接近戦しかできない兵と。
遠距離攻撃といっても弓や魔術しかない者たちと。
それらが銃器を持つ兵団とやりあったらどうなるか。
その結果が目の前に出ている。
これが英雄と呼ばれるほどの強者だったらともかくだ。
一般的な兵士の水準だと、銃器を相手にしたら分が悪い。
接近戦しかできない槍や剣では、接近する前に銃弾にやられる。
弓も、有効射程なら銃器とほぼ同格だが。
連射速度や狙いのつけやすさで負ける。
魔術も殺傷能力を持つほどの威力が出せる者は少ない。
それに射程も短い。
銃器に劣る。
そんな者たちが銃器を持った兵団相手にまともに戦えるわけがない。
よほどうまく立ち回らないと損害が増えるだけだ。
一方的な攻撃で終わる戦闘。
勝敗がはっきりしており、なおかつ時間もそれほどかからない。
遠距離からの一方的な攻撃で壊滅するのだ。
戦闘にすらならない。
こうしたわけで、一回の戦闘が短時間で終わる。
加えて移動速度の差が大きい。
自動車によって時速30キロから40キロの速度で移動する。
平坦な道でなければ移動速度は落ちるが。
それでも平均して時速20キロで進軍する。
その移動速度は、これまでの軍事の常識を超えている。
こうした要因によって、王都の者たちは対応を遅らせる事になった。
それは相手の異常な戦闘力による。
戦えば必ず負ける。
移動速度が尋常ではない。
それが全てを狂わせた。
もともと戦力などはこれまでの常識を基に構築されている。
戦略や戦術もだ。
土台となる情報がある。
それが違っているとなれば。
対応が遅れるのも当然だ。
その結果が、州の陥落だ。
全く予想もできない事態だった。
何せ、タカヤスが動き出してから一週間といったところだ。
半月はかかってない。
たったそれだけの間に、州が一つ陥落した。
ありえない話である。
「どんな手段を使ったんだ…………」
王都にいる者たちは頭を抱えた。
「英雄が手を貸してるのか?」
「大魔術師も動いてるかもしれん」
「だが、いったいどうして?」
「それは分からんが……そうでも考えねば説明がつかん」
「それはそうだが……」
誰もが困惑をしていた。
彼らの言うとおりだ。
レベルの高い、英雄と呼ばれる領域に到達した者。
そうでもなければ、これほどの快進撃をもたらす事はできないだろう。
彼らの常識で考えれば、それも妥当な推論だ。
だが、だとしても奇怪な話だった。
「なんで協力している……」
その理由が分からない。
英雄や大魔術師などと呼ばれる者たちが協力している。
その可能性が今のところ高いのだが。
そうする理由が分からない。
なぜ高レベルの者たちが辺境の王族に加担するのか?
その理由が分からなかった。
「王位継承方法の変更に不満があるのか?」
そうも考える。
彼らの入手した情報。
タカヤス挙兵の理由。
それを考えるに、それが理由であるかもしれない。
だとしても、それがなぜ英雄や大魔術師の心を動かしたのか。
そこが分からない。
「あるいは、他に理由があるかもしれんが」
別の者が口を開く。
「表向きの大義名分はこういったものなのだろう。
だが、真の目的は別にあるのやもしれん」
ありえる話だった。
掲げる大義名分はともかく。
表に出さない真意は別にあるかもしれない。
珍しい話ではない。
そんな事よくある話だ。
単に権力が目的で動いているのだが。
それだと外聞が悪いので、もっともらしい理由をつけるとか。
貴族であるならよくやる手口である。
「だとして」
それでも疑問は残る。
「何が目的だ?
何を求めている?」
真意は何なのか?
それが分からない。
だが、分からないからといって手をこまねいてはいられない。
理由や目的が何であれ、やってる事はかわらない。
王国への反乱。
王都にいる者たちからすればそうとしか言い様がない。
なんとかして鎮圧せねばならない。
「とにかく迎撃せねば」
何はなくともその必要がある。
敵をどうにかして止めねばならない。
そのためにも軍勢を動かさねばならない。
彼らも馬鹿ではない。
異常な進撃速度であっても、それに対応した対策をしていく。
異常な強さも、その理由は分からないが可能な限り対応していく。
何が現時点で最善なのか。
それを考えていく。
そうせねばならないという事は分かってる。
分かっている事を実行する。
それが出来るだけの正気はまだ残っている。
実行できたら、それなりの効果はあっただろう。
しかし、考えがしっかりと実行されるかどうかは別だ。
たとえそれを実行できるだけの能力や道具などがそろっていても。
戦争である。
相手も真っ正面から向かってくるだけではない。
様々な妨害を施してくる。
汚いとかいってる場合ではない。
どんな事をしてでも勝たねばならないのが戦争だ。
存亡がかかっているのだから。
負ければ国がなくなる。
そうなる可能性があるのが戦争だ。
だからあらゆる手段が用いられる。
なんとしてでも勝つために。
それが悪いと言うのも難しいだろう。
それをトモルは仕掛けていた。
土台となる国力の差を少しでも縮めるために。
トモルはこういった事で何一つ容赦はしなかった。
人員や資金不足などで実行できないなら諦めるが。
そうでないなら、あらゆる事をしかけていく。
それにより藤園側は動きをいくらか封じられる事になる。




